クリエイティブで、クレイジーで、クソ面白い。「スーパーマリオ オデッセイ」はトレーラーを見たときから「ヤバイ」と思ったけど、マリオは僕の期待を華麗なジャンプで軽々と飛び越えてみせた。

なにはともあれ、まずはキャッピーに脱帽。マリオの新しい相棒となるこの帽子は「オデッセイ」のゲームプレイにおいて主役と言っても過言ではない。七変化どころか、52タイプのキャラクターやオブジェクトをキャプチャー(乗り移ること)できるキャッピーは「スーパーマリオギャラクシー」をも上回るゲームプレイの多様性を生み出している。マリオ本人を含めると53の操作系がひとつのゲームに詰まっていて、それでいてぎこちないものはひとつない。移動するだけのシンプルなものもあるが、それだけでゲームが作れてしまうほど楽しいキャプチャーもたくさんある。

スーパーマリオ オデッセイ レビュー
ゲームの序盤でさっそくカエルに乗り移るケロ!

「ママミア」に「レッツゴー」くらいしか言わないのに、マリオには確かなパーソナリティが備わっている。同じくして、キャッピーの魅力もセリフではなく、その見た目を通して描かれる。ヨッシーの可愛らしさ、クッパの恐ろしさがひと目でわかるのに対して、帽子という姿形をしているキャッピーの魅力を外見で表現するのは限界があると思うかもしれない。

キャッピーは今後ともずっと被っていたい帽子だ。

だが、任天堂のキャラクターデザイナーとアニメーターは「目」というパーツだけで、今後ともずっと被っていたい帽子を作り上げたのだ。キャッピーを敵に投げつけると何か悪だくみをしているのが一目瞭然だし、マリオが爽快なジャンプを決めるとき、その頭に乗っているキャッピーの喜びは面白いくらいに伝わる。

スーパーマリオ オデッセイ レビュー
さあ、キャッピー、後は頼んだぞ!

「旅」が大きなテーマとなる「オデッセイ」の世界観はこれまでのキノコ王国や恐竜ランドと一味違う。高層ビルが聳え立つ大都会にリアルなティラノサウルスが棲まう大自然。原始人のような格好にコック服。「マリオがこんなところに!?こんな変な格好をして!?」となる場面が本当にたくさんあるので、大いに楽しんでほしいポイントのひとつだ。

「マリオがこんなところに!?こんな変な格好をして!?」となる場面がたくさん!

そして、旅には写真だ。「オデッセイ」には実に優れた機能性のフォトモード「スナップショットモード」が搭載されている。近くまでズームインして、フィルターをかけて、くるっと回転して、少しアングルを変えて、と夢中になること間違いなしだ。絵になる場面が意図的にたくさん用意され、帽子と服で訪問先にマッチした格好をすれば素晴らしい1枚が撮れるだろう。ここでもキャッピーは小道具として役立つ。キャッピーを投げてからのアクションショットもいいし、キャッピーを何かに掛けてからシャッターを切るとシュールだ。こだわり出すとキリがなく、僕は「スナップショットモード」が原因でクリアまで2倍近くの時間がかかった。

スーパーマリオ オデッセイ レビュー
あれ、キャッピーが悪さしてるぞ!

「スナップショットモード」をいじっていくと「オデッセイ」のグラフィックスの鮮明度とディテールの細かさ、それからキャラクターのアニメーションの豊かさに拍子抜けするであろう。アートディレクションはさておき、技術的な意味で「オデッセイ」はNintendo Switchで群を抜いてレベルが高い。他の現行機で出ていれば「あれはちょっとSwitchに移植できない」と言われるようなゲームだと思う。

スーパーマリオ オデッセイ レビュー
ノコノコだって帽子投げくらいは!

フレームレートも安定した60fpsで動き、ラグは30時間のプレイを通してほんの1、2度発生した程度だ。バグも一切目にしていないし、スナップショットモードで近くまでズームインしても誤魔化しは極めて発見しにくい。むしろ、砂浜でマリオがジャンプをするときに舞い上がる砂埃、巨大キラーがホオジロザメのような恐ろしさで岩を砕くときに飛び散る岩粉など、見ていてただただ感心する。

スーパーマリオ オデッセイ レビュー
巨大キラー、こちらに向かってくる!

