ナンバリングの「3D」からはや7年、今度こそ3D……どころか、一気にVRへ超進化した魔王とそのムスメ。魔王と言えば「$%#&$*#$+*%+*#」と何を言っているか分からない電子ボイスが心地よく、逆にパワーアップしすぎて喋れるようになったのは寂しいが、VRで文字を読むのは少し辛いので妥協しようではないか。

逆にムスメ、喋ってくれてありがとう。「サマーレッスン」ならぬ「ムスメレッスン」が欲しくなるほど可愛らしくなったムスメのサポートで、じめじめとした穴蔵を掘り進み、スライム(正確にはニジリゴケ)をすりつぶす日々に終わりを告げよう。さぁ、ムスメと共に世界征服の旅へ出かけようではないか!(魔王は何処へ行った)

また、本レビューでは直接触れないが、ソニーからの面白新商品「ウェアラブルネックスピーカー SRS-WS1」を着用してのレビューも後日掲載予定なので、そちらも楽しみにしてほしい。

その場から一歩も動かず世界征服!

「世界征服の旅へ」と言ってみたものの、部屋から外へ出るどころか、一歩も歩くことなく世界を混沌へと導いていくのが本作だ。世界を模したジオラマ上で神様視点で魔物を操り、攻めてくる勇者たちを倒しながら街や城を攻め落とすストラテジーとなっている。魔王が破壊神(プレイヤー)をVRの世界に召喚するために重課金していたり、世界には「サメ仙人の家」などどこかで見たことのある孤島が存在したりするなど、ユニークな世界観はさらにパワーアップした。

まずは魔王とムスメの自己紹介から始まるのだが、とにかくムスメが可愛いの一言に尽きる。長く見つめると反応し、テーブルを回転させるとあわてふためき、ぷっくらほほを膨らませ赤くする。表情豊かでいじり倒したくなるのだが、正直そのリアクションは豊富とまでは言えずDLCでムスメのリアクション集が欲しくなる……最大1280円ほどでどうだろうか? その可愛さも垣間見える序盤のゲームプレイ映像はこちらだ。

机の上のジオラマ世界で小さなキャラクター達が息づいている

魔物や勇者など、登場するちびキャラ達も非常に生き生きしており、朝になれば勇者が見回りや魔王討伐に街を出て、夜になれば街の周辺に戻って眠りにつく(大半は魔王に攻めてくるが)。流石に行動パターンは少ないが、机の上のジオラマ世界で小さなキャラクター達が息づいているのを感じられる。

プレイヤーは、DUALSHOCK 4をVR上で再現した「神コン」を使って世界に干渉しながら、世界征服を目指す。今作も魔物を直接操作することはできないが、敵の拠点へ全軍を上げて攻撃を仕掛ける「総攻撃」のスキルや、雷などを使った戦闘への介入(スキル)、魔物を「神コン」に吸い込んで別の場所へ移動などプレイヤーができることはかなり増えて大忙しだ。

ただ原因はよく分からないが、肝心のDUALSHOCK 4のキャリブレーションが上手くいかずVRへの空間情報のズレが大きく出てしまう。コントローラーを認識しやすいように、カメラを水平位置に設置することで多少改善したが、この認識の悪さは少し気になった。

本作ほど「箱庭ゲーム」の名称が似合うものはないだろう

「PS VR」本体の装着も含め、そういった煩わしいところを乗り越えると眼下に広がるは、3Dになったちびキャラ達が生活を営むジオラマ世界だ。ボタン操作で視点を変えれば火山の中だって覗き込むことができ、その世界は実に良くできており、本作ほど「箱庭ゲーム」の名称が似合うものはないだろう。

V!勇者のくせになまいきだR レビュー
テーブル上にワールドマップを再現し世界征服を狙う。

筆者的には、このままのんびりと住人の生活の営みを眺めていたいところだが、それではゲームジャンルがガラリと変わってしまう。ここは心を鬼に……いや、破壊神にして魔王の世界征服の野望に手を貸していくことにしよう。

