当たり年であったかはともかくとして、2017年はシューティングゲーム(以下、STG)の年であった。新プラットフォームであるSwitchも含めて、多くの名作が現行機に移植され、いくつかの新作もリリースされた。本作「RXN -雷神-」もSwitchをプラットフォームとした完全新作のシューティングだ。しかも開発は多くの2Dシューティングを手がけ、 「雷電」シリーズにゆかりがあるガルチ。さらにスタッフにはメイン・メカニックデザインに藤岡建機、キャラクターデザインにすめらぎ琥珀が名を連ね、声優に杉田智和や田中敦子、主題歌に古代祐三と豪華な面々を揃えており、STGファンでなくても気になる人は多いだろう。

8月にはタノシマスによるiOS/Android用の「アカとブルー」がリリースされ、9月にはグレフから7年ぶりの続編「旋光の輪舞2」がPS4とSteamで配信されてはいるが、Nintendo Switchという新しいプラットフォームで完全新作STGをリリースするというのはその意気込みだけでも評価したい。近年のSTGは新作といってもインディーや同人が中心で、これだけの規模感でSTGを作るメーカーはほとんどいない。ジャンルのニッチさを考えれば、商業的に苦しい戦いが強いられるのは明らかだろう。とはいえ、逆境であるからこそ、希望を見出す人もいる。

簡素だが洗練されたUIやタイポグラフィのセンスと共にクールでモダンな印象を与えてくれる

ゲームを起動するとPVで使用された古代祐三による70年代風の歌謡曲が流れる。戦闘機と人型ロボットに可変する「RXN」と呼ばれる自機のメカニックデザインはなかなか洗練されている。楽曲の古臭さは意図的なものであり、同じく可変戦闘機を主役としたマクロスなどの日本のロボットアニメの文脈を踏まえたものであろう。ゲーム自体のBGMは全体的にはアブストラクトなテクノサウンドとなっており、簡素だが洗練されたUIやタイポグラフィのセンスと共にクールでモダンな印象を与えてくれる。

ところが実際にゲームを始めるとそういった印象は消し飛んでしまう。というのも、チュートリアルやヘルプの類もなく、ゲームの説明も簡素。いや簡素というよりも、かなり暴力的に説明を省いており、3つの機体ごとに3つある通常ショットの機能、弾消し効果のある「覚醒」といった基本的なシステムの説明は何もない。もちろん、シンプルなシューティングゲームであるわけだから、プレイにはそれほど支障はなく、試行錯誤でなんとかなる。とはいえ、公式サイトにすらこれらの基本システムの説明もなく、スコアやレベルアップなどの細かいシステムに関してはクリアした後も理解できなかった。

REVIEW / 2017年12月28日 RXN -雷神- レビュー
最初のチャプタースタートでストーリーは唐突に始まる

結局、プレイヤーは実地の戦闘でシステムを把握する他ないのだが、次に待ち構えているのは、これまた暴力的に投げつけられる世界設定とストーリーだ。こちらに関しては公式サイトに説明があるのでまだマシだ。STGらしい難解な言い回しが多いが、要するに「ウルカ」と呼ばれる敵によって人類存亡の危機に瀕した主人公たちが「RXNシリーズ」と呼ばれる最終兵器で決戦を挑むというありがちなものだ。

3種類の自機のパイロットの他、主人公たちが所属する機関のメンバーがいくつか登場する。豪華な声優がアサインされていることから、キャラクターを重視する姿勢も感じられるが、実際にはこれらのキャラクターはゲームプレイ中の右上のダイアログのアイコンに登場するだけで、カットシーンなどの一枚絵や立ち絵はほとんどない。ストーリーがわかりづらいのはSTGでは珍しいことではないが、この描写の少なさは、キャラ目当てでプレイしている人には不満が残るだろう。

