ダークエルフにドワーフ、トロルなどが登場するダークファンタジー」と聞くとRPGを想起しやすいかと思うが、「スティクス:シャーズ・オブ・ダークネス」はひと味違う。ダークファンタジーという世界設定を持ちながらも、ステルス要素を主軸にした3Dのアクションゲームだ。

「口の減らないゴブリン」という魅力あるキャラクター設定

本作を語るうえで外せないのが主人公「スティクス」の存在だ

本作を語るうえで外せないのが主人公「スティクス」の存在だ。ゲームの主人公としては世にも珍しいゴブリンであり(ゴブリンなんてザコ扱いがほとんだろう?)、ゲーム内世界でも唯一「知能を持ち、人語を話すゴブリン」だ。話せるだけでなく、大変な皮肉屋でもあり、それが彼の魅力にもつながっている。

日本語吹き替えはされていないが、特徴ある声もいい。以下のように、ほかのステルスゲームを想起させる台詞回しも少しだけ用意されている。

オレ様は屋根にも壁にも登れる。あほくさい白コートとフードの奴らなんかにゃ捕まりっこねえ。

さて、藁の山はどこだ? どこにジャンプすればいい?

ゲームオーバー時の台詞はプレイヤーに話しかけるメタっぷりを発揮し、ストレスの溜まるゲームオーバーを多少緩和してくれる。それに映画「ターミネーター」の「I’ll be back.」のモノマネをするゲームキャラクターなんて、スティクスを除けばそうそういないだろう。下ネタだってぶち込んでくる。

スティクスは2012年の「Of Orcs And Men」、2014年の「Styx: Master of Shadows」に続いての登場となるが、過去作は日本語版がリリースされていない。しかし、過去作と強いつながりを感じるものではないので、本作から始めても問題はない(とはいえ彼のファンになったのなら、スティクスの出自にも迫る「Of Orcs And Men」はオススメだ)。

「小言をしゃべらなきゃ息をできないのか?」と思うほどに口うるさいし、仕事を引き受けるときもだいたいは文句を口にしている。その割に報酬以上の仕事をしてばかりで、なかなか憎めないヤツでもある。なんやかんや言いながらも仕事はまっとうするタイプなので(もちろん仕事をするのは実際にはプレイヤーであるが)、職人気質で三枚目じみた魅力がある。

 

他方、スティクス以外のキャラクターは少々魅力に欠ける。ゴブリンせん滅特化部隊C.A.R.N.A.G.E.の隊長「ヘレドリン」、物語のカギを握るダークエルフのシェイプシフター「ジャラク」と主要キャラクターの設定はおもしろそうなのだが、設定を活かした展開はほぼない。スティクスがお人好すぎてすぐに願い事を聞き入れてしまうし、人物像についての掘り下げもほとんどない。

エンディングも思わず「これで終わり?」と口にしたくなる

エンディングも思わず「これで終わり?」と口にしたくなるほどの内容で、せっかくのダークな設定を活かしてきれていない。DLCなりで補完されているわけでもないので、ここに関しては大きく評価を下げざるを得ない。逆にこの部分を許容できれば、本作は比較的親しみやすいステルスアクションと言える。

アクションにも活かされているゴブリンの設定

のっけからゴブリンの話ばかりになってしまったが、ゲーム界で(たぶん)いちばんカッコいいゴブリンの話はまだ続く。スティクスのキャラクター設定はアクションにも活かされており、ロープをつたったり、登ったりする様子は猿のようで独特だ。ブレードを装着したアサシンや伝説の傭兵なんかはカッコいいが、さすがにこんな芸当はできまい。

さらに「口からクローンを吐き出す」というアクションまで使える。ピッコロ大魔王もビックリだ! クローンは操作も可能で陽動にも使えるかわいいヤツだ。スキルツリーでクローン能力を強化すれば、本体を破棄してクローン側へと乗り移る大道芸まで可能で(いったいどうなってんだ?)、ただのゴブリンではないことを大いに見せつけてくれる。

スティクス:シャーズ・オブ・ダークネス レビュー
状況把握に役立つアンバービジョン。使用制限もないので気軽に使える。

クローン生成のほかにも、敵を含む重要なオブジェクトするハイライト表示するアンバービジョンや、姿を完全に消し去る透明化、食べ物に毒を吐いて食べた敵を無力化する(ゲロを吐いているようにしか見えないのに、それを疑いもなく食べる奴らはいったいどんな目をしてるんだ!)のといった能力が使える。ステージ上の素材を集めて、矢やロックピックをクラフトして潜入に役立てることも可能だ。

スティクス:シャーズ・オブ・ダークネス レビュー
ミッション成績に応じてスキルポイントが得られ、スキルツリーからスキルを強化できる。

多数強力な能力を備えるスティクスだが、戦闘では途端に非力な存在となる。背後から攻撃しても無力化のスピードはスッとろいし、そもそもステルスキルでなければ悲鳴を上げられてしまう始末。だったらとステルスキルしようとすれば、これまた一層スッとろいと来ている。戦闘時はタイミングよくボタン操作することで敵の攻撃をパリィできるが、状況の打開につながりにくいのでさっさと高所に登るか、ロードし直したほうがよい。

ほかのステルスゲームと比べても無警戒状態での突破が容易という感触

つまるところ、本作はキルを推奨していないのだろう。死体を運んで隠したり、死体そのものを消し去ってしまう強力な酸といったアイテムも一応あるのだが、そもそも全体的に隠れて進むほうが簡単で、ほかのステルスゲームと比べても無警戒状態での突破が容易という感触だ。