これまでは穴掘りでダンジョンを作って待ち構える受けのスタイルだったが、本作ではこちらが城を襲って陥落させることがクリア条件になるなど、攻撃的なストラテジーへと変化した。ステージによってはちょっとしたやり込み的にゲームの進行が変化するなど、工夫が見られるのも良い感じ。ムスメから箱眼鏡(PS VR)と揶揄されながらも、ゲームプレイの幅は広がり、シンプルになったゲーム性により大量の魔物で勇者を圧倒するのはこれまでになく爽快だ。

スタート地点で戦力を整えながら、攻めてくる勇者たちを返り討ちにする守りのスタイルも健在。進行の阻止に失敗すると、伝説の剣を手に入れて伝説の勇者になる勇者が登場するなど、ゲームの舞台が地上になったことで注意すべきポイントも多くなった。

伝説となった勇者はかなり強いため、だいたいは普通に負けてゲームオーバー的なイベントが発生する。これは魔王がリアルに簀巻きにされて連れ去られる衝撃的な映像と、その結果ムスメとの2人きりの空間をほんのわずかだが楽しめる(ゲームオーバーがハッピーエンド?)。

V!勇者のくせになまいきだR レビュー
防衛に失敗すると、どこかで見たことがあるような勇者に連れ去られる魔王。

生態系を制するものが世界を制す

「ゆうなま」攻略の基本は、食物連鎖の生態系をいかに構築するかにかかっている。前作「3D」までのプレイは穴掘り、そして魔物たちの食物連鎖をコントロールながらの勇者の迎撃、さらにはその残骸(魔力)を新たな魔物の足がかりにするなど、なかなか高度なプレイが必要だった。

今作は、穴掘りの代わりに「魔物の巣」を魔王軍の領土に置くことで魔物を誕生させるお手軽なゲームに変化。上位の魔物が下位の魔物を捕食する食物連鎖は健在で、気がつくとジオラマを埋め尽くす勢いで増えていく。

V!勇者のくせになまいきだR レビュー
1~2分で60体ほどに。あまり悩まずプレイでき、旧作の取っつきづらささは激減した。
厳しさが増した仁義なき食物連鎖を制御する手腕が求められる

領土は「魔物の巣」を置くことで、周囲をまがまがしい紫色に染めながら広げていけるが、置ける巣には限りがあるのに魔物は食欲旺盛、捕食側のモンスターを早く置きすぎると一瞬で下位の魔物を食べ尽くしてしまうので何度も絶望させられた。そうなる前に、厳しさが増した仁義なき食物連鎖を制御する手腕が求められる。

魔物の巣を作るには、勇者を倒すことで獲得できるポイント「カリス魔」が必要だ。わずかな「カリス魔」を元手に、チョイチョイ攻めてくる勇者を倒しながら魔物を増やし領土も拡大。終盤のステージでは最初から勇者の攻撃が激しく、いかにして素早く強い魔物を用意できるかの、せめぎ合いができるようなると中毒性が顔を出す。

V!勇者のくせになまいきだR レビュー
難易度は低いため、難しいことを抜きに強大な軍隊で攻め落とすのも気持ちいい。

またゲーム中盤頃から進軍ルートが限られたり、城へ攻撃する前に何らかの仕掛けを破壊する必要があるなど、これまでのシリーズよりかなりゲーム性が増している。しかし、ギミックの破壊にはそれなりの時間を要するため、一度構築した食物連鎖のバランスコントロールが難しく、気を抜くとやっぱり一瞬で生態系が崩壊してしまう絶望ポイントでもある。

バランスが崩れる前に、増え始めた上位の魔物を間引いて合成し、さらに強力な「デーもん」や「ゴーレム」を召喚して軍をより強化していくのがベターだが、なかなか上手くいかないもどかしさがこのシリーズの楽しい部分。魔物の種類が増えると忙しすぎて管理しきれず、結果として戦力維持が比較的容易な「エレメント類」x「リリス類」を主戦力とするプレイに偏りがちだが、多種多様な生態系管理をすることで最上位の魔物への合成の近道になるため試行錯誤の連続だ。

