『マリオテニス エース』をプレイするのは、腕相撲とにらめっこを同時にやってのけるようなものだ。多様なショットを選択して相手を走り回らせたり、ラリー中にうまくベースライン上で位置取りしたりすることが重要なのは変わらないが、格闘ゲーム風の新たな要素が加わったことで瞬きできない緊張感と戦略性がもたらされている。結果的に『マリオテニス エース』は今までのシリーズ作で最も洗練された、やりがいのあるゲームプレイを提供しているが、十分に力が注がれているとは言えないシングルプレイや乏しいカスタマイズ要素はその魅力を活かしきれていない。

マリオテニス エース レビュー

コート上での絶妙なプレイ感覚は、新しいメカニクスの奥深さにより生まれている。『マリオテニス エース』のプレイヤーたちにはそれぞれ“エナジー”というゲージがあり、チャージショットやテクニカルショットを決めることでこのエナジーを溜めることができる。チャージショットは、ボールにジャストミートさせるためにコート上で最適な場所に位置取りをしている必要がある。テクニカルショットは、ボールが手の届かない位置にある時にぴったりのタイミングで打ち返すことを要求されるハイリスクなショットだ。溜めたエナジーをどう利用するかも極めて重要だ。エナジーを徐々に消費することで周りがスローモーションになる“加速”を使ってコートを射抜くようなショットに食らいついても良いし、ゲージを満タンまで溜めて“スペシャルショット”を放ち、ラリーに終止符、いや感嘆符を打つこともできる。スペシャルショットを使うなら、定石通りにライン上ぎりぎりを狙うのか、それともジョン・マッケンローよろしく相手選手を目掛けてボールを打ち付けてラケットを破壊し、K.O.で早々と試合に片を付けることを狙うのかも選択できる。

勝利を確信するようなスマッシュが時宜を得たブロックでカウンターされたりすることで、よりダイナミックさを増している。

比較的単純といえるメカニクスを組み合わせることで多くの選択肢が可能となっているシステムであり、ラリー中にも増減を繰り返すエナジーゲージや、勝利を確信するようなスマッシュが時宜を得たブロックでカウンターされたりすることで、よりダイナミックさを増している。さらに、入力操作の柔軟性がダイナミックさをより一層高めている。例えば、チャージショットを打とうと身構えたのに相手プレイヤーがフォアハンドでコートの反対側にボールを打ち込んできたとしよう。こうしたとき、プレイヤーはすぐにチャージをキャンセルしてボールに飛びつくテクニカルショットを決めることができるのだ。こうした場面では、がっかりだったWii Uの前作『マリオテニス ウルトラスマッシュ』に比べて、本作がずっと面白い上にバランスも良く、ギミック偏重でない作品だということを実感できる。

アドベンチャータイム

『ウルトラスマッシュ』があまりヒットしなかった大きな理由の一つが、シングルプレイの要素がほとんど存在しなかったことだ。一方、『マリオテニス エース』はシングルプレイオンリーでも成り立つようなゲームに仕上がるまでにはいっていないが、この点に対しての改善を試みている。

“ストーリーモード”では、マリオが各地を旅してバラエティに富むチャレンジやボスに挑むこととなる。ジャングルの中でパックンフラワーにファイヤーボールを打ち返したり、雪の降る駅のプラットホームで列車に乗り降りする群衆を避けながらヘイホーと試合をしたりと、多種多様だ。ボス戦は、特に本作のスペシャルムーブをうまく活用しており、ミラージュの館の鏡の女王戦では宙を舞う家具の間を通してボールを打ち込むために“ねらいうち”が必要になるし、ボスゲッソーの触手攻撃を避けるにはタイミングを見計らってトリックショットを使わないといけない。

チャレンジを達成するごとに経験値を得て、マリオをレベルアップすることもできる。レベルアップによりショットの速さや走る速さが向上し、1つレベルが上がるごとに満足感が得られる。更に、道中では6つのラケットを勝ち取ることができ、これによりマリオのショットの力が上がるだけではなく、試合中にラケットが壊された時の予備にもなる。それぞれのラケットにパワーの向上以外の目に見える違いがないのは残念だ。氷のラケットを使うと敵を凍らせることができるとか、古い木製のラケットでスライスショットを打つとサイドスピンが加わるといった要素があってもおかしくない。しかし、こうした特性は存在しないので、状況に合わせてラケットを切り替えるといった戦略性もほとんど存在しない。

