「Marvel パニッシャー」の物語は残酷な形で幕を開ける。フラック・キャッスル(ジョン・バーンサル)の初登場シーンでは、パニッシャーというキャラクターの凶暴性が明確に示される。だが、それは最初の数分だけだ。第1話の残りは、意外にもキャッスルが平和な生活を求める姿が描かれる。

「Marvel パニッシャー」第1話「3 AM」 レビュー

妻と子ども2人を失い、生活を完全に壊された男を演じるバーンサルは、またしてもパワフルな演技を見せている。全てを奪われた男が当然感じるであろう怒りと憎悪を表現しつつ、バーンサルはフランクが抱える危うさと脆さもさり気なく示している。彼は本作で、周りにいる人間を全員殺してやりたいという衝動に駆られる男を演じなければならないのだ。

「Marvel パニッシャー」の物語は人々を夢中にさせる一方で、疑問も投げかける。パニッシャーがただの殺人マシンだということを忘れるのは簡単だ。フランクにとって正義を貫く唯一の方法は、彼の水準に至らない人々を全て殺すこと。これを不条理な暴力を正当化する理由にすぎないと決めつけることもできるが、「パニッシャー」のプレミアは、スティーヴ・ライトフットの素晴らしい脚本により、それよりも遥かに深いレベルに達している。このエピソードの醍醐味はバーンサルと、彼が演じるフランク・キャッスルに起因している。正しいことをするべきか、冷酷無比に殺すべきか――常に2つの選択肢の間で引き裂かれているフランクを観るのは、非常に面白く、引き込まれる。「パニッシャー」の脚本家たちがこの緊張感を残りの12話でも維持してくれると嬉しい。

第1話のディレクションとペースも称賛に値する。視聴者は、6カ月の間、殺しから足を洗っていたフランクの精神状態を次第に理解していく。「パニッシャー」のプロモーション映像を見れば、フランクが常に妻と子どものフラッシュバックに苛まれていることがわかる。過去の記憶はフランクというキャラクターを形成する重要な一部であり、製作総指揮のスティーヴ・ライトフット(「ハンニバル」)はそれを視聴者にダイレクトに伝えようとしている。

ライトフットの脚本は番組を面白くするためのゴア表現に満ちているが、本エピソードはフランクがたった1人でいる静かな瞬間において、真の輝きを放つ。エピソードのタイトルである「3 AM」はフランクが毎晩、まどろみから突如として目覚める時間を指している。フランクが見る悪夢は、すでに暗い物語のトーンをさらに強調するシンボリズムとして使われている。午前3時は魔女の時間、もしくは悪魔の時間として知られ、邪悪なものが飛び出す時間帯とされている。フランクの悪夢はこの時間に襲ってくる。

 

このようなキャラクターを静かに掘り下げる視点は、フランクが眠りに着く前に「白鯨」を読むシーンでも見られる。劇中で使うにはあまりにも狙ったような小説だと言う人もいるかもしれないが、私は「白鯨」がフランクのストーリーにはピッタリだと思う。身を滅ぼしてでも伝説のマッコウクジラを追うエイハブ船長の物語以上にフランクに合っている小説があるだろうか? パニッシャーが悪人に正義の鉄槌を下すのを見るのはスカッとするが、フランクが進む道のりは彼を非常に暗い場所へと連れていく。エイハブ船長と同様、フランクも自らの破滅に向かって舵を取っているのかもしれない。

「3 AM」の大部分において、ライトフットと制作陣は全てを上手くこなしている――フランクの描き方は特に素晴らしい。だが、物語のフォーカスがサポートキャラクターに移ると、少し調子が狂ってしまう。今回、「パニッシャー」の世界に加わる新たなキャラクターは、国土安全保障省のエージェントであるディナー・マダニ(アンバー・ローズ・レヴァ)だ。まあ、「3 AM」は1話目にすぎず、まだ彼女のキャラクターを掘り下げる時間は残っているが、今のところ、面白い物語は全てフランクを中心にしていると言って良い。すでに様々なキャラクターで溢れかえっている世界に、新規キャラクターを加えるのは容易ではない。レヴァは誰が共演者でも存在感を出すことができる役者だが、このエピソードでは威圧的な上司と言い争う場面しか与えられていない。

 

ディナーのパートナーであるサムにしても、今のところぎこちないコミックリリーフにすぎず、あまり有効活用されていない。今後のエピソードでディナーとサムに見せ場が用意されていることを願おう。オフィスビルに篭もるのではなく、フランク・キャッスルが潜んでいる町に飛び出すのはどうだろう?

才能の無駄遣いと感じない唯一の脇役は、ジェイソン・ムーア演じるカーティス・ホイルだ。フランクの軍人時代からの旧友を演じるムーアは見る者の目を惹きつける演技を見せている。混沌としたフランクの心に対し、カーティスは理性の声としての役割を果たす。使い古された言い回しだが、彼は「パニッシャー」におけるヨーダだ。我々は海外に派遣された軍人時代のフランクに何が起きたのか未だにわかっていないが、カーティスには同じような影響を与えなかったようだ。彼ら2人の物語がなぜここまで異なるのか、今後の展開に関心が高まる。