V!勇者のくせになまいきだR レビュー
捕食対象が消えると空腹(漫画肉マーク)になり一定時間で死亡する。ここまで増えて孤立すると合成して別の魔物にするしかない。
制限時間の短さが楽しいモンスター牧場ライフをなかなか許してくれない

だが、制限時間の短さが楽しいモンスター牧場ライフをなかなか許してくれない。攻略をのんびりしすぎると規格外で強力な勇者が登場し、しかもその勇者を倒しても「カリス魔」は増えないため、早く城を攻め落とさないとじり貧になってしまう。元々1つのステージをジックリプレイするタイプのゲームではないものの、今回はちょっとテンポが速すぎる。

最終ステージを除けば、クリアをするだけならプレイ時間は余裕があるので問題ないが、攻略やプレイスタイルの幅を広げる意味では時間が少なく、ステージ毎に入手できる「カリス魔」の上限も決まっているため、制限時間のおかげでやり込みの幅が狭まっているのは非常にもったいない。

VRは長時間プレイするゲームではないが、もう少し優しい条件で規格外勇者をエンドレスで倒すチャレンジがプレイできる仕様があっても良かっただろう。

V!勇者のくせになまいきだR レビュー
「ドラゴン」に「じゃしん」など強力な魔物を揃えたが、延長で登場する勇者に屈してしまった。

おまけ要素はVRにあり

プレイ中に自然発生するムスメの反応は30種類ぐらいだろうか? 決して多くはないので、それだけではすぐに飽きてしまうが、プレイヤーの行動やその時々の戦況に合わせてアドバイスのように語りかけてくるため、場を和ませるのはもちろん、攻略の意味合いでもキーパーソンだ。

V!勇者のくせになまいきだR レビュー
色々な表情を見せてくれる魔王のムスメ。

攻略以外で、そんなムスメをずっと眺めているのも悪くはないが、攻略上で重要かつおまけ要素として楽しめる「魔物ガーデン」も負けてはいない。ガーデンにはプレイ中に登場した魔物や勇者達のミニチュアが並び、それらを眺めて楽しむことが可能でやり込み要素のひとつにもなっている。

ほかのゲームでも様々な形で見かけるが、VRのフィギュアモードは破壊力が違う

ほかのゲームでも様々な形で見かけるが、VRのフィギュアモードは破壊力が違う。小さくも現実感のあるフィギュアを隅々まで堪能でき、魔物限定だがテーブルの上で自由に動き回り、加えて神コンに乗せて動かしたり自由な角度でジックリ観察することだって可能だ(大きすぎるドラゴンは不可能)。フィギュアの中には魔王とムスメも入っているためジックリ堪能して欲しい。

そして「魔物ガーデン」の本来の目的は魔物の強化だ。ステージが進むと勇者のレベルもドンドン上がっていくため、こちらも魔物の強化は必須だ。前作ではやり込みとして未強化プレイもできたが、今作はかなりキツい(おそらく無理だ)。筆者はステージ7までクリアできたが、高レベルの勇者が襲ってくるペースが早いため、ステージ8で挫折した。

V!勇者のくせになまいきだR レビュー
ローアングルなど、眺め方で魔王から手厳しいツッコミも入る。

ゲームのボリュームは5~6時間ほどでクリアできる短いものだが、1周プレイしただけでは図鑑の収集は6割ほど。また、同じステージをランクSでクリアし続けると、そのステージの勇者のレベルが上がるなど今回は別の切り口でやり込み要素が用意されている。

ギリギリの低レベルクリアを目指すも良し、高レベルで圧倒するも良し、ハードモードでランクSを何処まで重ねてクリアできるか挑むも良し。低レベルクリア用に最初の状態からプレイするにはセーブデータの削除が必要なのが辛く、魔物の種類もちょっと減少するなどゲームボリュームは減少したが、遊びの軸が生まれ変わった「ゆうなま」はPS VRで数少ない長く愛せる定番ゲームとなりそうだ。