そしてもう一つ残念なのが、ストーリーモードで得たラケットは他のモードでは使うことができない点だ。実際、モードを問わず使えるアンロック要素はごくわずかしかない。『マリオテニス エース』のストーリーモードの最大の問題が、プレイヤーに遊び続けさせる動機づけが非常に希薄なことだ。私は6時間近くプレイしてレベル34になる頃には、全27ステージを攻略し、すべてのコートとラケットをアンロックしていた。向上心から、私はいくつものチャレンジやボス戦を何度も何度も繰り返しプレイして自分流のやり方を磨き上げ、気づくとレベル55に達していた。しかし、その過程で得られたものはますます高まるマリオのステータスだけであり、これによりチャレンジはどれもなお一層簡単になってしまった。New Game+やより手応えのある高難易度も存在せず、マリオ以外のキャラクターで遊ぶことさえできない本作のストーリーモードは、やり込めばやり込むほど単調な繰り返しの色が濃くなってしまう。同じスポーツRPGでもずっと長くて多様性に富んだ、2017年発売の(日本では2018年)『ゴルフストーリー』を見つけた今は、通勤のお供はラケットではなくもっぱらクラブだ。

本作のシングルプレイコンテンツは最低限の内容でしかない。

他のシングルプレイモードとして“トーナメント”もあるが、こちらもすぐに飽きてしまう。トーナメントにはキノコカップ、フラワーカップ、スターカップの3つがあり、それぞれどんどん手強くなっていく相手選手との3ラウンドの試合で構成されている。しかし、これもムチばかりでアメの部分が全くない。16人のキャラクター全てでトーナメントをクリアしても、得られるのは同じトロフィーが表示される画面だけだ。ラケットもなければ、着せ替えの衣装も、隠されている追加キャラクターもない(発売後の無料DLCで追加されるノコノコとゲッソーを含め、全16のキャラクターはすべて最初から使用可能)。AIのパートナーとダブルスでトーナメントをプレイする機能すらない。本作のシングルプレイコンテンツは『マリオテニス ウルトラスマッシュ』から確実に改善されているとはいえ、依然最低限の内容でしかない。

ミックスダブルス

マルチプレイは、シングルプレイと比べればずっと長く楽しめるが、こちらもやはりクセの強い内容になっている。まず、一画面でマルチプレイ対戦をしようとすると、ほとんどの場合、縦二分割画面でのプレイを強いられる。恐らくこれは、ねらいうちやスペシャルショットで画面が一人称視点に切り替わる際に人間のプレイヤーの混乱を少なくするための措置なのだろうが、結果的にフィールド上での視界を狭くしてしまっている。特に、ダブルスでの試合においてその傾向は顕著だ。せめてこの機能をオフにするオプションがあれば良いのだが。

バラエティ豊かなコートが用意されており、中にはボールの軌道を変える鏡のポータルがあるものや、メカクッパがテニスの試合を混乱に満ちた戦場へと変えてしまうものなど、別ゲームになりかねないようなものもある。しかし、実際に試合をセッティングするのはなかなか面倒だ。単純にプレイしたいコートを選ぶのではなく、プレイしたくないコートを除外する必要があり、無意味に複雑になっているように感じる。何より、友人たちとオフラインでトーナメントをプレイする機能がないのは、明らかな手抜かりだといえるだろう。

最後に、それぞれのキャラクターには明確な長所と短所が設定されており(例えば、クッパが力ずくの攻め方ばかりなのに対して、テレサのスライスショットはコーナーを曲がることができる)、本作に『マリオカート8』や『ARMS』のようなカスタマイズ要素があればより長く楽しめただろうと思わずにはいられない。もし試合の中でラケットのタイプを変えたり、スペシャルムーブを選んだりすることができれば、『マリオテニス エース』のマルチプレイはワルイージの手足よりも長く楽しめたことだろう。

そして、『マリオテニス エース』の最後のモードが“スイングモード”で、椅子から立ち上がってJoy-Conで実際にストロークを体験できる。Joy-Con にはWiiリモコンより多くのジャイロセンサーが備わっているとはいえ、私がプレイした限りではスイングモードはフラットショットとスライスショットの違いはおろか、フォアハンドとバックハンドの違いすら判別できないことが多かった。それにより、ボタンによる入力と比べてずっと不安定でイライラさせられる体験となっており、本来の「家族向け」の狙いからは外れてしまっている。