この世界は混沌としている。おぞましさと共に、どこか可愛らしさが見え隠れするキャラクター。ひとつの建造物でありながら、いくつもの顔を見せる巨大船舶。そして、真相を追い求めずにはいられない衝撃の物語。この混沌こそがこの作品の魅力だ。

本作「リトルナイトメア」(PS4/Steam)は北欧のデベロッパーTarsier Studiosが手掛ける作品で、バンダイナムコエンターテインメントがパブリッシングを務めている。そのビジュアルから「INSIDE」や「UNRAVEL」と同じ2Dの横スクロールと思うかもしれないが、奥行きも存在する半固定カメラの3Dアクションアドベンチャーである。本作は「モウ(胃)」と呼ばれる巨大な船から、腹ぺこの幼き少女「シックス」を操り脱出することが目的だ。ジャンプ、壁登り、踏み台移動、ロープスイングなど、パズル・プラットフォームでお馴染みのアクションを駆使して迷路の如き船を進んでいくこととなる。

歪んだ世界であっても魅力に溢れ、どこを切り取っても美しい。

まず本作で印象的だったのはアートだ。ゲーム開始時は暗く、灯りの限られたエリアを進むことになるので、あまりグラフィックを気にしてはいなかった。だが、チャプター2に入ってすぐ、本作の持つ視覚面の「味」がはっきりと見えたのだ。ジャンルを「サスペンスアドベンチャー」としているだけあって本作はホラー風味であり、退廃的かつ狂気に彩られている。しかし、そんな歪んだ世界であっても魅力に溢れ、どこを切り取っても美しい。プレイしながら撮影したスクリーンショットは、そのどれもがある種の芸術のようだった。昨今のAAA級タイトルに見られるようなフォトモードがある訳でもなく、プレイ中の一場面を切り取っただけにすぎない。にもかかわらず、ここまで美しいと感じた作品はこれまで無かったかもしれない。

チャプターが進むにつれてステージの様相がガラリと変化していくのも楽しみのひとつだった。巨大な一隻の船を舞台としながら、監獄や隠れ家、台所、ゲストエリアなど、大きく様変わりしていくので、次のエリアはどんな景色なのかと想像は尽きず、実際に目の当たりにする度にそのおぞましさと狂気をはらんだ美しさに喜びを感じた。

LITTLE NIGHTMARES-リトルナイトメア

そんなステージを動き回るキャラクターたちも印象に残るものばかりだ。主人公シックスは鮮やかな黄色のレインコートが可愛らしい。しかし、その痩せ細った肢体は病的な印象を与え、この狂った世界の住人であることを明確に示している。そんな少女の行く手を阻むのは、頭部と腕が異常発達した、管理人と呼ばれる盲目の男や、力任せに食材を解体する、ブクブクと太った双子のシェフといった癖のある面子だ。私は前者に対して気味の悪さしか感じなかったのだが、後者にはその醜悪な容姿の中にコミカルさが感じられ、敵ながら嫌いになれなかった。

ほかにも収集要素にもなっている精霊・ノームは私のお気に入りだ。普段はこちらを見かけると一目散に逃げてしまうが、追い詰めて抱き上げると懐いてこちらの後を付いてくる。そうなると灰一色のホラー感が強いデザインでも愛でたくなってくるから不思議なものだ。

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おそらくほぼ全てのプレイヤーが結末を予想できずにプレイを終えるだろう

そしてなんといっても本作の一番の見所は物語だろう。本編中は言語が一切用いられず、演出のみでどんな世界観なのか、なにを目的として進むのかが明かされていく。あまりその衝撃を削ぎたくないので核心の言及は避けるが、おそらくほぼ全てのプレイヤーが結末を予想できずにプレイを終えるだろう。そして、その結末に至るまでのヒントが本編中に散りばめられていたのではないかと確かめるべく、再びプレイを始めてしまうはずだ。

言葉が用いられないがゆえにその結末の意味や、それが必然なのか偶然なのかはプレイヤーそれぞれの受け取り方に委ねられている。はっきりとした結末を望む人には向かないかもしれない。だが、曖昧な結末だからこそ再度その世界へと足を踏み入れ、残された謎を解き明かしたくなるのではないだろうか。

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ボタンの割り当てに癖があり、その上で組み合わせや押しっぱなしを求められるのがわずらわしい

しかし、そんな魅力溢れる本作にも問題はある。それはゲームプレイだ。身体能力の低い幼い少女を操作するということもあり、やれることの幅が狭いのはあまり気にならないし、レスポンスも悪くはない。恐ろしい敵から身を隠すステルスパートも緊張感に満ちている。だが、ボタンの割り当てに癖があり、その上で組み合わせや押しっぱなしを求められるのがわずらわしく、せっかくの良さが霞んでしまっている。

また、カメラアングルもあまり洗練されておらず、ジャンプ位置が把握しにくいので落下死が頻繁に起こる。加えて、リスタート時のロードも4~5秒ほどかかり、なおかつ復帰時はスキップできない起き上がり動作が入るので少々テンポを損なっている。チェックポイントも時折遠い箇所に設定されている場合があり、ストレスを感じてしまう時もあるだろう。私はあまり気にならなかったが、初回プレイ時でも4時間程度でクリアできてしまったことも人によってはマイナス点と言える。ボリュームを求める人はその点にも注意してほしい。

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