クッパのやつはまたしてもピーチ姫を攫ってしまった。今回は結婚式を挙げる気でいるので、その手下に世界各地を周らせて結婚指輪だの、ウェディングドレスだの、美味なシチューだの、挙式のために必要となるものを集めさせている。クッパの企みを阻止すべく、マリオはオデッセイ号と呼ばれる飛行船でその後を追う。

クッパのやつはまたしてもピーチ姫を攫ってしまった。

空の旅を続けるためにはパワームーンと呼ばれる燃料が必要となり、これらは各国にたくさん散らばっている。「オデッセイ」の主な目的はこれらパワームーンを集めることだ。パワームーンは頻繁に「スーパーマリオ64」のパワースターや「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」のコログと比較されるが、その間くらいの認識がちょうどいいと思う。数は800を優に超えると言われるので、900体いるコログにだいたい匹敵する。幸い、コログのようにその隠れ方はパターン化されておらず、パワースターのように一個一個の入手方法はユニークである。

スーパーマリオ オデッセイ レビュー
帽子を使わないで攻略する場面も。

123個しかない「スーパーマリオ64」のパワースターと比べれば、パワームーンの入手はずっと簡単であるものが多い。序盤で訪れる国などは隠れもせずそこに浮いているものやキャラクターに話しかけるだけでもらえるものもあり、さらにお店で購入までできて、ちょっと希少価値が足りないと残念な気持ちになった。だが、ニュードンクシティを超えたあたりから僕は気づいた。楽に入手できるパワームーンとそうでないものとの間にはほどよいバランスがある。「オデッセイ」は3Dマリオの久々となる箱庭ゲームだ。しかも、「スーパーマリオ64」に「スーパーマリオサンシャイン」と違ってミッション性ではなく、箱庭を思うがままに探索し、ひとつのパワームーンを入手してもそのまま冒険を続けられる。どの3Dマリオよりも探索に重点のおかれた本作において、パワームーンの発見しやすさのばらつきは旅のリズムを作り出しており、それがなければプレイヤーは行き詰まってしまうだろう。

スーパーマリオ オデッセイ レビュー
自然と誘導されるデザインは秀逸。

「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」ではプレイヤーの関心を引くオブジェクトを慎重に配置し、シームレスな形で探索を促していた。それとまったく同じように、「オデッセイ」の箱庭たちは新しい発見が自然と目につくようにデザインされている。次の国へ移動するためのパワームーンがとっくに足りていても「あれを見てから」となり、そこを目指す過程でまた違う何かに目が行き、気がつけばパワームーンを10個も集めているようなことが度々とある。

「オデッセイ」の箱庭たちは新しい発見が自然と目につくようにデザインされている。

パワームーンは「オデッセイ」のメインとなる収集対象だが、今回はコインも集めたくなるはずだ。クレイジーキャップというお店ではマリオの帽子に服、それからオデッセイ号を彩るステッカーにオブジェクトが買える。通常のコインは万国共通で使えて同じものが買えるのに対して、各国に限られた数しかないオリジナルコインではその土地に合った特別なものが購入できる。言ってみれば現地の通貨であるこれらのコインは国によって50枚か100枚あり、全部集めるとちょうどすべてのものが購入できるように都合よくできているので、マリオとオデッセイ号のコーディネートに力を入れたければ収集は必須となる。

スーパーマリオ オデッセイ レビュー
なんとしてでもほしいオリジナルコイン。

決して広いとは言えないが、密度濃く作られた箱庭でアイテムを収集していくその過程は思ってみれば、3Dマリオよりも「バンジョーとカズーイの大冒険」のようなレア社の古き良き3Dプラットフォーマーに近い。それでも、直感的でスムーズなゲームプレイとその多様性は「オデッセイ」をいかにもマリオらしい体験に仕上げている。僕は「スーパーマリオギャラクシー」から始まったステージ型の3Dマリオがその多彩なメカニクスを最大限に活かせる構造だと思っていたが、「オデッセイ」はぶっ飛んだアクションが盛りだくさんであると同時に、世界観を満喫する楽しみが新たに増えている。

都会に恐竜がいても誰もその理由を気にしない、それがマリオ

マリオの世界にルールがないことも大きなプラスとなっている。特定のアクションやキャプチャーに特化したチャレンジが箱庭にうまくはめ込めない場合は、どこかにドアでも土管でも設置すればいい。中に入ると、そこにはそのギミックのために作られた空間(ステージ)が用意されている。なぜニュードンクシティに恐竜がいるのかや、海底にカカシが立っている理由など誰も気にしない。

スーパーマリオ オデッセイ レビュー
ティラノサウルスはなぜかパイロットの帽子まで被っている。

2Dのアイディアがあれば、開発は土管ひとつでマリオを8ビットに変身させることもおそれない。「オデッセイ」における2Dの使い方は非常に斬新で、3Dの世界に存在する壁アートのようなものになっている。自由自在にどこでも「壁画化」ができるわけではないとはいえ、くるっと角を回ると壁の反対側にたどり着けるデザインは「ゼルダの伝説 神々のトライフォース2」を彷彿とさせる。だが、リンクと違って、マリオは得意のジャンプアクションで上にも登れる。目前の高台を2Dに変身して上っていくその勇姿は懐かしいと同時に新しい。

目前の高台を2Dに変身して上っていくその勇姿は懐かしいと同時に新しい。

初代「スーパーマリオブラザーズ」をベースとした2Dアートワークも魅力的で、そのときに着ている衣装がちゃんと反映されるのも嬉しい。これらの2D場面は決して長くはないけれども、円形の塔から和風の絵巻物まであり、見ていて飽きない。

スーパーマリオ オデッセイ レビュー
マリオが国宝に!?