REVIEW / 2017年12月28日 RXN -雷神- レビュー
ノードのような点がそれぞれのチャプターになり、分岐するポイントもある。

本作のステージはチャプターごとに細かく分割されている。ボス戦をのぞけば、ひとつのチャプターはかなり短く、いくつかの編隊が飛んできて終わるといったことも珍しくない。また自機は残機制ではなく、シールド制となっており、被弾や敵との衝突で何回かダメージを受けてもすぐにゲームオーバーにはならない。シールドは時間とともに自動回復するため、STG初心者でも短いステージならば難なく突破することができる。

本作はSTGにおける大切なものを見失っている。それは端的に言えば、レベルデザインの不在だ。

公式サイトに謳われているとおり、本作は「3回死んだらゲームオーバー」「毎回ステージ1からスタート」というSTGの常識を疑うことによって作られており、多分に初心者への配慮が垣間見える。実際に序盤のステージは初めてSTGを遊んだ人でも難なく突破できるものであり、「初心者でもクリア可能なSTG」という意味では一定の成功はしているのであろう。

しかしながら、その一方で本作はSTGにおける大切なものを見失っている。それは端的に言えば、レベルデザインの不在だ。それぞれのチャプターは既存のSTGのステージを暴力的に分割して提示しているだけで、内容に乏しく、達成感がまったくと言っていいほど感じられないのである。いくつか避けるのが難しい弾幕もあるが、弾消し効果がある「覚醒」を使えば難なく突破できる。

REVIEW / 2017年12月28日 RXN -雷神- レビュー
画面全体を弾幕を覆うことがあるが、どちらかと言えば敵が硬いことの方が問題。

敵を破壊するという感覚的な快楽に欠けており、達成感も爽快感も味わえない。

他方、後半からは弾幕が濃くなり、難易度は上がる。難易度が上昇すること自体は問題ではないが、今度は敵の硬さが非常に気になる。画面全体に弾幕を吐く敵にいくら撃ち込んでも撃破できなかったり、編隊で襲ってくる敵団の多くを撃ち漏らしてしまったりすることが頻発する。「覚醒」さえ使えば、チャプターのクリア自体はできるが、敵を破壊するという感覚的な快楽に欠けており、達成感も爽快感も味わえない。

さらにボスの耐久力は半端なものではなく、単調な弾幕を何分間も避けなければいけない。弾幕自体のデザインは悪くはないが、一度パターンを覚えてしまえば避ける作業は単調であり、ひたすら長時間避け続けるだけなのである。長丁場のボス戦を凌いだときには、それなりの達成感はあるが、どちらかと言えば我慢を強いられているだけであり、演出の薄さも相まって爽快感はほとんどない。

また本作のアピールポイントとして謳われる16対9の大画面だが、上下左右から弾幕が飛んでくる以外にこれといった演出がないため、ほとんど言葉だけのものに終わっている。ステージを短くするなら、それぞれのチャプターにもっと凝ったギミックを用意すべきだろうし、リトライが簡単であるならば、より激しいパターンを要求するといった大胆さが必要だろう。「2017年現在のシューティングを徹底的に考えました」と豪語するわりには、工夫が明らかに足りず、中途半端で保守的なSTGに留まっている。

REVIEW / 2017年12月28日 RXN -雷神- レビュー
3種類の機体はそれぞれ異なる3つのショットを持っている。

使用可能な3つの機体はそれぞれに特徴がある。しかしながら、レベルデザインに工夫がないため、それぞれの機体が活きる場面は少なく、どれを使ってもそれほど攻略には差がでない。さらにボムに相当する「覚醒」は機体による差異は見当たらない。とはいえ、シールド消費というリスクを負って発動するこの「覚醒」のシステムは目新しいものではないが、ゲームプレイのスパイスにはなっている。苦手な弾幕を避け切るか、「覚醒」を使って突破するかという駆け引きを演出してくれる。

