既存のFPS作品のVR版を制作する上で最も一般的な方法は、プレイヤーが突っ立ったまま、ターゲットが現れたら撃つといった具合に、ゲームを射撃訓練場にしてしまうことだ。しかし、「Doom VFR」はそんな予想を良い意味で裏切っている。本作は「Doom」の伝統的な移動やスピード感を取り入れるべく、ゼロから制作されたので、プレイヤーは迫り来る地獄の悪魔達に、VRゲーム史上最速のアクションをもって立ち向かうことができるのだ。

Doom VFR レビュー

大抵のVRゲームには「VR酔い」の懸念が付いて回るが、「Doom VFR」は2種類の動きを組み合わせることでエネルギッシュな動作を可能にしている。まずは、今やスタンダードとなったテレポートだ。テレポート中はスローモーションになるので、狙いを定めるときにも利用できる。目の前に迫ってくるロケット弾を軽々と避けられるといったメリットもあるが、本作は素早く強靭なモンスターの大群によってその優位性を減少させることに長けている。

テレポートは「Doom」のグローリーキルの代わりにもなる。ダメージでよろめいた敵にテレポートして、殺戮の悦楽と追加のアイテムを手軽に得られるのだ。精巧なアニメーションで描写された虐殺ショーほどの満足感はないが、ゲームプレイに戦略性を加えるという意味では効果的だ。

2種類の動きを同時に活かして敵の大群をやり過ごすためには、しばらくの慣れが必要だ。

もうひとつの動きは突進である。Dパッドあるいは方向ボタンを使って、(若干カクカクするが)一度に数フィートほどジャンプすることができる。2種類の動きを同時に活かして敵の大群をやり過ごすためには、しばらくの慣れが必要だ。VRの環境で、ヘルナイトに眼孔から脊椎を引きずり出されそうになってもパニックに陥らないようになるまでは、結構時間がかかる。しかし、敵の背後にテレポート移動した直後に、後ろへ180度回転して敵の背中を爆撃したり、後退ボタンを使いながら追ってくる敵を虐殺したりするスキルをいったん身につければ、ゲームを上手く進めるようになる。

欲を言うと、カクカクした突進ではなく、メニュー画面でスムーズな歩きを簡単にオンにできたら良いのにとは思う(普通の歩行という動きは存在するが、それを有効にする操作が非常に分かりづらい)。デフォルトのカクカクした回転の動きが嫌なら、容易にスムーズな回転に切り替えられるのに対し、普通の歩行にするためのやり方が難しいのは残念だ。

約6時間のキャンペーンで新しくデザインされた数々のステージをクリアしていく中で、(簡略化されたものではあるが)お馴染みのサブ攻撃やお馴染みのアップグレードアイテムを用いて、お馴染みの敵をお馴染みの武器で次々となぎ倒す爽快感が味わえる。力強い射撃感をくれるスーパーショットガンから破壊力抜群のプラズマライフル、そして画面にいる全ての敵を殲滅できるBFG 9000まで、武器のレパートリーも素晴らしい。

モーションコントローラーは没入感を劇的に増大させる。

本作では顔の動きで狙いを定めることで、通常のコントローラーを使ってプレイすることもできるが、PlayStation VRエイムコントローラーやMoveモーションコントローラー、Viveコントローラー(SteamVR ベータ版の場合はOculus Touchコントローラー)の方が好ましい。モーションコントローラーは没入感を劇的に増大させるし、エイムコントローラーのスティック操作はかなり精確だ。

ただし、モーションコントロールにもある問題がある。銃身が襲ってくるモンスターの背中を突き抜けて撃ち損ねてしまうほど、敵がしばしばプレイヤーに近づきすぎるのだ。敵を後方へ弾き戻す衝撃波を放てるのはせめてもの救いである。

VRゲームにしては、本作のビジュアルは上出来だ。通常の「Doom」と比較するとシャープさに欠け、環境アセットが急にポップアップすることも度々あるものの、シンプルな環境要素のおかげでPS VR本体に負荷をかけすぎることなく、スムーズに動作できる。それと同時に、通常の「Doom」で素敵なアニメーションで描写されているモンスター達をぼやけたピクセルの塊にしてしまうこともない。ロード時間もありがたいほど短い。

残念ながら、通常の「Doom」の興味深いストーリーと比較しても、本作の素晴らしくスマートなゲームプレイと比較しても、本作のストーリーは汚点となっている。「デーモンに襲われた火星研究施設の最後の生存者が死ぬ直前に意識を人工頭脳マトリックスに転送される」というコンセプト自体に罪はないが、実際のゲームの中では全く活かされておらず、無意味な設定になってしまっている。