92時間。これはクリア時のプレイ時間である。ストーリークリアを最優先にしつつ、サブクエストや育成にも手を掛けたが、まだまだやり残したことが山ほどある。長いレビューになってしまったので先に簡単な評価をここに記そう。「ゼノブレイド2」はシリーズいち間口が広く、RPGなどの戦闘に奥深い戦略や美しい式を見つけ出すのを楽しむ愛好家たちにとって、あらゆる嗜好を満たしてくれる至極の一作だ。

王道という盤石な土台を強烈な個性で彩る熱い物語

シリーズいち間口を広いと評したのには、メインシナリオとキャラクターが大きく貢献している。ボーイ・ミーツ・ガールに主軸を置いた物語は、王道で読み進めやく更にキャッチーにさせているのが、第1話◯◯、第2話◯◯と物語の節目を話数でカウントするアニメ・漫画的手法だ。

主人公レックスは、「世界樹の頂上にあると言い伝えられている楽園を目指す」という他人から苦笑を買ってしまうほどの夢を叶えるため、ひたむきに前進していく。その道程で人の生死を目の当たりにし、挫折した分だけ成長し大人になっていく……という、いま時珍しくなりつつあるドストレートな主人公だ。第1話で出会う女の子のために傷つき、守り、邁進する様は、ぼくらが物心ついた頃からいろんな媒体で刷り込まれてきた主人公像そのものだった。それでもマンネリを感じなかったワケは、奥深い世界観もされど、以下のようにレックスの一貫した目的にある。

ゼノブレイド2 レビュー
アルストの中心に聳え立つ世界樹

レックスの目的(夢)は徹頭徹尾ブレることなく、一貫して世界樹の頂上を大好きな女の子のために目指していた。イーラ(敵対組織)に邪魔されようと、国と国の争いに巻き込まれようと、最後まで目的を変えることなく、突き進む様は爽快そのものだ。道程様々な事件に巻き込まれ、井の中の蛙が、「一国の悲惨さ」や「世界に迫る危機」などを目の当たりにするうちに、当初の目的が変わる or 後回しにされる作品がある中、上述した経験を得ながらも本作の主人公のブレ無さは痛快とも似た感想を受けた。

眠りについていたヒロインのホムラを覚醒させたレックスは「楽園から来た」「同じように世界樹に用がある」と告げられ、彼女と共に楽園を目指すことに。母性溢れるホムラのヒロイン力は凄まじいながらも、萌えに媚びている印象を与えないギリギリのラインを攻めている印象を受けた。後に彼女のもう一面「ヒカリ」が明かされるのだが、こちらは強気なツンデレ系キャラだ。

ホムラ(ヒカリ)は2つの人格を持ち、更に見た目もガラっと変わる。視覚や記憶を共有しているものの、性格が違うのは勿論、趣味趣向も違う二人は、レックスを通してプレイヤーを多いに悩ましてくれる。ホムラとヒカリのどちらかを選ぶ必要に迫られる場面は実に悩ましい。

するするとほだされていく重厚な世界観

本作を独特たらしめている3つのポイントを挙げよう。雲海の底から伸びる世界樹にまつわる設定や、超巨大生命体「アルス」の上で生命が育まれ人類が繁栄してきたアルストという大まかな世界観が1つ。人間と同調することで初めて生まれ、同調した人間と共存する存在の「ブレイド」が2つ。ブレイドは「ドライバー」と呼称される同調した人間が死ぬと自身もクリスタルに還ってしまうが、別の人間に同調されることで再び生まれることから、永遠の命を持つとも言われる。ただし、前世の記憶を失って……。

ゼノブレイド2 レビュー
神話のごとく語られる「聖杯大戦」

そして3つめは、500年前から募らせたてきた恨み辛みや、一国の情勢を覆らせられるような、様々な真実が詰まった「聖杯大戦」と呼ばれる伝承を「パンドラの箱」としたプロットにある。各話の冒頭には、500年前に起きた「聖杯大戦」の回想が差し込まれるので、ホムラとイーラの関係や戦争の真実など様々な知的好奇心を促してくる。

永遠の命を持つとも言える「ブレイド」のその先は?「アルス」はどこから生まれ出でた生物なのか?なぜ海ではなく雲海なのか?など様々な疑問や謎は、説得力ある理由で裏付けされていく。物語が佳境に入るにつれ、つまびらかにされる真相を目の当たりにするのは、自身の考察との答え合わせも兼ねており、伏線がきれいに回収され、すとんと胸に落ちてくるのは、気持ちがいいものだ。

