「グランツーリスモ」との出会いは、かつてソニーが有料で定期配布していた「プレプレ」に収録されていた初代PS用の体験版であった。環境マッピングを使った美しいグラフィックと、リアルな操作感覚に驚きながらNSXを走らせ、製品版ではT-SQUAREのギタリスト・安藤まさひろによる「Moon Over The Castle」に胸を躍らせたものだ。

収録される車も大衆車から夢のスーパーカーまで幅広く、ハードの世代が移るにつれて増えていった収録台数は、「グランツーリスモ6」では1200車種以上も収録されるまでに至った。

当然開発に時間がかかることから、ナンバリングの発売までのつなぎとして「コンセプト」や「プロローグ」なども発売されてきた。系統としては今作もそれらに近いが、その周知が足りないためゲームの本質が理解しづらく、評価をより厳しいものにしてしまった。

厳しさの元凶とゲームボリューム

「グランツーリスモSPORT」において開口一番で話題となるのはゲームボリュームだろうか。収録される車は特別少ないわけではないが、特にVISION系を含むオリジナル仕様車が多くなった結果、市販車が非常に少なくなり収録台数以上の物足りなさを感じてしまう。中国の浙江吉利控股集団によるロータスの買収が土壇場になって響いたかどうかは不明だが、ただでさえ少ないところに、クローズドβで収録されていた名門ロータスの車が消えてしまったのも個人的に痛手だった。

サーキット(東コースや西コース、付随施設など全体の総称)に目を向けると、リアルサーキットは「鈴鹿」「ニュルブルクリンク」など合計6種類と少ない。オリジナルサーキットはすべて新規で、「グランバレー」「トライアルマウンテン」「オータムリンク」など、シリーズで人気のあるサーキットが未収録のため、収録車種同様に物足りなさを感じる一因になっている。

グランツーリスモSPORT レビュー
逆走などを含めると39のパターンで走行できるが、テコ入れは必要だ。

では各種キャンペーンモードのボリュームはどうだろうか? ボリュームのある内容でジックリ遊べたらいいのだが……。プレイしてみると、ドライビングスクールやミッションチャレンジの総数は112種類と多く、オールゴールドを目指すと結構な時間を遊べるが、1つのイベントのボリュームが少ないためこれまた少々物足りない。

そもそもドライビングスクールは中級で終了するので、今後定期的にキャンペーンの追加配信が計画されているのかもしれないが、それはまた別の話だろう。総じてシングルプレイのボリュームという一点においては、厳しい評価にならざるをえない。しかしこの評価も、タイトルに「Online」と付け加えていたら、「今回はオンライン専用だから」と納得しやすく印象も変わっていただろう。

そう、今作はオンライン専用タイトルとなったのだが、発売前の告知がかなり弱かったため、「オンライン専用だからセーブもサーバー保存」などオンライン専用タイトルとして仕様も含めてプレイヤー側の受け入れは容易でなかった。例えばオンライン専用の「ドラゴンクエストX」で、「サーバーがメンテナンスだと遊べない!」と不満は言っても評価を下げるプレイヤーはいるだろうか? 筆者は知らない。

グランツーリスモSPORT レビュー
コンテンツ自体の完成度は高く、シェア系のディスカバリーも賑わっている。

オンライン専用として周知と理解を徹底させていれば、むしろオンラインタイトルなのに、シングルプレイ用コンテンツも用意されていると評価されていたかもしれない。ゲームのボリューム以前に、このプロモーション方針こそが評価をより厳しいものにしていると感じる。

プロデューサーの山内氏は自身のTwitterアカウントにて、今後はSUPER GTや大衆車、サーキットなども随時追加していくと発言しているので、ボリューム面はロータスの復活を含めて今後のアップデートに期待したい。

まったく別物に生まれ変わった車の挙動

では、真に重要な車の挙動はどうだろうか? 今作は、特に市販車は車種によって挙動の個性が大きくなり実に楽しい。市販車は低グリップの「スポーツタイヤ」を装着するため個性がより強く表れ、少しのオーバースピードでアンダーが現れる「ホンダ シビック Type R」、対照的に少しでも粗いハンドリングでスピンする「マツダ ロードスター S」、重い車重と1000馬力を超える異次元のパワーでストレートでも吹き飛びそうになる「ブガッティ ヴェイロン」など千差万別だ。

加えて「ホンダ シビックType R(FF駆動)」だと、これまでは駆動方式の違いによる乗りづらさがあったとしても、加速と減速を加減するだけである程度のタイムを出せていた部分があった。しかし「グランツーリスモSPORT」では挙動の個性が大きくなったことで、FF駆動のシビックは曲がりづらいだけでなく、アクセルオフによるタックイン(コーナリング中アクセルを放すことで、巻き込むような感じで急激に旋回性能が上がる現象)がハンコンのフォースフィードバックと車の動きでの組み合わせでより強調されるようになったため、これまでのシリーズと比較してより的確な運転が求められるようになった。

