この記事を開いたということは、あなたは『アペリオン・サイバーストーム』に多かれ少なかれ興味を持っているということだろう。ならばぜひ私の言うことを聞いてくれ。このゲームは決してひとりで遊んではならない。友達を誘え。それも、ちょっとひどい冗談を言っても笑って許してくれるくらいの間柄の友達を。なぜならこのゲームは“ちょっとひどい冗談”みたいだからだ。

2018年5月10日にNintendo Switchで配信された『アペリオン・サイバーストーム』は、イギリスの開発スタジオであるaPriori Digitalによって開発された全方位シューティング(ツインスティック・シューティング)である。

「TOKYO SANDBOX 2018」ではプレイアブル出展されておりこの記事において、本作は全方位シューティングではあるものの「RPGとメトロイドヴァニア要素」があると書かれているほか、「ストーリーもしっかりとついて」いるとも記されている。これは決して間違いではなく、確かに作品の特徴を捉えるならばそう書くべきだろうし、私もデモ版を遊んだらそう書いていたことだろう。だが実際のところ『アペリオン・サイバーストーム』の魅力というのは、“大味な全方向シューティングを最大5人で遊べる”というところに尽きるのである。

ひとりで遊ぶとひたすらに眠くなるキャンペーンモード

アペリオン・サイバーストーム レビュー
主人公などの一部のキャラクターには顔グラフィックが用意されているが、これを魅力というのはやや苦しい。戦闘機や敵なども“よくある感じ”という言葉がピッタリなデザインだ。

さて、まずは本作のメインモードとなるキャンペーンについて話そう。ゲームを始めるといきなり怒涛のストーリーが始まるのだが、これがまったく理解できないという人が出てきてもおかしくない。まずはパラディン、SDM、ガドリガ、惑星側などなど、この作品の固有名詞が説明なしにどんどん出てくるのだ

とりあえずわかることは、ケイトという女性パイロットが主人公であり、サムとジョセフという仲間がいるということ。そして、彼女たちは何者かに追われており、戦闘機に乗って逃げている最中にはぐれてしまったということだ。はじめは合流を目指していたケイトだが、なぜか仲間が信頼できないことに気づき、そのうち真相を求め敵対組織と戦い続けることになる。

アペリオン・サイバーストーム レビュー
主人公のケイトがいきなり男言葉になる場面。このあと仲間のジョセフがまったく同じセリフを喋るため、コピペをミスしたのだろうかと余計な邪推をしてしまう。

おそらく本作は元からストーリーの説明が丁寧ではないのだろうが、ローカライズもいまいちであり問題がさらに複雑になっている。一部ではあるが翻訳すべき英文がそのままのところがあったし、キャラクターのかけあいもおかしい。特に仲間と再び通信できたシーンでは笑ってしまった。

主人公「やっと連絡が取れて本当によかった」

仲間「そうだな」

主人公「ふふ いい考えね」

何がいい考えなのか意味不明だし、どこかのセリフが抜けているのか誤訳なのかわからないのもしびれる。もちろんこの程度のミスはかわいいもので、ストーリーに関わる部分になるとより意味がわからなくなるし、中には同じセリフが連続するシーンもある。そんなわけでストーリー部分は半壊状態になっており、言語を英語に変更して読み解く必要があるだろう(そこまで奥深いストーリーがあるとも思えないが)。

アペリオン・サイバーストーム レビュー

一方のゲームシステムは割とシンプルだ。左スティックで自機を動かし右スティックを倒した(Joy-Con横持ちの場合はボタンを押した)方向に射撃を行う。とにかく目の前に現れたたくさんの敵を倒し、殲滅したら次の部屋へと進む。時には分岐が用意されていることもあり、探索すると一定時間ショットを強化したり特殊な効果をもたらすアビリティ、乗り換えることのできる新たなシップ、あるいは収集品が見つかることだろう。

つまり探索要素があるためメトロイドヴァニア的であると表現することもできるのだが、実際のゲームプレイ感覚はもう少し単純だ。というのもこのゲーム、分岐はそこまで多くないし道に迷うこともなければ謎解きなどもない。結局のところ、“基本は一本道で探索要素がちょっとある”という表現のほうが妥当なのである。

アペリオン・サイバーストーム レビュー
展開も単調だが敵にもイラつく。特に灰色のノコギリのような敵は倒すと水色の手裏剣のような敵をたくさん産み出すことがあり、さらにその手裏剣のような敵は倒すと弾を発射する(つまり倒せば倒すほど周囲が無茶苦茶になる)。これが狭い部屋いっぱいに出てきた時はゴキブリの卵を発見したかのような絶望感を味わえる。

一本道としての雰囲気をより強固にしているのは、ごく一部の場面以外、敵をすべて倒さなければ先に進めないということだろう。しかもマルチプレイが前提の内容だからかひとりで遊ぶと敵の数がとにかく多く、固く、緩急がない。ステージが狭いため回避しきれないこ

