さらに本作のホラー部分に最大の貢献をしているのは音響表現であるだろう。不気味な夜の学校の環境音をベースにしながら、様々な怪異の出現を音とともに伝える。その恐ろしさはホラーゲーム史上に残るほど巧みなもので、本作で登場する怪奇はその見た目よりも音の方がよっぽど怖い。生理的に怖いのだ。あまりにも不気味すぎて、音源の方向に向かう勇気が萎えてしまうほどだ。台湾の作曲家WeiFan Chang(張衞帆)が手がけたこれらのサウンドトラックはホラー要素以外でも素晴らしい効果を上げている。伝統的なアジアの楽器を利用しながら、おどろおどろしいアンビエントや時代の雰囲気を表す台湾ポップス、さらにエモーショナルなインストゥルメンタルと一貫した雰囲気を作りながらも幅広いBGMをチョイスしているのだ。また一部の音楽はゲームプレイやパズルとうまく融合しており、場面場面に相応しい音響演出が施されている。

そして肝心のストーリーだ。ネタバレになるため、詳細は説明しないが、冒頭で述べた通り、本作はただのホラーではない。確かにホラーゲームとしても十分な評価が与えられることができるが、本作が決定的に優れている部分はプレイヤーに恐怖を与えながらも、60年代の台湾で青春時代を送るとはいかなることかを教えてくれる部分だ。やや踏み込んでいえば、本作は大きく2つのパートに別れており、前半ではレイが学校から脱出しようとするホラーパート、後半は前半で与えられた謎が徐々に明らかになり、また別の意味でのホラーが展開していく。この後半部のシュルレアリスティックで内省的な雰囲気と物語の収斂は極めて巧みだ。

返校 -Detention- レビュー

物語の結末はもちろん伏せるが、当時の台湾の状況を考えればなかなかリアリティのある話だ。物語の核心に迫ることで、プレイヤーは最初に出会った恐怖が表面的なものであることに気づく。確かにゲームプレイそのものも怖い。しかし、本当の恐怖はオカルトや怪奇現象といった非現実的なものではなく、我々の現実世界、社会、そして学校に潜んでいると本作は教えてくれる。本作にはエンディングが複数あるが、いずれにせよエンディング自体は後味の良いものではない。しかしながら、そこまで至る過程を全体で俯瞰するならば、ホラーでありながら青春小説のような味わいがあり、なおかつ政治や歴史を体験させてくれるという意味では他の作品では得難い感慨を与えてくれる。ストーリーテリングや物語の描写は完璧とは言えないが、ビデオゲームというメディアで何事かを成し遂げようという志の高さは評価に値するものだ。