グランツーリスモSPORT レビュー
同じFFでも、車種によって微妙なフィーリングの差も出ている。

そして今作は、車の挙動を単純にシミュレーションしているわけではない。「ポルシェ 911 GT3 RS」に標準装備されている、ステアリングを切ったときにリアタイヤも動く4WSシステム「アクティブリアホイールステアリング」すらも再現し、究極の旋回性能をシミュレート。

それが早さや乗りやすさ、シミュレートの正確性にどこまで繋がるのかは別の話だと思うが、そういった生真面目なところが、ファンや自動車メーカーなどへの信頼に繋がっているのだと思う。

グランツーリスモSPORT レビュー
ポルシェを収録するゲームは増えたが、4WSも再現するのは中々無いだろう。

挙動といえばもうひとつ、DUALSHOCK 4の機能のひとつを使った「モーションセンサー」を使った操作が今作ではかなり具合がいい。さすがにステアリングコントローラーには叶わないが、緩やかな操作から急激な切り返しまで意図した角度を狙いやすいため、スティックより操作しやすく意外と本格的に楽しめる。

ゲームの流れとプレイヤー同士を繋げるオンライン

今作はボリュームこそ減少したものの、個々の見所はこれまでのナンバリングに引けを取らない。トップのメニュー画面では各年代を代表する時事ネタや、尽きることのない美しいフォト、そして実車と見紛ほどの美しい車たちが躍動する。リッチなBGMがそれらをさらに彩り、ノンストップで流れる映像を見ているだけで満たされていく。

さらにかっこいいフォトが表示されれば、そのフォトの撮影場所となったスケープス(後述)をボタンひとつで開けたり、ニュースフィードには入れ替わりでフレンドの投稿が表示されるなど、UIはゲームすべての流れを考えた洗練された設計で使い勝手もいい。

グランツーリスモSPORT レビュー
美しいフォトや映像が流れるなか、ニュースフィードからフレンドの嘆きが聞こえてくることも。

そのメニューの中でメインとなるのはオンラインレース。「ロビー」で自由にレースイベントを作って遊べるほか、今作の肝となる「スポーツモード」がある。スポーツモードの「デイリーレース」は、感覚的には俗に言う「クイックレース」に近い位置づけだが、(車体性能の均一化を行う)BOPルールで性能調整された車に乗り、実力の近いプレイヤーと同じ条件で競い合うのが醍醐味だ。

3種類のレースが1週間続き、事前のタイム計測で出したタイムは、レース本番での順位の並びとしてマッチング時に利用される。限界のタイムを出し合ったプレイヤーが速いもの順に並ぶため、個々のプレイヤーがそれぞれの順位で白熱し、そのなかで上手く立ち回って自分の殻を破りながら、ひとつの順位を巡って競うことに楽しさを見いだせないと精神修行を強いられる。なにせレースのレベルが高く、実力も拮抗しすぎて順位に変動がないことも珍しくないからだ。

筆者にはすべてを出し切るには丁度いい間隔だが、各々が極限のレースを目指す性格上、週に1回しかレースの仕様が更新されないのは、気楽に色々なレースを楽しみたいプレイヤーにはつらいだろう。しかし、少しずつ前の車とタイムを縮め、抜きどころとラインを探りながら弾を仕込み、ファイナルラップで一気に抜き去る快感は最高だ!

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そうそううまくはいかないが……。

しかし鬼か悪魔か、今作にはさらに熾烈なオンラインレースが待ち受ける。FIA公認のチャンピオンシップ(公式戦)だ。公式戦は今のところ3種類。各レースはやり直しがきかない1日1回のみ出場可能な1発勝負のレースが週末に行われ、1ヶ月にわたってチャンピオンシップシリーズとしての開催が予定されている。

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テストシーズンの各レースは18:00~22:00の間に開始され、その中から1日1回のみエントリーできる。ポリフォニーデジタルカップは現在キャンセルされている。

執筆時ではまだテストシーズンの開始前で、どのような大会になるか詳細は分からないが、年間チャンピオンはF1のワールドチャンピオンらと共に表彰されるのだ。自然とその大会レベルはデジタルレース界のなかで最も高いものとなり、e-Sportsの新しい形として否が応にも盛り上がっていくはずだ。

公式戦を下支えするのはマナーに反する走行で発生するペナルティ制度で、これにより、上級者はよりフェアで純粋なバトルを味わえる。ペナルティが発生しても減速すると緩和されるが、場合によっては普通に走るだけでペナルティが帳消しになったり、逆にいくら減速しても帳消しにならなかったりと一貫性がない。一律でゴール後にタイム加算などペナルティ制度を見直す必要性があるだろう。

