韓国産のゲームというとやはりMMOを思い浮かべる人が多いだろう。しかし「WHITEDAY~学校という名の迷宮~」(PS4版をレビュー)は韓国のROI Games(社名は現在Sonnoriに改名している)というデベロッパが開発した完全一人用のホラーゲームであり、さらにはちょっとした恋愛アドベンチャー要素までもが含まれている一風変わった作品だ。8月下旬の発売はそのタイトルからするととんだ時期外れだが、夏の終わりのもうひと恐怖と考えれば悪くない。

本作は主人公・山本勇人が、メインヒロイン・四宮しずくへ忘れ物とホワイトデーの贈り物を渡すために夜中の学校へと忍び込むところから始まる。ただ物を渡すだけの単純な用事だったはずが、扉は固く閉ざされ外へ出ることができない。そんな最中、校舎を巡回する守衛が残っていたほかの生徒を容赦なく鈍器で撲殺し、引き摺り去っていくのを目撃してしまう。予想だにしない事態に困惑しながら必死に出口を探すも、次々と巻き起こる怪奇音や霊的現象が着実に精神を蝕んでいく。そんな危機的な状況をプレイヤーはヒロインたちと助け合いながら脱出を目指すこととなる。

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丁寧なローカライズと評するには一歩及ばない。とはいえこのローカライズのお陰で生粋のJホラー作品として作られたかのように感じられる出来栄えとなっている

日本以外の国でリリースされたものは舞台やキャラクター名などはすべて韓国の設定(主人公の名はイ・ヒミン)となっているが、日本版では舞台やキャラクター名、ゲーム内アイテムに書かれた表記もしっかりと日本語表記へとローカライズされ、音声も日本語吹き替えされているので違和感なくすんなりとプレイできるだろう。しかし、字幕と一部台詞がほんの少しだけ違っていたり、台詞と字幕表示の速度がまったく合っていないといった問題もあり、丁寧なローカライズと評するには一歩及ばない。とはいえこのローカライズのお陰で生粋のJホラー作品として作られたかのように感じられる出来栄えとなっている。

本作は主観視点で移動を行う3Dアドベンチャーで、狭い視点以外にも恐怖を生み出す要素が数多く用意されている。ライフは自動回復ではなく、アイテム使用での回復が必要で当然有限だ。音楽家ファン・ビョンギの楽曲も緊張感を高めるのに大きな役割を果たしており、ことある毎に肌を粟立たせる。プレイヤーは迫る敵に対して力で抗う術は用意されておらず、バットを振りかぶって襲い掛かってくる守衛に対してこちらができるのは「逃げて隠れる」のみだ。昨今同様のシステムを採用する作品が増えていることからも分かるとおり、「無力」というのは恐怖心を煽るのに効果的だし、本作においてもそれは一応は良い結果を見せている。この「一応」というのが重要なポイントなのは言うまでもない。

巡回する守衛は次第に「恐怖の対象」ではなく、「苛立ちの対象」となっていく

本作ではマップ上には様々な文書やアイテムが散らばっており、それらに目を通しヒントを読み取り、複数の要素を組み合わせてパズルを解いて進んでいくことになる。謎解きは歯応えのある難易度で、思考を巡らせる時間は楽しいひと時だった。だが、そのパズルのヒントを探すためには校舎の各階を何度も行き来しなければならない。そうなると巡回する守衛は次第に「恐怖の対象」ではなく、「苛立ちの対象」となっていく。守衛はかなり索敵範囲が広く、広場の隅にいるこちらを吹き抜け二階正反対の位置から見つけて猛ダッシュしてくるほどだ。序盤こそ恐怖を感じたが、この異常なレベルの索敵範囲のせいで中盤以降はイラつく相手にしか感じなくなってしまった。

ほかにもぼんやりと浮いて近寄ってくる生首の霊がランダムで出現し、接触するとダメージを受ける。これを避けるためにはダッシュして一定距離離れればいいのだが、守衛から逃れるために音を立てないよう身を屈め隠れている時にも出現して近寄ってくるので質が悪い。

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そして、これらのせいで本作の良い部分である「収集要素」にまで影響が出てしまっている。本作ではストーリー進行に関係のない様々なアイテムが存在し、それらを入手した状態で特定の条件を満たすと「学校の七不思議」が可愛く思える「20の幽霊」を見つけだすことができる。それぞれの幽霊には生まれる理由となったエピソードがしっかりと用意されており、是非ともコンプリートしたい要素のひとつだ。