世界観と索敵の特徴をうまく絡めた敵兵たち

一方の敵はというと種族によってこちらを察知する手段が異なるのが特徴だ。見た目もまったく異なるので、勘違いして発見されるようなことはなく、このあたりのデザインはうまい。加えて索敵手段が異なる敵をコンビにして登場するシチュエーションも存在する。

種族によってこちらを察知する手段が異なるのが特徴だ。見た目もまったく異なるので、勘違いして発見されるようなことはない

もっともポピュラーな敵兵は人間とダークエルフだ。どちらも視覚と聴覚とで察知・追跡を行う。ちなみにダークエルフは「血塗られた儀式に執心している」という独自の設定があるのだが、敵兵としてのダークエルフに際立った特徴はない。

中盤以降に登場するドワーフは、そのデカっ鼻でこちらを発見するいやらしい種族だ。梁に登ろうが壁裏に隠れていようが、距離が近ければ発見されてしまうため、ステルスゲームの基本である「物陰に隠れる」が通用しない厄介な存在となる。背が低いのでダークエルフや人間と見間違えることはない。

スティクス:シャーズ・オブ・ダークネス レビュー
臭いでこちらを探知した場合、ドワーフの頭上に黄色いアイコン表示される。なるべく距離を取るのが望ましい。

「ロービー」という犬くらいの大きさをした昆虫も登場する。この昆虫、デカさだけが取り柄かと思いきや無駄に音に敏感で、走ったりするとすぐに感知されてしまう。しかも即死攻撃を持っているので油断ならない。ただし、ロービーは聴覚に優れる代わりに目が退化しているので、音を立てないように移動すれば対処は可能だ。

ロービー以外にも洞窟トロールなど即死攻撃を使う敵が存在するほか、ミッションによっては発見されると即座にゲームオーバーとなる局面もあるため、キルするよりも隠れることが優先されるのはここでも変わらない。

スティクス:シャーズ・オブ・ダークネス レビュー
カブトムシに似た敵ロービー。

全体的な構成はよいが、ボス戦など一部不満の残るミッションも

終盤にマップの使い回しがいくつかある点は評価を下げる要因となりうるが、使い回しのマップでもルートは別のものが設定されているのがほとんどだ。配置されている敵にも工夫がほどこされており、水増し感はそこまでない。

後半に進むほど暗いロケーションが多くなるのが残念だが、ゴブリンの屠殺場や飛行船のように変わったロケーションもあり、バリエーションはそれなりにある。スティクスの機動力を活かす上下方向に広いマップが多いのも魅力として挙げられるだろう。

スティクス:シャーズ・オブ・ダークネス レビュー
一部明るいロケーションも存在するが、数は少ない。

「ほかのステルスゲームと比べても無警戒状態での突破が容易という感触」と先に述べたが、これは実質的に使えるルートが多数あることに起因する。ステルスゲームには安定して使えるルートがあるものだが(特に装備が限らればなおさらだ)、本作の場合は手持ちのスキルにかかわらず「使える」と見なせるルートが多い。

スティクス:シャーズ・オブ・ダークネス レビュー
ミッションロード時の画面はロケーションをよく表しており、雰囲気がある。

敵に発見されてロードし直して同じルートを何度もチャレンジなんて馬鹿らしいだろう? 賢いゴブリンなら想像性を働かせるものだ。悪く言えば「緩い」のだが、本作にはそう感じさせない「懐の広さ」がある。戦闘を楽しみたい人には向かないが、潜伏が本領のステルスを楽しみたい人には入り口としていい作品となっている。

ステルスゲームの醍醐味はプレイヤー自身が想像したものをステージに対してぶつけることにあり、準備された答えを探すだけでは刺激に欠ける

他方、ボス戦は出来が悪い。戦闘よりも潜伏に重きが置かれるステルスゲームにおいて、ボス戦はデザインが困難なパートかと思うが、本作では「あまりおもしろくないパズル」という印象が拭えない。数が少ないのが救いではあるが、「なかったほうがよかった」という気持ちに嘘をつくのは難しい。また、局所的なものだが、アクションを駆使して解くパズルパートがあって、こちらも同様の理由でおもしろみに欠ける。ステルスゲームの醍醐味はプレイヤー自身が想像したものをステージに対してぶつけることにあり、準備された答えを探すだけでは刺激に欠けるのだ。

スティクス:シャーズ・オブ・ダークネス レビュー
もう少し工夫の欲しかったボス戦。

あるのはうれしいが、それ以上の存在とは言い難い協力プレイ

本作はオンライン協力プレイを備えている。片方はいつもどおりスティクスとして、もう片方はスティクスのクローンとしてゲームに参加する形となっており、2人いる分楽になる代わりに敵の攻撃を受けると一撃で死ぬようになっているなど、いくつかのデメリットを付与してバランスをとっている。

協力プレイはおもしろいフィーチャーではあるのだが、2人だからこそできる特有のアクションがあるわけではないし、サイドクエストをどうするかとか、ステルスで行くのかキルでいくのかといった部分はミッションの評価に直結するため、意思疎通がとれないとぎこちないプレイに陥ってしまう危険もはらむ。

協力プレイの出来によって本作の魅力が減じることはないが、過度な期待はせずに「知り合いと挑めるなら」「細かいことを抜きにして協力プレイするなら」というおまけ程度のものととらえたほうがいいだろう。

スティクス:シャーズ・オブ・ダークネス レビュー
ミッション開始直後のカットシーンや協力プレイではテクスチャの貼り遅れが散見されるのが残念なところ。