危うくヒロインを食いかねない魅力的な仲間たち

「ドライバー」としての適性がないために人工ブレイドを作ったトラとハナ、ホムラのポジションを食いかねないニアとビャッコ、流暢な関西弁と厨二病を融合したカオスなギャグ担当が時折見せるシリアスのギャップがずるいジークとサイカなど、レックスの周りには、実にバラエティ豊かな仲間たちがいる。往々にして、AIやロボットに弱い筆者のお気に入りは、人工ブレイドのハナだ。ハナはトラを主人として扱うよう学習されているものの、なぜか「毒舌」というトラの隠れた趣向(?)が暴かれたキャラクターになっている。ハナは良い意味でロボットらしくなく、人間味があるのも個人的にはグットだ。

ほどよい距離感を保つ敵対組織

ゼノブレイド2 レビュー
イーラを名乗る敵対者たち

若干ネタバレになるが、敵対組織のイーラは主人公たちと目的が一致している部分がある。勿論、邪魔だと殺しにかかってくることもあるが、時には主人公たちを先導させるような動きに出たりする。進行を邪魔する障害としての一面が薄い敵側の何と心地よいことか!と改めて気付かされた。また、敵側のキャラクターはヒロインと深い因縁があり、レックスたちが知らない過去を匂わせながら、ヒロインに接触する様子は、何だか元カレが出張ってきたようなモヤモヤを生んだ。「お前にコイツの何がわかる?」「結局お前はヒカリを見向きもせず、道具としか扱っていない」などと手痛いセリフを浴びせられる場面はゾクゾクと来るものがある。これが主人公とヒロインをより引き立たせる非常に良いエッセンスになっているのだ。

2クール24話ほどのアニメに匹敵する濃度と中弛みしない本作の物語は、一度掴んだプレイヤーの心を離さないだろう。ストーリー上「ゼノブレイド」との関連性は「その武器は!」「いまのセリフって…あぁ……」という2箇所ほどしかないので、本作から始めても何ら問題ない。

キミは誰と旅をした?個性溢れる「レアブレイド」

ブレイドは大まかに、デザインが統括された普通の「コモンブレイド」と、数十人の著名イラストレーターらが原案を担当し、専用シナリオも用意された「レアブレイド」の2種類が存在する。ブレイドとは、ブレイドが眠りについた姿である「コアクリスタル」を元に「ブレイド同調」と呼称される所謂「ガチャ」(※有料課金ではない)のような手法を介し仲間に出来るのだが、レアブレイドは本当に出ない……まさしく希少だ。しかし、クエスト上で遭遇したり街中で生活しているレアブレイドなど「ブレイド同調」以外の場で意外な出会いを果たすこともある。

レアブレイドは、担当絵師の特徴を殺すことなく、ほぼイラストのまま忠実にモデリングされている。さらには池田秀一や宮野真守、能登麻美子や日笠陽子など第一線で活躍する声優陣が担当しているのもポイントが高い。各レアブレイドにはしっかりと背景が用意されており、「ブレイドクエスト」と呼ばれる専用クエストではメインストーリーと同様にカットシーンも入る。

レアブレイドとの出会いはプレイヤーによって異なり、最初に同調したレアブレイドや、自身の推しブレイドの話で花が咲くことだろう。一緒に旅をしてきた仲間が千差万別というのは、自分だけという特別感をもたらせてくれる。

職人の腕が光るこだわりのモーション

ゼノブレイド2 レビュー
ハナJSの待機モーション

従来作と異なり、アニメ的表現を得意とする“トゥーンシェーダー”を採用した本作のモーションは、戦闘時など動きが激しい場面は勿論、徒歩や走る時、待機時や立ち泳ぎ時など細部まで拘って作られている。普段あまりない、立ち泳ぎや水中移動時のモーションでさえ、各キャラクターの個性を存分に魅せてきたのには、そこまでやるか!と軽く衝撃を受けた。メインキャラクターが軽く10人を越え、更にレアブレイドが40体ほどいるのだが、それぞれの個性が細部にまで施されているのは脅威的と言えよう。

