※以下にTVドラマ「SHERLOCK」シーズン4のネタバレが含まれる。

SHERLOCK」の次のシーズンがもう作られないのであれば、「最後の問題」は脚本家のスティーヴン・モファットとマーク・ゲイティスによって生み出された翻案作品に、相応しい結末を提供したと言って良いだろう。“今”のシャーロックを理解するための手掛かりを提示しただけでなく、より強固な絆に包まれた幸せな場所へとシャーロックを解き放ち、そしてこれまでのシャーロック・ホームズの作品群におけるシャーロックのイメージにより近いキャラクターとしてこの名探偵を描写することができた。

混迷を極めたシーズン4第1話に続き、第2話では忘れ去られていたシャーロックとマイクロフトの妹、ユーラスの存在が暴かれた。彼女はシーズン4を通して様々な人物に扮してはシャーロックたちを巧みに操っていた。第2話の最後に彼女がジョンを撃ったが、実に「SHERLOCK」らしい形で、このクリフハンガーはあっさりと脇に押しやられて第3話は展開する(その銃は明らかに麻酔銃だったが、それが物語の展開に何ら影響を与えていないようだ)。まあ、とにかくユーラスはホームズ家の末っ子で、複数の専門家からニュートンに匹敵する「時代を代表する天才」と言われた人物だ。しかし彼女が持つ並外れた知性は、善悪などの“小さな”道徳的概念を完全に超越してしまったのだ。

シャーロックが彼女の存在を覚えていない理由も明らかにされる。それは、子供の頃に起きたトラウマ的な事件だった。幼いユーラスは「赤ひげ」と呼ばれた、最初はホームズ家の飼い犬だと思われていたが実はシャーロックの幼少期の友達であるヴィクター・トレヴァーだった者を溺死させた。この事件でユーラスは私たちが知っている、冷淡で分析的で現実から解離したようなシャーロックを作り出してしまった。このように別人へと変わってしまった彼だが、後に「ピンク色の研究」でジョン・ワトソンと出会い、現在のシャーロックになった。

新しい文脈が提示されたことで、ホームズとワトソンの友情は以前よりも遥かに重要な関係として新たに現れる。ジョンはシャーロックが子供の頃に暴力的な形で奪われたものを友の手に取り返した。ドラマそのものが、シャーロックが友人という存在を受け入れられるようになるまでの物語として生まれ変わったのだ。

シーズン・フィナーレでは、友情や家族愛、複雑に絡み合った様々な感情的要素が一貫して主要なテーマとなっている。マイクロフトは彼が「悪魔を閉じ込める場所」と形容する「シェリンフォード」という秘密の施設にユーラスを隔離して、両親に対してさえも「ユーラスは火事で死んだ」と嘘をついていた(ちなみに、シェリンフォードは原作者のコナン・ドイルの推理小説にたびたび登場した名前で、シャーロック・ホームズの作品群の中ではシャーロックやマイクロフトの更に年長の兄の名前として使用されている)。

3話の大部分のシーンは、スコットランドの離島にあるこの薄気味悪い監獄のような場所で進む。しかしすぐに、そこは監獄とは程遠い場所だと視聴者は知ることになる。ユーラスはその神業的才能で、接触したどんな人物も「再プログラム」することができるのだ。だから彼女は秘密裏にロンドンを訪れ、バスでジョンを弄んだり、シャーロックと一緒にポテトチップスを食べたりすることができた。収容施設そのものが実はこの異常な女の統制下にあったのだ。そしてシャーロックとワトソン、マイクロフトはすぐに彼女の手によって囚われの身となる。後に続くのはシャーロックの演繹と推理能力を試すために念入りに用意された惨たらしい難題の数々だ(これはまるで映画「ソウ」のジグソウ・キラーが「ジェームズ・ボンド」の悪の要塞を支配しているかのようだった)。そして難題に方が付くと、さらに大きな難題がシャーロックを待ち受けていた。急速に高度を落としている飛行機の中にいる少女を、他の乗客が全員意識不明に陥った中で、なんとかして救い出す方法を見出さなければならないのだ。

そしてやがて、飛行機の中の怯える少女が実はユーラスであることが分かるようになる。彼女の飛び抜けた知恵は、シャーロックに提示する隠喩的なパズルへと自らの経験を変換していた。ユーラスは、シャーロックなら理解できるに違いないと彼女が確信した暗号のような言葉で助けを求めたのだ。衝撃の事実は視聴者を驚かせて興味を引きつけるが、この急展開を鵜呑みにするのはやや難しかった。というのも、いきなりユーラスはあらゆる倫理や道徳を度外視する冷酷な殺人鬼から、怯えながらただ安心したいがために兄に抱き締められることを求める少女へと変貌した。程なくして彼女はシェリンフォードに帰還して、訪問者の立ち入りを許可した。あたかもほぼ超自然的な力を持った彼女が人畜無害な存在になったかのように。

「これは拷問ではない。生体解剖だ」。これはシャーロックがユーラスに与えられた数々の難題に立ち向かっている最中に言い放った言葉だ。このセリフこそ、このシーズン・フィナーレの核心と言って良いだろう。主人公は苦しみを通して、なぜシャーロックが今のシャーロックなのか、そしてなにより、どうすれば彼が変われるのかを発見していくのだ。

全体としてシーズン4は起伏だらけの曲がりくねった旅路だったが、「The Final Problem」は怒涛の勢いを見せ、正しい焦点に番組を集中させている。シャーロックたちがシェリンフォードに到着すると、難題が次々と降りかかり、危険の度合いが増していく。その中でシャーロックの頭脳は冴えに冴え渡った。さらに重要なのは、このシーズンでワトソンが初めてシャーロックの近くにずっといたのだ。シーズン4で大きな存在感を示しているマイクロフトも、最終話の数々のシーンにさらなる躍動感を加えている。

SHERLOCK

メアリーの死に起因したゴタゴタから解放されたシーズン・フィナーレは、ホラー的な演出を施されたオープニング、不気味な人形や殺人ピエロたち、パントマイムの扮装など、遊び心のある楽しみを差し込む時間を得た。アンドリュー・スコット(ジェームズ・モリアーティ)のゲスト出演まで用意する余裕があった。フラッシュバックのシーンでは、「犯罪界のナポレオン」と対峙する5分間が、ユーラスからの「クリスマスプレゼント」だったことが明らかになる。ここでちょっとした疑問が生じる。モリアーティもユーラスに「再プログラム」されたのか? モリアーティの行動の背後には常にユーラスがいたのか? もしそうだとしたら、モリアーティにフォーカスした3年前のクリフハンガーに対して最も満足行く解ではないとしても、一応の説明はつく。何はともあれ、もう一度スコットが演じる奇天烈でグロテスクな教授の姿を見ることができたのは素直に嬉しかった。

最後の10分間は間違いなく「さよなら」を思わせる仕上がりだった。前に爆発で跡形もなく吹っ飛んだベーカー街221Bが再建されていく様子や、以前に録画された、メアリーがシャーロックとジョンの友情を祝福する映像がモンタージュ技法で見せられる。計り知れないミステリーに包まれていた最後の問題とは、シャーロック・ホームズその人自身であったのだ。ワトソンはホームズを、ユーラスによって変えられる前のホームズと再び繋いだ。エピソードの最後に、私たちが見たこともないような、人間味にあふれるシャーロックはゆったりとした雰囲気を醸し出し、一切の不快感を見せずにジョンの赤ちゃんを抱き締め、笑顔までこぼれていた。そしてついには、レストレード警部のファーストネームを思い出したのだ。