本作は嵐によって難破した船から孤島に漂着した少年が、その島にある塔の最上階をパズルを解きながら目指すという異色のパズルアドベンチャーだ。そのうえ、塔の最上階を目指すその動機や理由は一切語られないまま、物語は進んでいく。そのアートも相まって非常にミステリアスかつ風雅な作品である。

「RiME」は横スクロールゾンビアクション「Deadlight」を手がけたTequila Worksが開発陣に加わっている。それがまさかこのように美しく、叙情的な世界を描いただなんて信じられない、と最初は思った。しかしそういった感情はすぐに消え失せ、杞憂に終わった。何故ならプレイ開始直後から分かるプレイフィール、アート、サウンドが一流の美を体現しているからだ。

本稿では「基本的なプレイフィール、アート、スコア(音楽)、パズル自体の出来不出来、その他のエレメント」という区分けを行い作品評価を行う。

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本作のプレイフィール

基本的なプレイフィールはアクションのそれだが、使えるアクションはストレスを与えずに心地よいフィーリングを与える。このため、長時間プレイも難なく出来てしまう。ジャンプしたり、ドッジロールをしたりするアクション、そのモーションが優れているため無闇にジャンプしてしまうこともしばしばだ。

また、プレイヤーが取れる行動はジャンプ、ドッジロール、声を出す、調べるのたった四つしかない。たったそれだけで質の高いパズルアクションを実現している。そして島を自由に冒険するといった形になるので自由度が高い。それ故に迷子になることもしばしばで、それは視界の悪い水中の探索で顕著に起こる。後述するアート面が優れているので許容しうるが、結局はプレイヤーの受容が試されることは確かだ。

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アートとスコアについて

アート面ではトゥーンシェードを採用し、何処か牧歌的な印象を与えることに成功している。これによりパズルゲーム特有の緊張感が廃されているのだ。また、地上と水中でアートが異なるよう設計されているので、その切り替わりには感嘆の吐息を漏らすだろう。それに時間経過の概念があり、昼と夜ではまた異なった世界の美しさを楽しめるのもポイントだ。しかも終盤になるとアートの方向性もがらりと変わり、とことんプレイヤーの目を飽きさせない。

サウンドスコアに関しては、非常に美しい旋律のアンビエントミュージックを主体にし、プレイへの没入感を与えることに成功している。終盤にかけて流れるオーケストラサウンドは非常にドラマチックだ。そして主人公の少年は歌を歌う、ハミングを行うこと(なんと通常コマンドでだ)も出来るが、その声も美しい。

パズル自体の品質

論理的思考よりも直感や閃きを要するパズルは、本作品が台詞なしの作品であることと幸福な共犯関係にある。本作に登場するキャラクターは一切の台詞を持たない。パズルは閃きによって理解することが多い。直感的なパズルの解法とは、非言語による解法で、それは頭の中に完成図が思い浮かぶような解法だ。論理的に考え理屈を構築して行う解法とは違っている。

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しかしながら本作は違う。直感的にパズルが分かる

「分からない」というストレスを「パズルを解く」事で解消し、カタルシスを得る、というのがパズルゲームの基本的な魅力と言えるだろう。

しかしながら本作は違う。直感的にパズルが分かる。分からなくても色々と試しているうちに解けてしまう。そのうえパズルが解けたときの演出が美しいのでカタルシスよりも驚き、感嘆が先に来るのだ。これをもってしてパズルゲーム初心者にお勧めの作品といえる。なぜ直感的なパズルだといえるのかというと、言葉や文字によって本作のパズルが成り立っていない点に答えがある。知識や知恵を巡らせるというより、直感的に何が起こるのかを閃く事で、本作のパズルは打開されていく。難易度曲線も巧みで、終盤ともなればややこしいパズル(イコール難しいとは違う)が登場する。だが時間と閃きさえあれば解けてしまうので、総体としての難易度はそう高くない。

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プレイヤーの好奇心を強く揺さぶるためプレイを牽引する

本作を強く牽引するのは上質なパズルだけではない。それはこの世界、舞台の「謎」にある。

何の目的で作られたのか分からないオブジェクト、主人公と同じく赤いローブを纏った、現れては消える不審な人物、舞台となる島に何があるのか、なぜ少年が歌うと反応するオブジェクトがあるのだろう、そもそも少年は何者なのだろう……それらはプレイヤーの好奇心を強く揺さぶるためプレイを牽引する。よって途中でプレイをやめるタイミングが掴めないという嬉しい悲鳴を上げることになる。

プレイを途絶えさせないというのはおそらく開発陣も意識していただろう。チェックポイントセーブがいつ行われたか非常に分かりにくく作られているのがその根拠だ。セーブされましたといった表示が全く目立たないのである。しかしながらチェックポイントの配置は絶妙で、ゲームオーバーになってもすぐにその直前から再開出来る点は非常に優れている。またパズルの配置ペースもその根拠の一つである。

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インゲームにおいてキツネと共に歩む場面はほとんどない

キツネと共に力を合わせながらゲームを進める、という宣伝は実際の所、いささか誇張されているという点は気をつけるべきだろう。何故ならインゲームにおいてキツネと共に歩む場面はほとんどないからだ。あっても進むべき道を少々先導してくれるくらいなのである。ゲームのほとんどにおいて、主人公一人で進行しなければならない。ただしキツネの造形やしぐさが可愛らしいのは全くもってその通りだ。

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この作品を支えるムードは台詞や言葉に依存しない点にある。言葉にならないもの、言葉にすべきでないものを重視している。それ故、想像力をかき立てられる。よって訪れるエンディングも感受性を刺激されるようなエンディングだが、悲劇か喜劇かはさておいて、心を揺さぶられるものに間違いない。