わたしの記憶が確かならば、今回紹介するのは料理バトルゲーム「Battle Chef Brigade」は、Kickstarter掲載のティザー動画で国内外の注目を大きく集めた。手描きイラストがそのまま動くアートワーク。モンスターをハントし食材とするファンタジー界ならではのグルメ。そして美食アカデミー主宰鹿賀丈史のパロディで期待をあおられた人は多かろう。

Battle Chef Brigade レビュー

本作の評価に、英語圏の料理バトルの流行は加味したい。ティザー動画の元ネタは料理バラエティ番組の金字塔「料理の鉄人」だ。“蘇るがいい、アイアンシェフ!”の名フレーズを始め、けれん味あふれる演出の数々で絶大な人気を博した。日本では今や懐かしのテレビ番組という扱いだが、英語圏版「アイアンシェフ・アメリカ」は2014年まで製作が続き、過去シリーズの再放送は継続している。

料理バトルは「料理の鉄人」だけではない。日本では古来より食をテーマとしたマンガ・アニメが生まれている。そして日本ポップカルチャーの輸出とともに、料理バトルは海外に進出した。近年では正統派料理バトル「食戟のソーマ」のアニメ版が好評だったのは記憶に新しい。

Battle Chef Brigade レビュー

それら英語圏での人気を鑑みれば、奇抜に見える本作のテーマが的を射たものであると理解できるだろう。日本のポップカルチャーを教材とし、「料理の鉄人」に構成をならうことで、多くのゲーマーから注目を集めクラウドファンディングに成功した。2017年11月21日発売の本作が、どのように「料理バトル」というテーマを調理したのか。地平線の向こう側のグルメゲームは美味なるものか。早速、実食といこう。

メニューで期待した以上のビジュアル

「Battle Chef Brigade」は、対戦相手を直接攻撃できない点をのぞけば1998年の「炎の料理人 クッキングファイター好」と同じゲーム展開だ。料理バトルを通じて物語が進む。大きく分けて会話パートと料理パートの2つを繰り返し、全7章のストーリーを達成すればゲームクリアとなる。

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マンガを読んでいるワクワク感がある。味わいを残す鉛筆絵と鮮やかな配色のアートワークが、マンガ体験を一層引き立てる

おもしろいのは、会話パートと料理パートの分断を感じさせない工夫だ。ロケーション紹介など一部シーンをのぞいてサイドビューを一貫し、クッキングとストーリーをシームレスにつなぐことに成功した。会話したと思えば料理が始まり、そして気がつけばバトルアクション。そこにローディングの画面暗転や一時停止はない。

会話パートのサイドビューが演劇の舞台に似た構図を生み出しているのがおもしろい。テキストを読み進めようと会話ボタンを押すたびに、キャラクターが漫符を織り交ぜたジェスチャーで、感情や雰囲気を表していく。ページをめくる喜びに近く、マンガを読んでいるワクワク感がある。味わいを残す鉛筆絵と鮮やかな配色のアートワークが、マンガ体験を一層引き立てる。

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また、画面に映し出す場景の暖かさ、親しみやすさも本作ならではのものだろう。リーキのグリルでおなじみの「The Elder Scrolls V: Skyrim」。なんでもチーズフォンデュにする「モンスターハンタークロス」。これら食事要素も充実しているファンタジーRPGと比べてのどかさすら覚えてしまう。死と暴力に満ちた荒廃や、雄々しく厳しい自然といった非日常を感じさせない。料理バトルを通じて描かれる食文化、つまり日常とのミスマッチを防いでいる。

以上で紹介したビジュアル面の特徴を端的に述べると、とても日本ゲーム的だ。絵づくりのルーツがマンガやアニメといった日本ポップカルチャーにある。これが料理バトルにあうのは自明であろう。ターゲット層が予想した以上の品質をもって期待に応えた。ここに文化の盗用などといった嫌みを感じないのは、ゲームプレイと物語の面でオリジナルを生み出したからである。