それ以上にシステムで不可解なのは、レベルアップの要素だ。一定のアイテムを回収することでレベルアップするというシステムは良いとして、レベルアップに必要とするアイテムが6系統もある。確かにチャプターによって出現するアイテムの種類は違うので、周回プレイやレベル上げをするプレイヤーには意味のある仕様かもしれないが、そもそもレベルアップの効果などがわかりづらいため、うまく機能しているかどうか疑問である。

REVIEW / 2017年12月28日 RXN -雷神- レビュー
右上のゲージが6つのアイテムの取得状況だが、ほとんど気にすることはなかった。

実際にプレイの途中でこのレベルアップ要素に気づいたのだが、おそらく自機の耐久力と攻撃力を向上しているのではないかくらいの印象だ。6つのアイテムの色からは、それぞれの武器に合わせたレベルアップシステムを検討していたのかもしれないが、その要素は見当たらない。そもそも何の説明もないのはさすがに投げやりすぎる。

ゲームプレイにおいて本作の評価するべきポイントは少ないが、それではストーリーやキャラクター、そして音楽などの演出面はどうだろうか。残念ながら本作のストーリーはプレゼンテーションに問題を抱えているため、評価不能である。正直、ストーリーがまったく頭に入ってこないのである。それは筆者の理解能力の不足にもあるかもしれないが、おそらく演出上の問題が大きい。

まず第一に本作のストーリーは基本的にそれぞれのチャプターの開始時と終了時に発生するキャラクターのダイアログで説明される。しかしながら、チャプター開始時の会話は正直言って、ゲームの妨げでしかない。というのも、それぞれのチャプターはこの会話が発生してからようやく敵が登場してゲームプレイが発生するのである。要するにプレイヤーは会話のために「ゲームプレイがおあずけ」の状態にさせられるのだ。

REVIEW / 2017年12月28日 RXN -雷神- レビュー
後半のチャプターのボスとの連戦でも開始時、形態変化時、撃破時に右上のような小さなダイアログが出るだけである。演出としては極めてミニマルだ。

STGファンなら簡単な事例でこの問題を理解できるだろう。名作として名高い「斑鳩」の冒頭を思い出してほしい。荘厳な音楽と共にスタートする素早いオープニングシークエンスの後に、プレイヤーはすぐに機体を操作でき、一定の敵編隊を倒してから改めてオープニングのカットシーンに入るのだ。

会話のためにレベルデザインを犠牲にすることはあってはならない。

つまりチャプター開始時にプレイヤーがまず望んでいることは、自機をコントロールして敵を蹴散らすことである。会話はその後でも良い。とにかく、会話のためにレベルデザインを犠牲にすることはあってはならない。会話やカットシーンなどのストーリー上の演出はレベルデザインの中に統合されているべきなのだ。「斑鳩」に限らず、「ギンガフォース」や「アスタブリード」といったストーリー演出重視の作品を見ればこれは解決できたものであろう。

もちろん、チャプター制によってステージを細かく分断したことによる弊害はある。とはいえ、演出面ではもっと工夫の仕方はあったのではないだろうかと思う。ボス戦でも3形態のそれぞれの間に喋るだけで、そもそもゲーム全体を通してカットシーンやカメラワークでの演出が非常に少ない淡々としたゲームプレイが続く。プレイをしていて驚いたシーンはほとんどなく、ラスボスの演出にしてもありきたりのものであった。

「2017年現在のシューティングを徹底的に考え」た結果が、ステージを細かく区切るチャプター制、何度も被弾しても大丈夫なシールド制であること自体は問題はない。ただし、既存のSTGのステージを分割して、それぞれのチャプターの前後にダイアログを入れるだけでは味気ないゲームに仕上がってしまう。新しいプラットフォームで新しいSTGをリリースするという意気込みは買いたいが、本作は根本的な部分でのクリエイティビティが発揮されておらず、結果的にブツ切れ状態で乱暴に提供された古典的な弾幕STGに収まっている。