元刑事のセバスチャン・カステヤノス氏が堪能しているように、STEMの世界はとても晴らしいものだ。STEMは人の精神世界に入り込むという驚くべき技術が用いられたもので、そこで新たに創造されたユニオンという街にはたくさんの人が住んでいる。……少し不具合があって暗い雰囲気になっているが、あまり気にしなくても問題ないだろう。

セバスチャンが何を楽しんでいるのかというと、それは街中の探索である。ちょっとしたトラブルによって街の人々がゾンビのようなバケモノになってしまったので、彼はそれらを撃ち倒しながら武器や道具を探して回っているのだ。敵を退け隠れて進み、ショットガンを見つけた時の喜び。罠にハマってしまうこともあるが、そうして銃弾をぶっ放すのもまた一興。まるでゾンビ・サバイバルであり、こんな刺激的な体験をできるだなんてSTEMは素晴らしいものだ。ただまァ、この世界で死ぬと本当に死ぬのだが。

サイコブレイク2 レビュー
レビューに際してはXbox One版をプレイした。

ときにセバスチャンは自分のルームなる安全地帯にこもり、的当てのゲームを楽しむこともある。銃の腕を鍛えるのはもちろん、ハイスコアを出せれば景品をもらうことができるうえミステリアスで美人な看護師に褒めてもらえる。景品をもらって武器や自分の能力をさらに鍛え、もっともっと強くなっていきたい。そんな気持ちになるのも当然だ。

……ところでセバスチャン、娘を助ける任務をお忘れでないかな?

街中の探索要素、娘を助けるという理解しやすいストーリーを取り入れた「2」

サイコブレイク2 レビュー
前作より老けたセバスチャン・カステヤノス。グラフィックは前作より明らかに向上しており、傷や髪の毛の表現には特に気合いが入っている。テクスチャの貼り遅れなど気になる部分もあったが、雰囲気は悪くない。

「サイコブレイク2」はTango Gameworksによって開発されたサバイバルホラーゲームである。前作となる「サイコブレイク」は、「バイオハザード」「バイオハザード4」などを手掛けた三上真司氏がディレクションを担当したということでかなり期待されていた。結果はというと、なんというかまあ、新作なのにどこか古臭い印象を受ける作品に仕上がっていた。

続編となる「サイコブレイク2」では、前作ではほとんど触れられなかったセバスチャンの妻と娘に関する物語が展開される。前作プレイヤーに対するファンサービスはあるがキャラクターはほとんど一新されているので、もし遊んでいなくとも心配無用。そもそも妻と娘は前作の収集品においてほんの少し記述されていたくらいの存在である。なお、ディレクターは前作DLCのディレクションを担当したジョン・ジョハナス氏に変わっているため、作風にもいくらか変化が見受けられる。

サイコブレイク2 レビュー

本作の主人公は、前作に引き続きセバスチャン・カステヤノス。刑事として活躍していた彼であったが、ビーコン精神病院で発生した恐怖のSTEM事件に巻き込まれてしまい、結果として家族のみならず仕事や仲間もすべて失った。その後はSTEMを作り出した謎の組織「メビウス」の存在を追い続けるものの、連中の手がかりは何も得られない。しかし3年後、メビウスに所属しているキッドマンが現れるのであった。

セバスチャンは自分たちを裏切ったキッドマンのことを信用しないものの、結局は娘を助けることができると聞いて協力することになる。彼の娘はSTEMのコアという存在と化しており、つまりは実際に人が住むことのできる精神世界のベースになっていたのである。しかしその世界はコアが行方不明になってしまったことで崩壊を続けており、人々はバケモノと化している。果たしてセバスチャンは娘を助けられるのだろうか、といった物語になっているわけだ。

サイコブレイク2 レビュー

前作はほとんど一本道の内容であったが「サイコブレイク2」はチャプターごとに、恐怖を味わう一本道、そして探索を楽しむオープンワールド的な構成に分けられている。ディレクターにインタビューで聞いたところによれば、一本道の構成は息苦しくなる側面もあったため、こういった要素を取り込んだようである。

一本道のチャプターはほぼ前作と似た構成であり、セバスチャンが奇妙な館や崩壊した地下施設など不気味な場所を進んでゆき、カメラを構えている謎の男、炎をまとっているバケモノなどと対峙することになる。芸術的でありながらもグロテスクなシーンや、恐怖に怯えることになる場面にも遭遇することだろう。なお、前作は精神世界ということで強引な場面の切り替えが多かったが、今回はそれがだいぶ緩和されている。

サイコブレイク2 レビュー

探索するチャプターは小さめのオープンワールドとなっており、ユニオンという街を好きなように歩き回ることができる。もっとも周囲にはバケモノだらけなので注意が必要で、トラックの荷台を開けたらホーンテッドだらけなんてことも。とはいえ武器やアイテムも落ちており、最初はハンドガンとナイフしか持っていなかったセバスチャンがどんどん強くなっていくのには何物にも代えがたい喜びがある。

探索がおもしろすぎるがゆえにサバイバル要素はあってもホラーは薄くなる

サイコブレイク2 レビュー

ただこの新要素である探索、おもしろすぎるのである。最初のチャプター2あたりは緊張感のほうが勝っているのだが、探索になると怖さが一気に薄れてしまうのだから困ったものだ。確かに探索パートでも部屋に閉じ込められてバケモノに襲われたり、奇声を発して包丁を振り回すヒステリックな女のバケモノがうろついていたりと怖がらせる要素もあるものの、それよりも連中を倒して得られる脳汁(グリーンジェル)が欲しくなってしまうのだから。