うま味を凝縮するマッチ3パズル・クッキング

本作のアートワークを模倣から創作へと昇華するゲームプレイ。それは物語の主軸、料理バトルにある。料理の行程は大きく2つにわかれる。ひとつはキッチンの外に広がる森といったフィールドを闊歩するモンスターを、サイドビュー・バトルアクションでハントする調達の行程だ。近接攻撃、射撃攻撃、空中コンボ、ダッジステップを使い分ける、スタイリッシュバトルを楽しめる。

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マッチ3パズルで料理する? これが意外にも“あう”のである

もうひとつはモンスターがドロップする食材を加工し、うま味を高めていく調理の工程である。この調理に焦点をあわせたゲームは意外に少ない。本作の登場人物は主人公も含め、食材からインスピレーションを得て新しい料理を創造する一流料理人なのだ。いかにして料理人の腕を演出するか。本作は調理を模したミニゲームでゲームパッドさばきを試すのではなく、マッチ3パズルで思考の瞬発力を試すことにした。

マッチ3パズルで料理する? これが意外にも“あう”のである。実際にプレイの流れを通してみよう。まずは、制限時間の半分ほどは食材の確保にいそしむ。パントリー(食材棚)を十分に満たしたら調理開始だ。このとき食材は最大4つの「調味ジェム」に、フライパンは4×4マスの枠になる。ジェムが4つの大きな食材やテーマ食材、審査員が好む色の調味ジェムを入れていこう。

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そしてかき混ぜる! 2×2マスで回転させて同じ色のジェムを3つ並べると、調味ジェムが凝縮されジェムのレベルがあがるぞ。ゲーム中の表記は調味ジェムだが、うま味ジェムと読み替えて差し支えはあるまい。味の凝縮をマッチ3パズルの行程で表現したのである。食材に含まれる複数の色ジェムはいわば雑味、コクだ。すべてのジェムを余すところなく美味とすべし。

対戦相手よりもおいしさ=うま味=調味ジェムを凝縮しなければならないのだ。これが料理バトルのフィーリングを見事に醸しだした

食材の調理順や味を整える方法。マッチ3パズルをプレイしているはずなのだが、フィーリングは実際の調理に近いものがある。ここからが大事なのだが、対戦相手よりもおいしさ=うま味=調味ジェムを凝縮しなければならないのだ。これが料理バトルのフィーリングを見事に醸しだした。審査員の実食と冷酷なコメントがプレイングにジャッジを下し、焦燥感をかきたてる。自分が食べるのではなく、誰かのために料理する緊張は、勝者の宣告でカタルシスとなり強烈な余韻を残すだろう。

Battle Chef Brigade レビュー

美食追及のインスピレーション

バトルアクションとマッチ3パズル。まったくちがうジャンルのゲームを制限時間で結びつけ、アートワークで料理のフレーバーを演出した。「Battle Chef Brigade」の料理バトルのキモは、ゲームパッドさばきと思考の瞬発力を問う、プレイフィールのハーモニーにある。

とても難しく聞こえるが、いきなりバトルを挑むワケではないので安心してほしい。ストーリー序章はチュートリアルをかねており、制限時間を気にせず基本的な操作を学べる。さらに、ある程度ゲームが進むと街で仕事を受けるようになる。アクション、ジェムパズル、スピードパズルと、料理バトルの腕をみっちり鍛え料理バトルに備えよう。

Battle Chef Brigade レビュー

そして労働には大きな実利がある。仕事代のゴールドでアイテムを購入し主人公を強化できるのだ。アイテムにはアクション中のライフや攻撃を強化するもののほかに、料理バトルに持ち込む調理器具や食材もある。ここがプレイ体験の鍵である。調理器具と食材の組み合わせが、美食の扉を開き味の彼方へと導くインスピレーションを与えてくれるのだ。

