PSVR本体の発売と合わせて去年の秋にリリースした「サマーレッスン:宮本ひかり セブンデイズルーム」と違って、「サマーレッスン:アリソン・スノウ 七日間の庭」はちゃんと夏にやってきた。夏休みまであと少しだが、一足先にアメリカ出身の金髪美少女と一緒に縁側で涼みながらけん玉に興じたり、「かちかち山」を読んだりしたい人はその選択肢が与えられている。まあ、あまりオススメはしないけど。

僕は宮本ひかりという生徒にレビューで5.0の赤点をつけた。アリソンはひかりより少しばかり好感が持てたが、最終的な評価は基本的に変わらない。

アリソンとの7日間があまり楽しくない理由は、概ね前作と同じだ。一緒に過ごせる時間はあっという間に過ぎてしまうし(30分程度でクリアできる)、アリソンというキャラクターには人間味が欠け、ゲームに登場する2つの空間のどれも十分な磨きがかかっていない。

金髪美少女に日本のわびさびについて教えるのは最高のタイプのコミュニケーションだ。

VRで美少女を前にして、その家庭教師を務めるゲームコンセプト自体は興味深い。実際に人間とコミュニケーションをとっている気がしてしまうのはVRならではの凄みだろう。そして、金髪美少女に日本のわびさびについて教えるのは、間違いなくこの地球で最高のタイプのコミュニケーションに分類される。性格の薄っぺらい宮本ひかりの部屋を後にして、初めてアリソン・スノウの下宿先である海沿いの日本家屋を訪れたとき、興奮しなかったわけではもちろんない。

サマーレッスン:アリソン・スノウ 七日間の庭

アリソンは庭の縁側に座って、ギターを弾いていた。僕のことに気が付くとこちらにやってきて、我々は挨拶を交わした。女の子との距離が異常に近いのは前作と同じだが、アリソンにはひかりのような押しつけましさがなく、もっと控えめな性格だ。それでも、1分程度の対面で僕はすでにいろんな違和感を覚えていた。アリソンはアメリカの人気歌手だというが、日本が好きで仕事を休んでこちらにやってきたという。そんなエリートはなぜ日本のローカルな家庭教師センターに連絡して僕などを雇うことになったのだろう? まあ、それくらいはちょっと楽しい設定ということで許そう。だが、アリソンの声に対する違和感は無視できそうもなかった。彼女の日本語はかなり訛っているが、なんだかわざとらしくない? それに、イントネーションは妙に日本人っぽいし、英語の独り言を言うときはカタカナ英語に聞こえたようだが……? ゲームを中断して、メインメニューからスタッフロールを確認してみると、アリソンの声優は阿部里果という日本女性が担当しているらしい。ゲームを初めて5分と経たないうちに、外国人と異文化コミュニケーションをしている錯覚が見事に壊されてしまった。

それに、アリソンを目の前にしていると僕はなぜかすぐにひかりちゃんを思い出してしまった。アリソンは金髪だし、身長も体つきもひかりちゃんとは違う。だが、口の動かし方や身体のモーションは明らかに宮本ひかりと似ている。僕には宮本ひかりの生まれ変わりを見ているという不気味な感覚がおそってきた。

アリソンは悪い娘ではないが、彼女の薄っぺらさはゲームの1周目からすでに目立つ。

アリソンの設定、声、外見に問題があっても、せめて彼女とのインタラクションがリアルに感じるなら妥協できたのかもしれない。アリソンは悪い娘ではないが、彼女の薄っぺらさはゲームの1周目からすでに目立つ。アリソンと一緒に過ごしていく7日間を通して、彼女は何度もまったく同じ動きを繰り返す。例えば、授業の合間に「話しかける」というコマンドがあるが、これを選択した後、彼女は毎日同じモーションで近より、決まったセリフを発する。1日の始まりとお別れの挨拶も複数のパターンしかない。30分という短いゲームだが、同じ演出の繰り返しがかなり高い割り合いを占めしている。

