映画「ワイルド・スピード」を観て、スポーツカーを思う存分走らせ、派手なアクションを決めたいと思ったことはあるだろうか? 本作はその願いを叶える一方で、いくつかの要素がその楽しさを大いに邪魔している。

トレーラーは英語音声だが、ゲームは日本語吹き替えとなっている。

「Need for Speed Payback」(PS4版をレビュー)はElectronic Artsの人気レーシングゲームシリーズ最新作だ。開発は前作、前々作から引き続きGhost Gamesが担当している。

本作ではラスベガスをモデルとした「フォーチュンバレー」という架空都市とその周辺地域を舞台とし、ここ数作の「Need for Speed」シリーズと同じくオープン環境でのレースが楽しめる。「バトルフィールド」シリーズなどで使われるFrostbiteエンジンを採用しているだけあってそのビジュアルは美しい。熱い日差しに照らされた広大な荒野、雲ひとつなく彼方まで広がる青空。そこはいつでも絶好のドライブ日和だ。しかし、それに対して市街は少々ミニチュア感を覚えてしまう。また、夜間のグラフィックも前作に比べると見劣りする。とはいえ前作は基本的に夜間しかなく、高層ビルもなかったので、それらを追加した対価といったところだろうか。だがオープン環境とはいえど、そこには透明な壁が多く存在しており、そこに立ち入れば即座に暗転して押し戻されてしまう。どうやら我々には完全な自由は与えられなかったようだ。おまけに広くはあるがやれることは限られている。

 

そんな舞台で描かれる物語はシリーズトップクラスに力の入った内容となっている。カジノ主催のレースで使用されるケーニグセグを盗難する計画を企てた主人公タイラーたちだったが、仲間の1人が裏切ったことで主人公は捕まってしまう。しかし、その腕を気にいった支配人マーカスはタイラーに対し、警察へと突き出す代わりに、街の裏市場を牛耳りカジノの買収を狙う組織「ハウス」を潰す計画への参加を打診する。これが物語の導入となる。

これまでのシリーズ作品の多くは「街で最強のレーサーになるためにレースを重ねる」程度の希薄なストーリーしか持ち合わせていなかったが、本作では途中で目的を忘れるようなことは起きない。しかし、物語の内容は首を傾げたくなる場面に溢れている。映画的な構成を目指していることは見て取れるが、その割に物語を盛り上げるためのカットシーンは少なく、会話主体のシーンでは間が足りない印象を受けた。単調になりがちなレースゲームというジャンルだけにストーリーに力を入れるという選択は賛同するが、本作においてその試みが成功したとは言い難い。クレジットのあとには続編(Payback 2)を匂わす演出が見られるが、このままでは成功は望めないだろう。

チープなストーリーであっても、派手なアクションが矢継ぎ早に発生するのであればまだよかった。しかし、期待していたようなアクションは限られた場面でしか起こらず、ストーリーを進めるには特筆する点もない普通のレースを重ねる必要があるというのが問題だ。

 

ストーリーを進めるためのレースは、バトル、オフロード、ランナー、ドリフト、ドラッグの5種類に分けられている。それぞれのレースごとに専用の車を用意する必要があるのだが、これが非常に面倒だった。スムーズに購入できればよかったのだが、残念なことに1度レースに勝った程度ではとてもではないが資金が足りない。

加えて難点なのが「スピード・カード」だ。本作におけるカスタマイズパーツはカード形式になっており、さらには一定時間で品揃えが入れ替わるのでいつでも欲しいものが手に入るとは限らない。そのうえカードには「プレミア」というランダムボーナスまであり、理想的なパーツを得るまでには何十回というガチャが必要だ。レースに勝利することでもスピード・カードが手に入るが、それも完全なランダムとなっている。しかも各レースカテゴリどころか各車ごとにカードが割り当てられているので、新車を手に入れたらさらにカード集めに奔走しなければならないのだ。ガチャはリアルマネーでもできるようになっており、このわずらわしさはそれを誘導するためのものだろう。ランダムということを考えると理想的なカードを揃えるのにいくら掛かるかはとても想像したくない。

 

なかには「ストーリーなんか興味ないし、車買って自由に走れればいい」という人もいるだろうが、キャンペーンを進めない限り高ランクの車は売り出されない。つまり、車種を増やすにはキャンペーンを進めねばならず、進行には作業の繰り返しが必要であり、作業の先にあるのはチープな物語……という悪循環が構築されているというわけだ。

だが幸いなことにレースはおおむねおもしろい。いつもの「Need for Speed」と言われればそのとおりだが、アーケードライクなレースゲームとしての操作感はさすがといったところだ。しかし、人によるのだろうが私はオフロードレースだけはまったく楽しめなかった。当たり前だが、オフロードではオンロードよりも遥かにタイヤが滑るので操作の難易度が格段に上がる。「じゃじゃ馬を抑え付けるのが楽しいのに」という意見もあるだろう。しかしそういうのは「グランツーリスモ」や「Forza Motorsport」に任せておけばいいと個人的には思う。

なによりもその制御のしづらさがAIにまで影響を与えているのが問題だ。勝手に事故ってくれる分には構わないが、それに巻き込まれてしまっては堪ったものではない。AIの稚拙さは警察とのチェイスでもプレイヤーを苛立たせる。特に終盤の「トランスミッション」というミッションは酷いものだ。逮捕どころか明らかに殺す気でミサイルアタックを仕掛けてくる警察がこの世界のどこにいるというのか。いや、探せばどこかにいるかもしれないが。

 

本作の新たな試みはその方向性だけは評価できる。しかし、陳腐なストーリーや強いられる繰り返し作業、ゲーム内課金を誘導する仕様が作品としての完成度を貶めてしまった。とはいえおそらく意識しているであろう「ワイルド・スピード」も、かつては低予算映画としてスタートしたシリーズで、作品を重ねるごとに規模を拡大していったことを忘れてはならない。それと同じく本作のみでこの方向性を諦めるのではなく、磨きをかけてよい続編を目指してほしいところだ。