未開拓な部分が非常に多いオフライン

ペナルティを犯さないようにするためにも、キャンペーンの「ドライビング スクール」や、テクニックを駆使し課題のクリアを目指す「ミッション チャレンジ」、スクールの延長のように収録サーキットのレイアウトを学べる「サーキット エクスペリエンス」をプレイするのは重要だ。

グランツーリスモSPORT レビュー
ミッションは「パイロン倒し」や、制限時間がなくなる前にゴールを目指す「タイムラリー」などもある。

全体的に最高スコアのゴールドクリアも簡単すぎる傾向にあるが、まれに「これゴールドクリアするの無理……」と感じるステージもある。単純に難易度が高いステージもあるのだが、多くはプレイヤーの走りに悪い癖が出ているのが原因で、走り方を変えることで一気にタイムを短縮できることが多い。限定的なシチュエーションを何度も反復練習できるため、実は上級者にも実りの多いゲームモードとなっている。

走りに執着していると心身共に疲弊してしまうが、そんなときは「スケープス(フォトモード)」に癒やしを求めるのもいいだろう。これまでも美しい専用の背景で愛車の撮影をする「フォトトラベル」が搭載されていたが、今回はクオリティが違う。世界の絶景と珠玉の車の組み合わせは、美術工芸品の域にまで達していると言える。豊富なエフェクトも相まって表現力は高いが、車をミニカー風に撮影できる「ミニチュア」のエフェクトがなくなったのが唯一残念な部分だ。

グランツーリスモSPORT レビュー
車のライトを使い、複数の車で引き立て合う写真もありだ。

表現といえば、車のデザインを自由にカスタマイズできる「リバリーエディター」も忘れてはならない。シリーズでようやく実装された機能でやろうと思えば痛車も作れる。開発当初は無制限にカスタマイズできたそうだが、現在は使用できるステッカーが全体で750枚ほどとなっており、痛車には微妙に辛い。

だがPCでデザインしたSVGファイルも使用できるため、実質的に無限のデザインを施せそうだ(現在サーバー機能が制限され、SVGファイルは使用できない)。しかし、エディターの操作性が悪くレイヤーのグループ化など不足する機能も多く、仕上げるにはかなりの根気のいる作業となる。

グランツーリスモSPORT レビュー
残念ながらレビューには痛車を間に合わせることができなかった(SVGファイルをあてにしていたが、使用できず時間的にも痛かった)。

そんな息抜きと癒やしの真逆にあるのが「VRモード」だ。鑑賞モードで車の外観をジックリ隅々まで眺めることができる。しかし、そのままドアを開けての内装鑑賞ができず、内装を堪能するにはレースモードしか方法がないのは残念だ。

だがVRの真骨頂といえばやはりレースモード。特にPS4 Proでは解像度も高く最高の体験が経験できて普通に走行しても楽しい。特に究極の醍醐味はやはりドリフト走行にあるだろう。残念ながら筆者はターマックでのドリフトが苦手なため、動画はさらにプレイヤーを疲弊させるダートで行った(慣れてしまえば酔いは平気なのだが……)。

VRプレイ中は、常に進行方向に視線を合わせているので、録画した映像をモニターで見ると、車の内装がグルグル回転する不思議な映像に仕上がっているが、その迫力も十分伝わっていると思う。不意に車が真横を向いても視線は進行方向に簡単に合わせられるので、車の状態もより細かく把握できて操作性も高くなる。

まさしく最高の体験なのだが、VRで残念なのは1vs1のレースに限定されることよりも、その相手AIの難易度を選べないためまったく手応えがなく、実質タイムアタックになっているのは改善してもらいたい。それでもVRでのレースはやはり最高で、未来を感じさせるのに十分な原石と言える。

そしてグラフィックは原石ではなく宝石だ。これまでのコンシューマにおけるレースゲームは、何かしら妥協することで背景に張りぼてが点在して残念なことになっていた。しかし今作ではそれをまったく感じさせず、ゲームだから実現するリアルより美しい世界(サーキット)が広がる。ここまでのクオリティを実現したのなら、時間変化や天候変化がなくなってしまったのも納得がいくというものだ。もちろん、それで不満がなくなるわけではないが……。

グランツーリスモSPORT レビュー
特に夕方のニュルブルクリンク北コースは、レースゲームで初めて「綺麗だなー」と声が漏れた。

エンジンサウンドもずいぶんよくなり、ターボ車独特の引きつったようなバックタービン音も実にいい感じになった。タイヤの限界を感知するフォースフィードバックの表現こそ若干弱いものの、挙動やフィーリングはこれまでで最もよくなり、オンラインも夢のあるFIA公式戦が用意されて白熱したバトルを楽しめる。

それだけに、ボリューム不足をさらに強く感じさせてしまう収録車種やサーキットの少なさは本当に残念でならないが、全体のクオリティを考えると最初からこれ以上はなかなか望めないだろう。と、頭ではわかっていても、シリーズ中最も楽しいだけに、やっぱり惜しいというのが本音になる。