警察、もしくは捜査官が事件にのめり込むあまり、犯人の狂気に飲み込まれていくというコンセプトは、今となっては使い尽くされた設定だ。TVドラマや映画では、あまりにも多くのヒーローやアンチヒーローが人間の狂気が引き起こす事件の残虐さに押しつぶされ、屈してきた。そして、1991年の「羊たちの沈黙」を機に大量生産されるようになった連続殺人犯のクライムフィクションは、2017年になった今、やり尽くされたジャンルのように感じる。

「マインドハンター」シーズン1 レビュー

ともすれば、今ほど初歩の初歩であるFBIの連続殺人プロファイリングに立ち返るに相応しい時期はない。凶悪犯を追うプレッシャーやトラウマに押しつぶされた捜査官は彼らが初めてではないが、一見無差別に見える殺人事件が1970年代に急増する中、彼らは人間の心の深淵を真正面から覗き込んだ最初の人々だった。この時代のFBI捜査官は、女性や子供をターゲットにした殺人事件を追う中で「連続殺人犯」(serial killer)という言葉を作り、加害者の過去と現在に共通するパターンを見出していった。

「マインドハンター」シーズン1 レビュー

Netflixのオリジナルドラマ「マインドハンター」は、実在のFBI捜査官ジョン・ダグラスが自身の経験をもとに書いたノンフィクションを元にしている。ダグラスは刑務所に収容された30人の連続殺人犯をインタビューして彼らの共通点を見出し、凶悪犯の手法と動機を分類していった。Netflixの「マインドハンター」は恐ろしいほど凶悪で、知的な領域へと我々を導いていく。

「マインドハンター」シーズン1 レビュー

トマス・ハリスのフィクション(「羊たちの沈黙」「ハンニバル」「レッド・ドラゴン」など)に馴染みがある読者は、ジャック・クロフォードとウィル・グレアムというキャラクターがダグラスをモデルにしていることはご存知だろう。クロフォードは抜け目のないベテランを体現している一方で、グレアムは彼の才能である(呪いとも言える)共感能力を発揮し、精神的に疲弊しながらも殺人犯の考えを当てていく。

「マインドハンター」シーズン1 レビュー

 

フィクションの世界にはダグラスをモデルにした捜査官は他にもいるが、最も有名なのは恐らくハリソンのバージョンだろう(ダグラス自身がハリソンの作品の相談役だったこともある)。Netflixの「マインドハンター」の登場人物もまた、ダグラスをモデルにしている。完全実話ではないが、かなりそれに近い本作では、ジョナサン・グロフ(「glee/グリー」「アナと雪の女王」)が人質解放交渉役のFBI捜査官ホールデン・フォードを演じている。フォードは、頭が固い旧態依然としたFBIの中で、人並外れた好奇心を見せる若き捜査官だ。ホールデンは完全に自由な考えを持っているわけではないが、凶悪犯は「生まれつき邪悪」と切り捨てる同僚のようなプライドの高さとエゴはもっていない。

デヴィッド・フィンチャーが監督する「マインドハンター」の第1話(フィンチャーは他にも最後の2話を手がけている)は、型にはまったホールデンが、挑戦的な社会学専攻の女学生デビーと、FBI行動科学班のビル・デンチ(ホルト・マッキャラニー)との出会いをきっかけに、少しずつ視野を広げていく姿が描かれる。

「マインドハンター」の始まりはあまりスムーズとは言えないが、これはダグラスの世にも奇妙な物語をシリーズ化することの難しさからきている。本作は会話が中心となる番組であり、社会学や犯罪心理学に関する専門用語が多く登場する。もしそういったものに興味がなければ、会話シーンは少し苦痛に感じるかもしれない。だが、もしそれがあなたの好物だとしたら、本作は非常に興味をそそられる番組だ。「マインドハンター」は現在使われる連続殺人プロファイリングがどのように形成されていったかを描いている。そこにあるのは、犯罪現場の混沌とした状況を正確で、理解可能かつ、覚えやすい専門用語や言語に落とし込んでいく非常に骨の折れる作業だ。現実に深く根ざしているという意味で、「マインドハンター」はある意味、今年最も恐ろしい番組の一つとも言える。

捜査官ホールデン・フォードやビル・テンチ、心理学の権威であるウェンディ・カー博士(「FRINGE / フリンジ」のアナ・トーヴ)は、TVドラマのために様々な要素やサイドストーリーを織り交ぜて作られたキャラクターのように感じるかもしれないが、「マインドハンター」で描かれる殺人犯は実在する犯人たちだ――少なくとも、フォードとテンチが刑務所でインタビューする者たちは。巨体の連続殺人犯エド・ケンパーを演じるキャメロン・ブリットンは、恐ろしいほどの魅力をもっている。第2話以降、一見無差別な猟奇的事件を解く術をFBIが持たないことに気がついたフォードは、刑務所にいる殺人犯たちを活用しようと思いつく。終身刑になったサイコパスの思考を研究し、彼らの狂気を役立てようではないか。論理的であり、前代未聞の決断は、関係者全員に大きな意味を持ち、シリーズに勢いを付ける。

フォードの物語は非常に興味深く、彼を演じるグロフの強みはシリーズの後半で真に輝き始める。従来の捜査手法の欠点を見抜いた賢い新人として登場したフォードは、物語が進むに連れ、新しいテクニックを使うことに異常な執着を見せる、傲慢で孤立したトラブルメーカーへと変化していく。フォードが容疑者を追い詰めていく中で感じるスリルと、殺人犯が被害者の命を手に握ることで感じるスリルとの境界線は段々曖昧になっていく。彼らの仕事には汚く、陰湿な側面があり、フォードはそれに無頓着である一方、家庭を大事にするテンチは心のバリアを張る必要を感じている。

そういった心理的な側面は、TVシリーズの題材にピッタリだ。前述のケンパーやジェリー・ブルードス、リチャード・スペックといった殺人犯たちは、主人公たちがありとあらゆる狂気に直面する中で、異なる挑戦と物語のネタを提供している。また、これらのインタビューの他にも、フォードとテンチが米国を旅する中、物語をより刺激的にする事件や犯罪が登場する。さらに、制作陣が本作を複数のシーズンにわたって続けるつもりであることの証拠として、「BTKキラー」ことデニス・レイダーの存在がちらつかされる。あなたが米国の連続殺人犯たちに詳しければ、彼が誰だかわかるだろうし、彼が持つ大きな意味合いにも気がつくだろう。たとえ彼が誰だかわからなかったとしても、断続的に挿入される短いシーンが大きな嵐の前触れあることははっきりとわかるはずだ。