ターン制ストラテジーゲームには長い歴史があるが、どちらかと言えばマイナーなコアゲームになった印象がある。日本では「ファイアーエムブレム」や「スーパーロボット大戦」など、キャラクター(ユニット)にフォーカスを当てた戦術級のSRPGは一定の人気を獲得している。しかしながら、ミリタリー要素の強いウォーシミュレーションゲームになると、コーエーテクモゲームスの「三國志」や「信長の野望」などの歴史モノをのぞけば、日本にはほとんど存在しなくなってしまった。

だがかつてはあの任天堂から「ファミコンウォーズ」というカジュアルながらも硬派なウォーシミュレーションシリーズが発売されていた。ただ同シリーズは様々な事情から日本国内よりも海外での展開がメインになり、2013年にクラブニンテンドーのプラチナ会員特典として無料配信された「ファミコンウォーズDS 失われた光」を最後に動きがない状態である。

このジャンルに慣れない人でも楽しめるように作られている。

本作「タイニーメタル」はそんな「ファミコンウォーズ」時代のカジュアルなターン制ストラテジーを現代に蘇らせた作品だ。可愛らしくデフォルメされたキャラクターは3Dながらもカジュアルで馴染みやすい。ユニットの特性やシステムもわかりやすくアレンジされており、このジャンルに慣れない人でも楽しめるように作られている。

ストーリーは薄味ながらも比較的シリアスな展開でジャンルにはマッチしている。プレイヤーはアルテミシアという小国の一部隊の指揮官となり、謀略がうごめく中、日本をモデルとしたジパングという国との戦争に巻き込まれていく。本作はインディーゲームにしては豪華なボイス付き。その割にキャラクターは薄味だが、硬派なウォーシムとしてはむしろ良い。セリフも戦争モノらしい格調高いものになっている。

タイニーメタル レビュー
全体的に攻める側が有利なカジュアルな作り

ゲームシステムはミリタリー系のターン制ストラテジーのツボをうまく抑えている。基本的なルールは「ファミコンウォーズ」を踏襲。歩兵で拠点を占拠し、その占拠の数に応じた資金が毎ターン支給される。それらの資金を消費して工場や空港から様々なユニットを生産する。歩兵は他のユニットより弱いため、メタルと呼ばれる戦車などのユニットで護衛する必要がある。だが戦車には攻撃ヘリ、攻撃ヘリには戦闘機、戦闘機には遠距離攻撃可能な対空自走砲のストライカーとそれぞれのアンチユニットが存在するため、うまく連携を取っていく必要がある。また索敵の概念があり、各ユニットの視認範囲他、レーダー車両や早期警戒管制機などで視認範囲外の敵ユニットをあぶり出すことも可能だ。

マップはヘクス制ではなく、マス目で構成されており、残弾やいわゆるZOC(Zone of Control、ユニットによる隣接地の支配)といった概念はない。それぞれのユニットは隣接した敵ユニットに攻撃することが可能だが、攻撃判定は攻撃側が先行して行われるため、攻撃側有利な仕様(つまり、防衛側は相手の攻撃を受けた後の残存兵力での反撃になる)になっている。他方、拠点を占拠しているユニットを強制的に押し出す「突撃」では防御側の攻撃判定が先に行われるため、攻撃側不利となる。後述する「一斉射撃」も含めて、全体的に攻める側が有利なカジュアルな作りとなっている。このあたりの調整も「ファミコンウォーズ」をうまく意識した作りと言えよう。

タイニーメタル レビュー
「攻める」楽しさを与えてくる本作は初心者でも支障なくプレイできる

他方、「ファミコンウォーズ」と異なる点としては、第一に補給の概念がないことだ。これはカジュアルなユーザーにとってはなかなかうれしいことであり、車両であっても航空機であっても燃料切れで立ち往生したり墜落したりすることはない。ただ結果として航空機がかなり強いユニットになっていることは否めない。

もうひとつの本作独自の特徴としてはロックと「一斉射撃」が挙げられる。これはユニットで敵ユニットを即座に攻撃するのではなく、いったんロックをしてから、他のユニットと同時に攻撃するシステム。結果として一対多のクロスファイアを敵に御見舞することできる。敵ユニットは複数のユニットからの攻撃を凌いだ後の残存兵力で反撃するため、これまた攻撃側がかなり有利な仕様といえる。さらにユニットに対する前後左右の攻撃判定があり、側面や背後からの方が攻撃が強化される。