ゼノブレイド2 レビュー

筆者がモーションに注視しているだけかもしれないが、きっとお気に入りのモーションが軽く5~10個は見つかるだろう。私のお気に入りのモーションを1つあげるなら、意外性No.1「その腕そんな使い方出来たの!?」と驚かされた立ち泳ぎ時の「ニューツ」だ。

ぱっと目に入り、好奇心を沸かすのは「揺れ」のモーションだろうか。風になびく布地や髪の自然な動きは、ただ立ち止まっている状態ですらも、プレイヤーを退屈させないものへと昇華している。揺れと来たら「ニア」の猫耳についての言及は外せない。感情と連動し揺れ動くそれは、実に動物的でとても愛らしい。

アニメ的表現を落とし込んだ見応え満点のカットシーン

本作のカットシーンは、カァーっと顔を赤らめ平手打ちをするラブコメ演出、頭頂部に小型機がドックインするロボットもの演出などアニメ/漫画的表現をこれでもか!というほど取り入れられており、クリエイターの楽しさが透けて見えるようで退屈を感じることは一切なかった。特にギャグ担当のジークのシーンは悶絶ものであり、ゲームでここまでギャグ漫画的手法を表現しきったものは無いのでは?と思わせるクオリティだ。カット割も実に見事で戦闘シーンなどの見せ場は特に瞬きが許されず、上質な3Dアニメを観ている気にすらさせる。

 

カットシーンではより表情が多様に変化し、目が点となるギャグ顔から悲しみを噛みしめる繊細な表情まで、声優に負けじと心情を正確に表現している。抱腹絶倒させてくれたジークの顔芸や、瞳孔が開いたハナのキレ顔などは特に印象が強い。握り拳をゆっくりと開くようにじんわり動く表情の変化は目覚しいものだ。

数十時間経っても新たな可能性や戦術を模索できる奥深い戦闘システム

1人あたり最大3つのブレイド(ロール)を装備し、リアルタイムで戦況に応じて臨機応変にブレイドを変えられる「ブレイド・スイッチ・バトル」は非常に奥深く50時間90時間経っても飽きない。3種類のコンボやキャンセル、チェインアタックなど、すべてを理解するのに時間はかかるが、慣れてくるといかに美しい式で敵を倒すか?チェインアタックで100万超えのダメージを出すには?PTメンバーは1つのロールに偏らせてブレイドを複数組ませたほうがいいのか?など、長時間経過しても新たな疑問や答えが浮かび、理解が深まるので楽しくて仕方がない。そして、複雑な戦闘は決して進行の妨げになることはなく、半分ほどの理解でも十分クリアでき、シリーズ初心者にも優しい寛容さも備えている。

ゼノブレイド2 レビュー
「ブレイク」など体勢を崩している敵に必殺技を与えることで発生する「フュージョンコンボ」

「ドライバーコンボ」は従来作にあった敵を「崩し(ブレイク)」状態から「ダウン」させる一連の動作を指す。今作はそれに加え、「ダウン」状態の敵を浮かせ行動不能状態を延長する「ライジング」高く浮かんだ敵を地面に叩き落とす締めの「スマッシュ」の2種類が追加された。「スマッシュ」を決めると、ボーナスとして「コアクリスタル」を含むアイテムをじゃらじゃら落とすので率先して狙っていきたい。筆者の場合、ライジングもスマッシュも狙ってやるようになったのは、60時間を越えたあたりで、4~8秒ほど行動不能状態にする「ダウン」を狙って出来るというだけでも有利に戦闘を進められた。

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ニアを包んでいる青い円がキャンセルの成功を示すエフェクト

通常攻撃またはアーツ(技)がヒットした瞬間にアーツを使うと発生する「キャンセル」という技法は、通常より素早くアーツを発動できる他、ダメージアップなどの恩恵もある。また、アーツにより後述する「必殺技レベル」のメーターが溜まるので、ガンガン使っていきたい。すべてのアーツがクールタイムに入った段階で(アーツはブレイド依存)、他のブレイドに切り替え、再度キャンセルを駆使して通常攻撃からアーツ、アーツからアーツとキャンセルを繋げるとあっという間に必殺技レベルがⅢまで到達する。キャンセルを覚えることで戦闘は大幅に加速するのだ。

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赤い円で囲っている部分が現在の必殺技レベルを示している。