クリーチャーを倒すと得られるグリーンジェルを使えばセバスチャンの身体能力を鍛えることができる。このほかにも街中には武器を強化できるギアがあったり、弾薬を作り出せるガンパウダーがそこかしこに置かれている。サイドミッションをこなせばショットガンやスナイパーライフルまで手に入るというのだから、こうなるとバケモノは単なる障害だ。しかも連中を殺せば脳汁まで落としてくれるのだから、見つけ次第射殺となるのも時間の問題であろう。そして恐怖はどこかへと消える……。

サイコブレイク2 レビュー

また、クリーチャーたちのAIが貧弱であることも問題のひとつだ。本作はステルスしながら相手に近づくことでスニークキルを行うことが可能なのだが、慣れてしまうとこれが容易になる。特にカバー状態でスニークキルができるようになるアビリティを取得すると、わざと発見されておびき寄せて車などに隠れることにより、非常に簡単に倒すことができるわけだ。このほかにも広いマップは敵から逃げることを容易にしたりと、ホラーとの相性がいまいちなように思われる。

無論、このあたりに対策が施されていないわけではない。たとえば敵に発見されているとダッシュに使用するスタミナの回復速度が落ちたり、恐怖を感じさせるためかカメラがかなりセバスチャンに寄っていたり、難易度によっては探索中に銃弾が尽きるようなデザインが施されている。とはいえそれらはプレイする上での足かせ程度にしか感じられず、雰囲気をホラーに戻すほどの効果はなさそうだ。

もっとも、大して怖くなくとも探索が楽しいのは事実だ。セバスチャンや武器をどんどん鍛えていくのは本当に楽しく、そのうち前述の的当てゲームがアンロックされるとそちらにも熱中してしまう。的当てゲームを終えるとセバスチャンは「そろそろ娘を探し出す任務ってやつに戻ったほうがいいな」とつぶやくのだが、「サイコブレイク2」は本当にそういうゲームである。主人公が娘のことを忘れるほど、探索がおもしろいのだ。

わかりやすくとも魅力に欠けるストーリーとキャラクター

サイコブレイク2 レビュー
後半に登場する仲間キャラクターのひとり「エズメラルダ」。彼女はセバスチャンの新たな相棒となるような存在なのだが、見せ場がある割に掘り下げがないのでインパクトが薄い。

さて、そんな忘れ去られそうなストーリーについても語らねばならない。前作はとにかく抽象的でよくわからないと言われたストーリーだが、今回は娘を助けるという明確な目標があり、オニールやユキコといったさまざまな仲間が登場する。仲間はセバスチャンの手助けをしたり、あるいはSTEMの闇に飲まれてしまったりと物語を盛り上げてくれるのだが……とにかくどいつもこいつも影が薄い。

基本的に「サイコブレイク2」のキャラクターはすべて“ぽっと出”である。前述のように妻や娘は前作でほんの少し言及されただけだし、新キャラクターはほとんど掘り下げがないし(あっても収集品の日記くらいのものだ)、そもそも彼らのほとんどはセバスチャンと関係なく拠点でのんびりしているだけだ。そのため本作には感動的なシーンもあるにはあるのだが、どうもそれが今ひとつ効果的ではないのだ。

極端な話、前作に登場したジョセフ・オダのほうが相棒として印象深いほどである。残念ながら彼をはじめとする前作キャラクターはあまり顔を見せず、出てくる人々もいるが前作と物語的な繋がりはほぼないと言ってもよい。

サイコブレイク2 レビュー

そして敵キャラクターも“ぽっと出”だ。本作はセバスチャンに立ちはだかる大きな敵が何名か登場するのだが、そのどれも印象が薄く弱ったものである。しかもそれが交代するかのように出てくるので、プレイヤーは次第に何と戦っているのかわからなくなる。とはいえ、それぞれの敵の精神を反映した敵キャラクターやグラフィックはなかなか見事なもので、飽きずにプレイさせるという点は割と成功しているだろう。

サイコブレイク2 レビュー
セクシーなカメラ顔のクリーチャー。ボイス・体付き・動きがどこか卑猥で、デザイナーの趣味が透けて見える。

その中でもまだ魅力的と言えるのは、最初に出てくるカメラの男である。彼の精神世界では“死を芸術として捉える”というテーマがあるのだが、彼が作る作品には本当に美しいと思える場面もある(特に例の爆発のシーンは良い)。一方でセクシーすぎる声をした女性型クリーチャーもおり、そういう変態的なところには恐怖よりも人間臭さを感じられた。

楽しいような退屈なような、それでも悪いゲームではない

サイコブレイク2 レビュー

なんだかまとまりのない話になってしまったが、「サイコブレイク2」はそういうゲームなのだ。暗闇に怖がる一本道パートもあれば、クリーチャーを喜んで殺せる探索パートもある。ストーリーは明確だがキャラクターは曖昧。いろいろな要素を取り込んで立派に進化したとも言えるし、雑然とした印象を受けるのも間違いではないだろう。

ロードがやや長いことや、物語が佳境になるほど探索できる範囲が狭くなるなど問題も抱えているが、いずれにせよバケモノだらけの街を探索してセバスチャンを鍛えるのは楽しい。正直に言うと、娘のことは記憶の片隅に置いておけばいいし、このゲームがホラーであることを忘れてもかまわない。銃を片手にバケモノどもから物資や脳汁を奪うのは、本来の目的を忘れるくらいに楽しいのだから。