サイバーパンクには大きく二つの可能性があると思う。ひとつはその起源であるSF文学に端を発する人間の内的世界の探求、もしくはそのオルタナティブである電子的ネットワークの探求だ。もうひとつはそれらのSF文学の映像化作品が作り上げた退廃した都市生活、ネオンがきらめく喧騒、東アジア的混沌、裏社会といったモチーフだ。もちろん起源は前者にある。しかし、多くの映画やゲームが「サイバーパンク的」と呼ばれるとき、ほとんどの場合、それは後者の意味である。人間の内的世界といった哲学的テーマは後景となり、表層的なビジュアルスタイルにフォーカスが当てられる。本作「RUINER」(PC版をプレイ)もその意味で正しくサイバーパンクだが、その突き詰め方は半端なものではない。徹底的なのだ。

既存の世界観を徹底的にスタイリッシュに、異次元のレベルまで高めている

本作はポーランドのワルシャワを拠点とするREIKON GAMESが開発したサイバーパンクアクションだ。ゲームのジャンルとしてはいわゆるツインスティックシューターに属する作品だが、その興味深いメカニクスは既存のジャンルの枠を拡張している。一方で東アジア的喧騒を持つレンゴクシティという舞台、巨大企業と陰謀、ハッカーの少女に怪しげなサイバネティクスにオーグメンテーションといった本作の世界観は、既存のサイバーパンクの表層をなぞっている。しかしながら、ゲームプレイを通して体感する音楽、アートワーク、アニメーション、UIからタイポグラフィはそれらの既存の世界観を徹底的にスタイリッシュに、異次元のレベルまで高めていると言える。

操作は既存のツインスティックシューターと同様、左スティックで移動、右スティックでエイムを行う。当然、キーボードのWASDとマウスによる操作にも対応。どちらを用いるかは趣味の問題だが、筆者はキーボード+マウスでプレイをした。武器は近接と遠隔の2種類を同時に所持可能で、これらを切り替えながら戦っていく。デフォルトの武器以外にはリロードはなく、マガジンが尽きたらその辺に武器を捨て、敵が落とした武器などを現地調達するスタイルだ。インベントリという概念もない。

13のスキルはさらにスキルポイントを追加することでアップグレード可能。それぞれのアップグレードにも名前があり、ニヤリとさせるネタも入っている。

連続ダッシュは本作のゲームプレイにおいて攻略においても楽しさにおいても非常に大きな要素

数多のツインスティックシューターと異なる部分として、ダッシュが挙げられる。本作には13個の多様なスキルがあり、スキルポイントを割り振ることで使用が可能となる。割り振りはいつでも可能であり、敵や戦闘スタイルに合わせてビルドを組み立てるのが楽しい。ただしスキルのひとつであるダッシュは本作と切っても切れないデファクトスタンダードだ。一定距離を即座に移動する通常ダッシュに加え、ボタンホールドでスローモーションを発動して移動地点を数か所セットする連続ダッシュも可能。連続ダッシュを使用すれば、正面からやってくる敵群にショットガンを御見舞した後、即座に後方移動して背後のチンピラを鉄パイプでぶちのめし、さらに近くの床に転がっているアサルトライフルを拾い、次の戦闘に備えるといった芸当が可能になるのだ。このように連続ダッシュは本作のゲームプレイにおいて攻略においても楽しさにおいても非常に大きな要素であり、アクションの要と言える。

連続ダッシュの位置選択時はスローモーションになるため、超人的な能力を感じさせる。

その他のスキルもなかなかのバリエーションに満ちている。敵弾を防ぐシールド、敵をハックして仲間につけるゴーストブレイク、ドローンを呼んで物資投下、周囲の敵をスタンさせるショックランチャーなどなど。それぞれのスキルはアップグレードによって付加的な効果を持たせることが可能で、かなりの組み合わせが可能だ。ただしボタンで発動するアクティブスキルはダッシュ専用ボタンの他、3つのボタンにしかアサインできない。つまり、事実上同時に使えるアクティブスキルは4つまでとなる。とはいえ、本作のゲームスピードを考えれば、4つのスキルを使いこなすだけでも常人離れした反射神経が必要だ。基本的にはどれかのスキルに極振りを行い、近接特化型、遠隔特化型、持久戦型、速攻型といったビルドを構築することになるだろう。スキルポイントは戦闘で得られるカルマによるレベルアップでゲットできる。

比類なきスピード感と爽快感、そして超人的な能力で敵を圧倒する暴力的な快感

基本のアクションとスキルシステムはほぼ完璧だ。筆者はノーマルレベルでクリアしたが、ほぼすべてのスキルを使いこなす必要性を感じた。本質はシンプルなアクションゲームだが、驚くほどできることが多く、ビルドの戦略性も高い。ダッシュを基本としたスキルの数々は比類なきスピード感と爽快感、そして超人的な能力で敵を圧倒する暴力的な快感で満ち溢れている。