いくつか簡単なテクニックを紹介しよう。赤ジェムのみ2個でマッチする「神秘の火鍋」に、赤ジェム4つの「ルビージャーキー」を入れるだけで、高レベルの調味ジェムが手に入る。調味ジェムのレベルを自動的にゆっくりと高める「オーブン」。これで調味ジェムのレベルをあげつつ食材を集めれば、時間の節約術となる。こうしたテクニックが調理のフレーバーを醸しだす。「料理の鉄人」で登場した和の鉄人、道場六三郎の得意技「命の出汁」を想起させるだろう。

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得意技を編みだした感動が、主人公ミナの若き才能を大輪の華へと育て、青春ストーリーに彩りを添える

調理器具と食材のコンビネーションに目覚めたプレイヤーは、さらなる高みに登らねばならない。ゲーム中盤に入手する「専門書」は、特定の食材を使用するなり、調味ジェムのバリエーション達成で、採点時にボーナスポイントを得る。この段階でついにうま味の凝縮だけでなく、何をどう調理したのかが問われるワケだ。得意技を編みだした感動が、主人公ミナの若き才能を大輪の華へと育て、青春ストーリーに彩りを添えるのである。

驚きが食をドラマにする

コースメニューというべきストーリーが、食欲ならぬプレイ欲をかきたてる

日本産深夜アニメを想起させるクオリティのアートワーク。美食の追及というフレーバーを重ねたゲームプレイ。この両者が引き立つように調和させたのが物語である。ここまで意図的に伏せていたが、コースメニューというべきストーリーが、食欲ならぬプレイ欲をかきたてるのだ。

Battle Chef Brigade レビュー

食前酒にあたるオープニングから巧みな腕前でおもてなしされ、料理バトルを期待したプレイヤーをいい意味で裏切ってくれることを約束しよう。100年前にあったモンスターの大活動期。畜産・農作業へ被害からなる飢饉。そして、戦士兼料理人の軍団「バトルシェフ・ブリゲード」の設立と、モンスターを食すサバイバルが食文化として根ざした歴史が語られていくのだ。バトルアクションと料理バトルの融合という荒唐無稽な世界に違和感なく飛び込める。

各章で物語が大きく動き、中だるみをまったく感じさせない

成功や友人を得て、挫折に苦しみ、そして家族に支えられ成長する、胸がすく青春ストーリーだ背景設定こそ異様だが物語は意外なほど王道である。小さな村の食堂経営に縛られながらも、ブリゲード入団という夢を抱き続ける主人公ミナ。決心して家を飛び出し入団試験の料理大会を突き進む。成功や友人を得て、挫折に苦しみ、そして家族に支えられ成長する、胸がすく青春ストーリーだ。そして物語は思わぬ方向に転がり始めていく。各章で物語が大きく動き、中だるみをまったく感じさせない。

Battle Chef Brigade レビュー
シーンにあわせた絵の変化とともに、密度の面で読み応えのあるテキストを披露してくれるので、物語にグイグイと引き込まれていく

意外性や驚きは、世界背景やストーリーラインだけではない。登場人物たちにも見かけによらないギャップがあり、会話の端々でそれが明かされる。首都での挨拶「皿を割りたもう」を始め、何度も驚かされることになろう。シーンにあわせた絵の変化とともに、密度の面で読み応えのあるテキストを披露してくれるので、物語にグイグイと引き込まれていく。

また、物語の進展にあわせて料理バトルにひねりが加わり、ゲームプレイでも飽きさせない。バトルアクションは敵が攻撃的になり、ステージも起伏に富む。マッチ3パズルには回しすぎると壊れるジェムや毒ジェムが追加され、アイテムでの強化と釣合いをとってくる。もちろん対戦相手もてごわくなるので、美食の追求を忘れてはならない。

Battle Chef Brigade レビュー

「食の安全」が脅かされ大飢饉の再来が暗く影を落とすそのとき。人々の胃袋を守るべく料理界の最前線に立つ主人公ミナの雄姿を見届けてほしい。料理バトルを通じて世界を救う物語が、プレイヤーの心の空腹を満たしてくれるだろう。