ここまで書いて、すでにマリオの過去作や他の任天堂のゲームとの比較を行ってきたけれども、プレイすればプレイするほど「オデッセイ」のゲームプレイが任天堂の集大成のような内容に思えてくるだろう。「スーパーマリオサンシャイン」のポンプアクションに似た機能性を持つキャプチャーがあり、溶岩バブルになれば穴のある床をすり抜けられるのは「スプラトゥーン」の要領だ。

スーパーマリオ オデッセイ レビュー
「スーパーマリオサンシャイン」のポンプアクションを彷彿とさせる場面も。

弊誌でも執筆するフリーライターの福山幸司氏は「ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて」について「ゲームでしかできないことを通り越して、ドラクエでしかできないことを表現している」と話したけれど、「オデッセイ」もまた「マリオでしかできないもの」を表現している。「オデッセイ」をプレイして、一番驚いたのは過去作へのオマージュの数々である。

「オデッセイ」は「マリオ」のアタリマエを根本的に作り直したのではなく、そのエッセンスをとことんと追求したタイトルといえる。

初代「ドンキーコング」でヒロインを務めたポリーンの久々の登場やマリオの過去作にちなんだ衣装といったわかりやすいものはもちろん、ニュードンクシティにある懐かしい看板、壁に刻まれたネコマリオのドット絵、とある国の産業が「花札」であることなど、任天堂やマリオの過去を知るファンのためには味わい深いイースターエッグがふんだんに用意されている。任天堂が懐古的な演出をここまで豊富に盛り込むのは珍しいが、非常に革新的なタイトルであると同時に自分のルーツに忠実なマリオでもあることがわかるだろう。これが「ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド」との大きな相違点であり、「オデッセイ」は「マリオ」のアタリマエを根本的に作り直したのではなく、そのエッセンスをとことんと追求したタイトルといえる。

スーパーマリオ オデッセイ レビュー
こんなところにネコマリオとネコピーチがいたケロ!

どれくらいパワームーンを集めるかや、僕みたいにスナップショットモードに夢中になるかどうかにもよるが、本編をクリアするまでは平均15時間程度かかると思われる。最後の展開は任天堂の歴史に残るエンディングで、「オデッセイ」という作品のテーマを体現している。スタッフロールが流れる時、「これは参った」と思うに違いない。だが、「オデッセイ」の冒険はまだまだ始まったばかりだ。クリア後に初めて行ける国があるのは当然として、すべての国に新しいチャレンジがたくさん増えている。難易度が低めに設定されていた序盤で訪れる国も、新たなチャレンジのおかげでそこにしかないメカニクスをより高い難易度で楽しめる。クリア後はパワームーンを集めたくなるリワードもちゃんと用意されているので、すべての国を何度も再訪することになるだろう。少なくとも、僕は「オデッセイ」のすべてを熟知するまで、その世界を離れることができそうにない。

スーパーマリオ オデッセイ レビュー
ああ、永遠にこうしていたい。

「オデッセイ」をまるで完璧な作品のようにレビューしてきたが、実際にひとつの完成形といえるようなゲームだ。最後に、僕が見出した「オデッセイ」の唯一の欠点も紹介しておこう。

マリオの従来のジャンプアクションに帽子アクションが加わり、非常にスムーズで洗練された操作系と言えるが、どうもモーションコントロールだけは腑に落ちない。任天堂はJoy-Conの2本持ちを推奨しているが、ゲーマーは一個のコントローラーをガッチリ両手に収めたいもの。「オデッセイ」はProコントローラーでも携帯モードでも遊べるが、一部の技はモーションコントロールが必須となる。どのコントローラーもモーションコントロールに対応しているし、キャッピーのスピンアタックなど技によってはボタン入力での発動も可能だが、それでも一部の技は出しにくいという事実は否めない。そもそも今さらモーションコントロールにこだわる理由が僕にはよくわからない。据え置き型ゲーム機と携帯ゲーム機のハイブリッドであるNintendo Switchのコンセプトにもモーションコントロールは不相性だと思う。まあ、これは「オデッセイ」だけの問題でもないのだが……。