しかしながら、それと同じ程度、いやあなたの力量を凌駕するレベルで敵の攻勢も熾烈を極める。戦闘はそれぞれ閉鎖された狭いエリアで発生し、遮蔽物も少なく、逃げることも不可能。プレイヤーに求められるのはただ登場する敵をすべてブチのめすこと。しかも「Hotline Miami」のようにステルスの要素がまったくなく、ひたすら正面での撃ち合い、刺し合い、殺し合いだ。プレイヤーは「他人を傷つけるのは好きか?」といった質問にためらいなく「YES!」と答える必要があるだろう。

新しい敵が登場すると三行で説明してくれる。なかなか簡潔で楽しい。

遮蔽物がない以上、レベルデザインの多くは敵の行動や編成によって作られている。本作は執拗な殺戮の繰り返しながらも、プレイヤーを飽きさせない工夫はなされている。手強いボスとの一対一から巨大なメカとの戦闘、執拗な敵の波状攻撃からオブジェクトを破壊する要素。「テクノドッグ」「物流王」といった敵キャラクターの名前や設定はなかなか愛嬌があるが、全身全霊でプレイヤーを殺しにかかっている。それらに対抗するため、あなたは常に適切なスキルセットと立ち回りを求められる。戦闘の難易度とその物量ゆえに、アクションゲームが苦手な人には吐き気を催す殺戮大会となる。だが暴力に飢えているプレイヤーなら何度死のうとリトライし続けるだろう。

リザルト画面の一例。そもそもリザルトがあるという意味ではアーケードを志向した作品と言えるが、本作のデザイン面での素晴らしさをひきたてている。

並外れた演出としては、レベルの進行や敵の出現、リザルト画面で表示される瞬間的なイラストや「KILL BOSS」といったタイポグラフィの数々

延々と続くほとんど無意味のような暴力の中で、本作の最も評価すべき部分はゲーム史に残るクラスの演出の数々だろう。サウンドトラックに関しては世界的に有名な日本のアーティスト平沢進が参加したことで話題を集めた。他の楽曲も彼の音楽をシードとしながら期待通りの役割を果たしている。激しいダンスビートを放ちながらも全体としてアンビエントのような雰囲気があり、ゲームプレイを通してシームレスに変化していく。わかりやすくベストトラックというべきものは見当たらないが、とにかくゲーム全編を通して暴力と光と音楽であなたの脳は強烈にシェイクされるだろう。ボイスを使った楽曲や効果音も多く、サイバーパンクの持つ肉体性と機械性の融合をうまく表している。

そして並外れた演出としては、レベルの進行や敵の出現、リザルト画面で表示される瞬間的なイラストや「KILL BOSS」といったタイポグラフィの数々だ。日本のマンガから影響されながらも最先端のイメージがビジュアルとタイポグラフィとグリッチなどのエフェクトによって描かれていく。REIKON GAMESは本作のプロモーションのためにいくつものクールなGIF動画を制作していたが、そこで発揮されたセンスはゲームの中でも健在だ。この演出部分を体感するだけでも本作をプレイする価値はある。

レンゴクサウスでは一部の住人とインタラクトが可能。世界観の一端が垣間見える。

サイバーパンクの徹底的に表層的な快楽を目指した傑作中の傑作

最後にストーリーに触れておこう。本作は謎のハッカー少女と誘拐された兄を追跡するプレイキャラクターの弟というやや凡庸な内容になっている。物言わぬ弟に対して絵文字だらけのメッセージをよこすハッカー少女はあからさまに信頼できない語り手であり、物語の展開もある程度は予想がつく。いくつかの謎や裏の設定はあるように感じるが、少なくともストーリーを第一に期待すべきではないだろう。ステージの幕間にレンゴクシティの中でも最悪の掃き溜めレンゴクサウスを探索できる。美しいグラフィックスで作られた喧騒を斜め上から見下ろすのは楽しいが、そこでのパートは箸休めでしかなく、サブクエストもおまけ程度に感じる。いくつかの登場人物には興味深い存在があり、タチコマのような自立型ロボットのヨシはなかなかかわいいが、圧倒的なゲームプレイと演出の数々の中では添え物のように感じる。

とはいえ、本作の総合的なプレゼンテーションは極めて高く、ストーリーや舞台の描写を補って余りある。これらの語られなかった要素については、コミックでも小説でも映像作品でも期待したいところだが、ゲームとしての本作の根幹ではない。言うならば、本作は文学や映画ではなくダンスなのだ。音楽とアートに彩られた暴力と殺戮のゲームプレイ。まるで電子ドラッグのように未来的でハイセンスなビジュアルとループしつづける音楽。サイバーパンクの徹底的に表層的な快楽を目指した傑作中の傑作であるのは間違いない。