以上のように、索敵や一斉射撃といったシステムを取り入れながらも、「ファミコンウォーズ」の基本システムをさらにカジュアルに、そしてさらに攻撃側有利にしたのが本作のメカニクスとなる。昔ながらのカジュアルなウォーシミュレーションを現代のグラフィックスや操作性で実現するという目標においては、これらのメカニクスは実際に成功しており、極めて洗練しているように思えた。リアル系のウォーシミュレーションが防御側有利になりがちなところを、うまく解決しつつ、「攻める」楽しさを与えてくる本作は初心者でも支障なくプレイできるものだろう。

タイニーメタル レビュー
遠距離攻撃可能なストライカーは運用が難しいが、航空機対策として必要だ。
カジュアルで攻撃側有利のメカニクスが相まって、本作の難易度は非常に低い。

ゲームはマップをクリアする形で進行していく。マップの開始時にストーリーと共に戦術目標が示されるが、ほぼすべてのマップのクリア条件が敵ユニットの全滅か本拠地の制圧であるのはやや残念なことだ。全体のレベルデザインも悪いとまでも言えないが、ややバリエーションに欠けており、持久戦に持ち込めば初見でも余裕で勝てるものがほとんどだ。そもそも、毎ターンごとに資金が獲得でき、それらでユニットが生産できるシステムでは持久戦が戦略的に有利であるのが目に見えている。レベルデザイナーはそれを理解した上で、マップ配置やクリア条件、AIの設定をすべきだろう。例えば、敵陣営が電撃戦によって自陣を突破して即座に本拠地を制圧する、もしくは自陣側のクリア条件にターン数の制限を設けるなど……。

敵AIの出来も良いとは言えない。ユニット同士の相性等は考慮しているが、敵側が一斉射撃を使うことはない。またユニットを生産できる敵の工場や空港の上に味方ユニットを配置することで、敵のユニット生産を阻むことができるが、このようなテクニックを敵側が使うことはないのだ。せめてプレイヤー側ができる行動はすべて敵側にも行って欲しかった。

カジュアルで攻撃側有利のメカニクスが相まって、本作の難易度は非常に低い。序盤での操作ミスでやり直したことはあるが、本作をプレイしてクリアまで一度も敗北することはなかった。また本作には難易度の選択は存在せず、そのかわりに三段階の成績評価がある。おそらく制作者は、誰でもクリアできる難易度を意図しており、それ以上を望むプレイヤーはハイスコアを狙ってほしいのだろう。ただしクリア後にスコアアタックを試してみたい気持ちにはならなかった。

また司令塔という施設で1体配置可能な強力な「ヒーローユニット」という存在もゲームをイージーにする以外の意義は見出だせない。司令塔自体は敵陣地の奥にあることもあるが、コストの安い歩兵を強行突破すれば容易にヒーローユニットの配置が行われる。さらにユニットごとに設定される「階級」と呼ばれるレベルもゲームを簡単にするだけで、あまり意義は感じなかった。

ストーリーを進めるキャンペーンの他、個別のマップを単体でプレイするスカーミッシュ、さらに未実装のマルチプレイがある。以上の難易度の低さとゲームプレイの浅さがマルチプレイで埋まることがあるならば、ぜひとも期待したい。

タイニーメタル レビュー
いかんせん世界の描写が不足している

ストーリーは予想以上にシリアスに作られている。ただし、世界観に魅力があって深みがあるとは言えない。そもそもカジュアルなイメージを意識したキャラクターのデザインやアートディレクションはありがちなインディーゲームといった風情で味気がない。アルテミシア、ジパング、帝国といった国々もその文化や風習といった部分の描写が薄くのめり込むような要素はない。兵器やユニットも基本的に敵味方で同じものであるのはつまらない。

肝心のストーリーも国境での小競り合いから戦争に発展していく序盤はなかなかリアリティがあり興味が持てたが、中盤以降はありがちな陳腐な流れになり、後半から急に話の規模が膨らんで終わる。場面、場面はシリアスな雰囲気が描けており、本人役として出演しているダンテ・カーヴァー以外の声優の演技は良い。ただ、いかんせん世界の描写が不足しているのだ。ただ擬人化されたユニットが行動時に話すボイスはなかなかおもしろい。特にメタルなどの戦車ユニットは「やったるでーしばけー」といった大阪弁で話すのだが、これは聞いているだけで楽しいものだった。