隠れた要素はじっくりと時間を掛けて突き詰めたいところだが、守衛との鬼ごっこがそれを許してくれない

しかし、各文書や幽霊の出現条件を探し出すのはかなり骨が折れる作業を要する。科学室で疲れ切るまで延々ダッシュし続けたり、複数の校舎に散らばった小さなピンをすべて集めて地球儀の特定の国に刺すなどなど。こういった隠れた要素はじっくりと時間を掛けて突き詰めたいところだが、守衛との鬼ごっこがそれを許してくれない。ストーリーに絡まない幽霊は難易度ハード以上でないと出現せず、なおかつ守衛の索敵も強まる。また、セーブ不可の最高難易度「激リアル」でないと収集要素のひとつ「フィギュア」が入手できない。オマケ要素解放が易しいほうが良いか、難しいほうが良いかは人によるかもしれないが、個人的にはもう少し緩和しても良いのではないかと思う。

作品全体を通して抱いたのは「古いタイプのゲーム」という印象だ。モデリングは前世代初期を彷彿とさせるクオリティや異常な索敵範囲を持つ敵――これ自体は悪いことではないが――ヒントのない隠し要素の数々などがそう感じさせた理由の一部である。本作は元々2001年PC向けにリリースされた作品をベースとしたリメイク作で、上記の理由はこういった古い作品をベースにしていることが一因かもしれない――特に一部のオブジェクトは否が応でも時代を感じさせる――。

もっとコントローラーに最適化された操作性であったならば良い印象を持っただろう

だが、私が最も古さを感じたのは「操作性」にある。今回のリメイク版はPS4/PC版の前にスマートフォン向けにもリリースされており、そちらはタッチ操作で簡単にアイテムへインタラクトできる。対してPS4版はあまり調整がされないままスティック操作に変換しているため、アイテムにカーソルを合わせて選択するという一手間が掛かり、カーソルの判定も少々狭い。その「一手間」がテンポを損ない、ほかの要因と合わさって一昔前のゲームのような印象を抱かせているのではないかと思う。マウス操作のPC版ではまた別だろうが、もっとコントローラーに最適化された操作性であったならば良い印象を持っただろうと感じるだけに残念な部分だ。ちなみに本作は発表当初PS VR対応とされていたが、残念ながらそれは実現しなかった。もしかしたらVRに合わせた調整をそのままにしてあるのかもしれない。そうであればカーソル操作のわずらわしさも合点がいくのだが。

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懐かしき4:3のブラウン管モニタ。OSがWindows Meなのもまた渋い

本筋のストーリーはカットシーンで描かれ、会話中には選択肢が発生する。それら選択によってマルチエンディングとして分岐していく。ヒロイン毎に2種類のエンディング(グッド/バッド)と、メインのしずくのみ3つめのトゥルーエンドが用意されており、それぞれキャラクターの持つ役割に変わりはないものの、結末は大きく変わる。バッドエンドはその名のとおり後味の悪い幕の閉じ方をするものが大半だ。ではグッドエンドでは清々しい終わりを迎えるのか? というと、それがまったくそうではない。ほぼすべてのエンディングでどこか引っ掛かりのある描写がされるという、非常にホラー作品らしい仕上がりになっている。

もっと各キャラクター毎のイベントがあれば良かったとは感じるが、長さとしては悪くない。キャラクターもそれぞれ被ることなく個が立っているのでそれぞれの結末を見たくなるはずだ

個人的に好きだったのは本作唯一の眼鏡っ娘・富永ひかりのグッドエンドで、下手するとしずくよりもヒロインらしい終わり方と言える内容だった。そんなしずくのバッドエンドも最高に後味が悪いので是非一度味わってほしい内容になっている。私の初回プレイは6~7時間程度でエンディングまで到達したが、答えは変わるものの謎を解くために必要な手順は同じなので2周め3周めとさらにプレイ時間は短縮されるだろう。ルート毎に謎解きが大きく変化するわけではないので何度もプレイしているとダレてくるし、それならばもっと各キャラクター毎のイベントがあれば良かったとは感じるが、長さとしては悪くない。キャラクターもそれぞれ被ることなく個が立っているのでそれぞれの結末を見たくなるはずだ。しかし恋愛アドベンチャーを名乗れるほど恋愛要素は強くない。こちらとしてはもっと彼女たちと仲良くさせてほしいんですけど?

WHITEDAY

本作にはどうしても拭えないいくつかの古臭さが染み付いている。価格は安めに設定されているが、前時代的なビジュアルや既にリリース済みのスマホ版を考えると追加ヒロインの存在はあれど少々割高に感じてしまう。しかし、陰鬱な雰囲気を見事に表現した校舎と楽曲、歯応えのあるパズル、どれもが大小フックのある複数のエンディング、数々の収集要素など魅力的な要素も多々持ち合わせているのも事実だ。高い難易度やエンドコンテンツの豊富なゲームを好み、なおかつJホラーテイストが好きなのであれば手に取ってみて損はないだろう。惜しむらくはやはりVRに対応していないことだろうか……。ホラーとVRの相性は非常に良いだけに残念だ。