ともあるし、そもそも割と被弾しても問題ないシステムなのでひたすらにゴリ押しするのみ。せめて敵が柔らかくなる最低難易度を選択しないと、Joy-Conを持ちながら寝てしまうのがオチだろう。

眠気を誘うのはゲームバランスだけではない。BGMであるテクノサウンドそのものは決して悪くはないのだが、明らかにゲームの雰囲気に合っていないのだ。仲間に疑惑を持ち始めるシーンなのにやたらと落ち着く曲が流れたり、佳境に入るというのに序盤から何度も聴いたいつもの曲が流れたり、開発者はくじ引きでBGMを決めたのではないかという疑惑すら持ちたくなる。

おまけに戦う場所は常に室内であるため黒く、そこはやたらと壁があって狭くてチマチマとした戦いになる。要はグラフィックとしてもいつも同じような絵面になるうえ、そこで多すぎる敵と爽快感もなく戦い続け、BGMとして似たようなフレーズを何度も聴くことになるわけだ。敵の種類も変化が乏しく、こうなるともはや“退屈をゲーム化した”と言っても過言ではない。

おもしろい全方位シューティングはとにかく気持ちよくたくさんの敵を倒せるようにしたり、あるいはBGMに合わせて展開に緩急をつけたり、激しい弾幕を回避させ快感を味わえるようにしたり、もしくは濃厚なストーリーを見せたりするわけだ。少なくとも『アペリオン・サイバーストーム』はそのどれも満たすことができていないし、正直なところ、私もレビューという仕事でなければ本作をクリアすることはできなかったことだろう。

“みんなで遊ぶ”という調味料のおかげでなんとか味わえるゲームになる

アペリオン・サイバーストーム レビュー
協力して各ウェーブをしのぐオンスロートモード。マルチプレイで遊ぶとカメラが引き気味になるためよりカオスに。

では『アペリオン・サイバーストーム』は完全にダメなゲームなのか? いやいや、そんなことはない。キャンペーンが大味なのは間違いないが、オフラインのみとはいえマルチプレイに対応しているため、気心の知れた友人たちと遊べばいいだろう。多すぎる敵も人数がいれば取り合いにならない満足感のある量だといえるし、大味なのも気楽に喋りながら遊べるということになる。仕事や学校の愚痴、あるいは他人の噂話をしながらプレイするにはピッタリだ。飲み物、特にアルコールもあれば感覚が麻痺するので完璧である。

そもそも本作はオプションでオートショットを選択することができるのだが、これがとにかく優秀だ。これを選べばプレイヤーは機体をちょうどいい位置に動かすだけで敵がバンバン溶けていく。真面目に狙っていると非常に疲れるので、このオプションを有効活用してのんびりポテトチップスを食べながらやったほうが精神的にも負担がかからないはずだ。

また、レベルの要素があるのも嬉しいところ。キャンペーンモードではレベルを上げるとアビリティのレベル上限が解放されていくため、ショットをどんどん強くすることが可能なわけだ。一度クリアしてもレベル上限はまだまだ見えなかったので、レベル上げが好きなプレイヤーにはたまらないことだろう。

そしてレベルとは別に階級も用意されている。こちらは後述の対戦モードでも経験値が入るようなので、まさしくやり込み度合いを現す勲章となるはずだ。まあ、その、暇人の称号と言えなくもないが。

さらに本作にはバーサスモードも用意されており、8種類のルールで友人やBOTと戦うことができる。とにかく相手を倒してポイントを稼ぐアリーナ、ひとりだけ強力なシップとして戦うことができるタイタン、自由に動く目標をいち早く破壊するバトルボールなど、オマケとは思えないほどに種類が豊富であるうえ、フリー・フォー・オールもチーム戦もできる。

バーサスモードはとにかくカオスになるので大雑把に楽しい。倒されてからリスポーンするまでの間に自爆することもできるのでうまくない人も一矢報いることができるだろうし、キャンペーンでは使わなかったアビリティもルールによっては活躍することだろう。

対戦が嫌ならば、ひたすらに敵の猛攻を耐え忍ぶオンスロートというモードがいい。こちらはオーソドックスな全方位シューティングという印象で、ウェーブごとに襲いかかる敵を退けて生き残ることが目的となる。難しくなると仲間との協力も重要になってくるし、ステージもキャンペーンよりは広いので閉塞感もずいぶんとマシになるはずだ。

結局のところ、『アペリオン・サイバーストーム』の魅力は5人で遊べるというところなのである。キャンペーンは大味だが友人と喋りながら遊べばマシになるし、それに飽きたらバーサスやオンスロートで気分転換をするのもいい。大盛り上がりすることはないだろうが、なんとなく暇を潰すパーティーゲームとしての役割は果たせるかもしれない。