「必殺技レベル」は1~4まで上昇し、必殺技レベル1から「ブレイドコンボ」の組み立てが始まる。パーティー全体で必殺技を駆使するブレイドコンボは、彼らの必殺技レベルを把握することから始まる。理想は、Aがレベル1、Bがレベル2、Cがレベル3で留まっている状態だ。火属性の必殺技から始まったなら、次は同じ火属性か水属性の必殺技レベルIIで繋げなければならないなど、決まったコンボルートがあるので属性にも気を使う必要がある。

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右上の赤い四角で囲っている部分が、ブレイドコンボのルートを示している。

「ブレイドコンボ」は必殺技のリレーであり、ゴールである必殺技レベル3または4まで完遂させられるだけでも、最初の2、30時間は達成感に満たされるだろう。いかに素早くそしてスムーズに繋げられるか?「ブレイドコンボ」を完遂させるまで理想の工程を組み立てて行くのは非常に楽しい。

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画面中央上の3つの玉が「属性玉」

ブレイドコンボを最後まで完成させることで発生する「属性玉」は「チェインアタック」で効果を発揮する。「チェインアタック」を発動すると、時間が止まったなか最低でもPTメンバーの全員が1回ずつ必殺技を出せるのだが、前述したブレイドコンボを完遂させると付与できる「属性玉」を割るたびに、ボーナスとして更にもう1周できるのだ。

ゼノブレイド2 レビュー
「属性玉」を全て割った状態

3のHPを持つ「属性玉」を割るには、2のダメージを与え反属性(火↔水、風↔氷…etc)に必ずヒットする反属性の必殺技を与えるのが1番効果的だ。相反しない属性の必殺技を使用した場合、ランダムで「属性玉」を選択してしまうので、「属性玉」が2つ以上付与している状態では、よく考えて必殺技を行使していく必要がある。

「チェインアタック」を極めれば、一度に100万200万300万と甚大なダメージを与えられるようになる。「属性玉」を「ブレイドコンボ」で付与していく下準備は楽しく、一度のセッションで玉をすべて割れた時の達成感は凄まじい。そして7~8桁の数字を叩き込めた際は最高にハイな気分にさせてくれる。

上述した様々な戦闘システムは、何も焦って覚える必要はなく、徐々に身につくように出来ているのは巧妙だ。

ゼノブレイド2 レビュー
PTメンバーのアイコンの周りを白い点が3つ回っているので、必殺技レベルが3まで溜まっていることが分かる

しかし、一部明らかに説明不足であることは否めない。操作キャラ以外の「必殺技レベル」は、UIでしっかり表記されているが、言われなければ気づかない人が大多数だろう。UIレベルではしっかり示しているのに、それを説明しないのは勿体無い。

如何に安定して属性玉を5つ以上付与できるかを模索したり、ブレイドの組み合わせを厳選したりと、プレイ時間が100時間を越えた筆者ですら未だに研究途上である。これはシリーズファンは勿論、RPGの戦闘に深い戦略などのこだわりを持つプレイヤーにとっては、あらゆる嗜好を満たす至極の一作であると絶賛したい。

仲良くなることで能力が解除される「キズナリング」システム

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ハナJSのキズナリング

ブレイドの育成は、「キズナリング」と呼ばれるものが採用されており、経験値を獲得し、スキルが解放されたりする一般的な育成方法とは異なっている。特有の技を◯回使用せよ、◯◯を倒せ、◯◯歩移動せよ、などの条件をクリアすることで、該当のスキルが解除されていく。レアブレイドの場合は「ブレイドクエスト」のクリアを条件になっているものがある。これは、そのブレイドにフォーカスが当たったクエストで、一時とはいえ主人公として振る舞う様が色濃く描かれる。「ブレイドクエスト」は言うならば短編小説だ。そんな短編小説を読み終えることで、能力が開花するなんてご褒美の上にご褒美を重ねられるも同然である。ブレイドの趣味嗜好や夢などパーソナリティが描かれる「キズナトーク」を見ることで解除されるスキルもあり、これまたご褒美の2段構えだ。

しかし、ブレイドクエストやキズナトークなど、キズナを深めることでレアブレイドが育つ要素は、全体数で言うと少ない。多くは◯◯を倒せなどのタスクが条件になっており、どこそこに行って対象の敵を見つけ出して倒すのは、見つけるのも容易じゃないし作業感が強く時に面倒くさかったりする。それをカバーしてくれるのがレアブレイドへの愛だ。愛があればちょっと面倒なタスクも簡単に乗り越えられる。