『スプラトゥーン2』は対戦が主となるゲームである。そして、対戦ゲームの追加コンテンツといえば、キャラクターや武器、あるいはステージの追加というものがオーソドックスであろう。しかし本作で2018年6月14日に配信された有料追加コンテンツ『スプラトゥーン2 オクト・エキスパンション』(以下、オクト)は、なんとひとりプレイ用のものだったのだ。

『スプラトゥーン2』をさらなる高みに連れていく

もちろんこの『オクト』を遊べばブキやギアといった新たなアイテムが手に入る。とはいえメインは、全80ステージの実験施設を攻略していくという部分だ。そもそも『スプラトゥーン2』にはヒーローモードというチュートリアルを兼ねたシングルプレイがあるというのに、なぜ今になって新たに『オクト』を出そうとしたのだろうか?

プレイする前の私は、上記の理由でこの追加コンテンツに対して懐疑的であった。しかし実際にプレイしてみると意見はまったく変わってしまう。なぜかって? はっきりいってこの追加コンテンツは、『スプラトゥーン2』をさらなる高みに連れていく要素のひとつだからだ。

イカではなくタコ、そしてシューターよりは3Dアクションに近いゲーム内容

スプラトゥーン2 オクト・エキスパンション レビュー

『オクト』の主人公は名前からわかるようにタコ(正式名称はオクタリアン)である。実験体No.10008(通称8号)と呼ばれるこのタコは記憶を失っており、前作に登場したアタリメ司令、そして本作から登場したテンタクルズの力を借りてさまざまな試練に挑むことになる。

タコといえばもともと『スプラトゥーン』では単なる敵であったわけだが、そのころとは事情が変わっている。シオカラ節という曲を聴いたタコはどうやらイカと和解できるようになるらしく、どうやらこの世界にもさまざまな変化が起こりつつあるらしい。

スプラトゥーン2 オクト・エキスパンション レビュー

地下鉄の各駅に作られた実験施設は実にさまざま。ブキを使ってうまくボールを運んでいくもの、スペシャルウェポンを使って敵と戦うもの、特定条件下で的をすべて破壊したり、あるいはピンボールのようなものすらある。

レベルデザインはかなり洗練されている……というより、そもそもヒーローモードはあまり出来栄えがよくなかったのだ。単に敵を倒して先に進むという内容が多かったし、収集品が多いためいちいち周囲を確認するのも大変だった。ついでにやりこみ要素もブキを変えて同じステージを何度もやるという、あまり褒められたものではなかった。

スプラトゥーン2 オクト・エキスパンション レビュー
収集要素はほぼないが、ステージをクリアすると「ネリメモリー」というアイテムを入手できる。8号の記憶の断片を練り上げたものらしく、どれもかわいらしい。しかもポエム付き。
対戦があまり好きでないという人も、この『オクト』だけを遊んでもいいと言えるほど

しかし『オクト』はそのあたりをかなり改善した。1ステージは手短に構成、収集要素はほぼなくしたも同義、ブキの選択はあるがそれは任意の難易度選択にあたる。どうしてもクリアできなかったら、テンタクルズに協力してもらってクリアしたという扱いにすることもできるのだ。

チュートリアルという意味合いも薄れているので大胆なステージも多い。なかには型抜きのように木箱を特定の形にするものがあったり、部屋を回転させて謎を解いたりと、このあたりはシューターというより3Dアクションゲームに近い雰囲気を感じられた。そもそも対戦があまり好きでないという人も、この『オクト』だけを遊んでもいいと言えるほどに仕上がっているのだ。

スプラトゥーン2 オクト・エキスパンション レビュー
プレイを進めていくとチャットルームのテキストが読めるようになり、これまで語られなかったテンタクルズの過去なども明らかになる。

もちろん、既存ボスに少し手を加えただけのもの、ブキの選択によってはかなり難しくなってしまうといった問題を抱えたステージも少しある。それでも全般的に出来はよいし、難しく感じるのならば救済要素を使えばいいだろう。クリアだけなら5~6時間、すべての要素を遊び尽くすと8時間以上のボリュームが用意されている。

地下世界とそこにいる生物たちを巡る物語も必見

スプラトゥーン2 オクト・エキスパンション レビュー

そして他の要素も気が利いている。地下鉄の各駅に作られたステージとなるとグラフィックがどれも似たり寄ったりになってしまいそうだが、遠景にさまざまなオブジェクトを置くことで見た目にも楽しませてくれる。ニンテンドウ64、あるいはゲームキューブのようなゲーム機もあれば、アメリカンクラッカーやMDプレイヤーといった懐かしいもの……。80年~90年代を思い起こさせるオブジェクトが多数あり、それも見どころのひとつと言えよう。

新曲も多数用意されており、この実験施設では「Dedf1sh(デッドフィッシュ)」という作中アーティストによる楽曲が流れている。不気味な地下施設を表現したもの、地上ではありえない造形をした深海生物たちとともに乗る電車にピッタリなBGMなど、世界観を見事に膨らませてくれる。

終盤の展開はこれまでイカとしてたくさんのバトルを経験したプレイヤーたちの心を揺さぶってくることだろう

音楽といえばアーティストであるテンタクルズの存在も重要だ。当然ながら彼女たちの楽曲も存在するわけだが、それは曲そのものだけでなく演出もたまらない。テンタクルズの曲がかかるのは『オクト』の終盤。地上へ近づくたびに彼女たちの曲が流れ、一歩ずつ希望へと近づいている実感を与えてくれる。

そして何より、終盤の展開はこれまでイカとしてたくさんのバトルを経験したプレイヤーたちの心を揺さぶってくることだろう。これまでバトルに参加できなかったタコたちだが、地下施設で似たような経験をすることによってイカの文化に馴染んでいく。これらの演出はゲームプレイとして刺激的なだけでなく、タコという異質なものがイカの世界に受け入れられる様を描いているといえるのだ。本当に、終盤の展開は必見である。

スプラトゥーン2 オクト・エキスパンション レビュー

これまで影の薄かったテンタクルズ、ヒーローモードでは出番のなかったアタリメ司令、前作のプレイヤーキャラクターであった3号、そして地下鉄で出会うグソクさんやナマコ車掌……。彼らのおかげで『スプラトゥーン2』の世界はより厚みを増した。この『オクト』を遊べば、さらにこの世界が好きになれるはずだ。