僕は外国人とコミュニケーションをするのが好きだ。日本人にはないような発想が新鮮で、好奇心を刺激するのだ。例えば、彼らの国にはどのような和食があるのかや、それが本場とどのように違うのかを聞いているだけでも面白い。僕は先日、E3 2017でアメリカへ行ったばかりだが、スパム寿司というスパイスにパクチーがふんだんにかけたのり巻きを見て驚いた。だが、アリソンに和食について聞くと彼女は「アメリカでも日本のフードは大好きだったけど、本場のご飯はもっとおいしい」程度の感想しか話さない。彼女が日本の悪口を一切言わないのも気に食わない。いくら日本好きでも、日本で生活して不便に思うことや自分の国の方が優れていると思う部分もあるはずだ。彼女は気をつかってそれをあえて言わないのかもしれないが、そういう部分こそ7日間を通して、少しずつ変化が見られたら面白い成長なのにと思う。我々が喜ぶ発言しかしないアリソンは結局のところ、夢にしか出てこない理想の外人にすぎず、リアリティを感じない。

サマーレッスン:アリソン・スノウ 七日間の庭
アリソンは夢にしか出てこない理想の外人であり、リアリティがない。

宮本ひかりには「暗記」や「頭の体操」といった項目から選んで授業を進めるが、アリソンには「日本の物語」や「日本のあそび」を教えることになる。アリソンが俳句を書いたり、花を生けたりするのを見守って、的確なアドバイスをしなければならない。休憩に入ると予め用意した話題を振って、アリソンの好奇心を刺激する。このあたりのゲームシステムは前作と変わらないが、説明がより丁寧になっている。どのようにしたら効果的なレッスンを行えるのかがわかりやすく、僕は2周目で最高の結果が出せた。

今回、チャット機能が新しく導入された。1日が終わった後はスマートフォンでアリソンとチャットして、複数のメッセージから選択して自分の発言を決める。残念ながら会話の流れが酷く不自然で、下のようなやりとりが頻繁に発生する。

アリソン「いっしょにどうですか?」

主人公「デートのお誘い?」

アリソン「そうですよ。山道が多いのですが、海の道に出れば風が気持ちいいです。先生とふたりなら、良い旅になると思います。」

主人公「関係ない話だけど、最近の事件は?」

サマーレッスン:アリソン・スノウ 七日間の庭

……あ、そうそう。このくだりを見て気が付いた人もいるかもしれないが、チャットでアリソンの日本語入力は完璧だ。実は日本人の彼氏がいて、彼に打ってもらっているとでも?

前作では宮本ひかりの部屋の変化のなさを指摘したが、それはアリソンとの授業が行われる庭についてもいえる。庭には毎日まったく同じ服が干してあり、風鈴は右に3周してから次は左に3周してなびく決まりとなっている。アリソンが授業や休憩時に取り出したものもいつも同じ配置におかれる。「漢字知識」の練習をするときはアリソンから正面に「進歩」、横には「海の匂い」、下には「希望の朝」と拙い字で書かれた紙が同じようにおいてある。アリソンは手に筆を持っているが、いくら待っても彼女が字を書くことはない。

サマーレッスン:アリソン・スノウ 七日間の庭

昼休みはスイカを出してもらえるが、アリソンはそれを毎日まったく同じように切り、同じようにお皿に盛る天才のようだ。

細かいことをあれこれと指摘する僕を嫌なやつだと思う? 少し冷静に考えてほしい。本作に用意されているのは主人公の第二の仕事場である喫茶店とアリソンの下宿先の庭の2カ所しかない。登場するキャラクターも彼女ひとりしかいない。限られたコンテンツを丁寧に作り込むのは大いに賛成だが、ディテールにこだわりきった結果が見られない。

サマーレッスン:アリソン・スノウ 七日間の庭
女の子を目の前にしている錯覚は長続きのしないものだが、迫力はある。

ゲームをクリアすると新しいコスチュームが選択できるようになり、選べる授業の項目が増える。だが、コスチュームは一度選んでしまうとクリアまで変更できないし、一周につき新しいシーンは何本かしか見られない。よほどアリソンに夢中にならない限り、3度目には取りかからないだろう。

本作がVRの世界への入り口としてうまく機能しているのは前作と変わらない。女の子を目の前にしている錯覚は長続きのしないものだが、迫力はある。これからは様々なシチュエーションの追加コンテンツが配信されるが、8320円(税込)のデラックス版を持っていなければ追加料金が発生する。2980円(税込)の基本ゲームパックに含まれたコンテンツは今回も値段に不相応と言わざるを得ない。今のところアリソンに会いに行くのはオススメしない。