EVO(The Evolution Championship Series)は、1995年から開催されている世界でもっとも大きい格闘ゲームの大会だ。今年で22回目となるEVO 2017は国内外問わず数多くの参加者がおり、近年では映像配信サービスの普及に伴いTwitchやYouTubeといった場所でも生中継や試合のアーカイブを観ることができるようになっている。
ゲームが大好きな両親の影響で僕にとって、ゲームは親友でありかけがえのない存在だった。そんな僕は本当にたくさんのゲームを自分なりのペースでずっと楽しんできたけれど、とある時期を境に「もし自分が本気でゲームをやり込んだらどうなるんだろう?」と思うようになっていた。
そんなとき「ストリートファイターV(以下、ストV)」が発売されたのをきっかけに、自分の好きなこのシリーズの最新作で腕試ししてみることにした。当初はフレームやテクニックなどの深い部分をまったく知らなかったけれど、日々のプレイに加えて、よく遊ぶグループ内にいたプレイヤー(以下、師匠」と呼ぶ)たちの手ほどきや親友たちの協力もあって、ランキング上位層であるダイヤモンドリーグに到達できた。そしてそれを見ていた師匠の1人がふと言ったのだ、「一緒にEVO行ってみない?」と。「行きましょう!」と僕は答え、様々な場所で行われている対戦会に積極的に参加し、対戦経験や大会の空気を掴みつつEVOへの準備を着実に進めていった。
7月14日大会当日、プール1日目、ワクワクと緊張
朝9時に開場したEVOは僕が考えていたものよりももっとワイワイとしていた。今まで試合の場面しか観ていなかったせいか、モニタ越しに観ていた印象よりもものすごくフレンドリーだったし、大会が行われるブース以外にも多くの出展がされていた。カプコンやアークシステムワークス、スクウェア・エニックスやARIKAといった企業ブースに、同人制作で格闘ゲームのキャラクターが描かれたイラストやポスター、キーチェーンといったグッズを販売しているところもあり、国境を超えたゲームが大好きなユーザーばかりがいる居心地のいい空間がそこにはあった。
初日は自身が所属しているグループから受け取ったTシャツを着て気合十分。10時から「GUILTY GEAR Xrd REV 2」、12時から「鉄拳7」、14時からストVの予選プールに参加した。記念参加に加えて、メインタイトルでの戦いへ向けて緊張を和らげる意味で3タイトル参加してみたが、これは予想以上に厳しかった。プール振り分けの運が悪かっただけかもしれないが、ご飯を食べる余裕さえないくらいスケジュールが詰め詰めになってしまっていたため、あらかじめ日本から持ってきていたカロリーメイトを食べながら試合に臨むことに。
EVO 2017トーナメントはすべての競技タイトルがダブルエリミネーション方式で行われている。この方式はウィナーズとルーザーズ2つのリーグが並行して進んでいく。大会参加者はまず全員各プールのウィナーズリーグに配置され試合を行い、勝者はそのまま残って、敗者はルーザーズリーグに向かう。参加者全員が1回負けたとしても巻き返すチャンスが十分あり得る方式となっている。最終的にウィナーズリーグで勝ち残った1人とルーザーズリーグで勝ち残った1人が決勝で戦うことになる。この際、順当に勝ち上がってきたウィナーズ側は先に3勝すればそのまま優勝だが、ルーザーズ側はまず3勝してウィナーズ側のポイントをリセットし、さらに3勝しなければ優勝できない。
ところどころ機材トラブルが起こっていた場所もあったようだがだいたいは時間通りに進行していたと思う。ただ僕がいたプールでは遅刻者が居たうえに、僕と戦うはずだった対戦相手が10分待っても来ずに不戦勝になった試合もあったため、事前にエントリーしたウェブサイトで知らされるプール開催時間の間は出来る限り試合エリアの周りにいたほうが賢明だろう。
EVOは規模も大きいので、観る側からすれば参加するためのハードルは相当高いものだと思うかもしれない。しかし実際は参加基準など一切なく、腕前など関係なしのトーナメントだ。コスプレをしながら楽しく戦っているプレイヤーもいれば、「ラスベガスは地元だしせっかくだから参加してみた」というプレイヤーもいた。なので腕前に関して気になっている読者がいても「気にする必要はまったくもってない」と胸を張って言える。試合開始前にはしっかり握手をして、終わったあとは「Thank you, gg」と言い合える環境。英語自体聞く分にはまったく問題ないのだが、僕が喋る英語はまだ限定的で上手く伝わらないこともあった。けれどもこうして海外のプレイヤーたちと面と向かって対戦し交流ができる場というのは本当に素敵だったと思う。
ネカリとともにいざ初日のトーナメントへ
ストVにおける僕のマイキャラは今作からシリーズ初登場となるネカリ。
僕は格ゲーでキャラを選ぶときはいつも男女問わず容姿や動き、見た目でビビっときたキャラにしていて、発売前のPVやオープニングムービーを見て「絶対このキャラを使おう!」と決めていた。元々ヒーロー・ヒロインキャラよりもライバルや悪役キャラを好んで選ぶことが多かったのも相まって、彼が繰り出す暴力的な必殺技やVトリガー発動による変身後の姿に余計グッと来た次第だ。髪の毛がカッコよく光るんですよ。
性能自体もとても優秀で扱いやすく、通常技はリーチの長いものや発生の早いものが割と多く、必殺技も飛び道具、突進、踏みつけ、対空必殺技、コマンド投げなど一通り揃っている、Vトリガーを発動するとそのラウンド中はデメリットとしてVリバーサル(いわゆるガードキャンセル技)を出すことができなくなる代わりに変身状態を常時維持できるようになり、全体的な性能の強化+クリティカルアーツのダメージ上昇で一発逆転を狙える、という点からキャラランクとして見ても相当上位に位置していると思う。
僕はこうしたネカリの強みをガンガン押しつけつつ、対空としての通常技と必殺技をしっかり使い分けたうえで「ここでは絶対に投げないであろう」というタイミングであえてコマンド投げを織り交ぜて相手のペースを乱していく戦法が得意だ。ネカリは相手を画面端に追い詰めた際の選択肢が豊富なので、起き攻めの展開にバリエーションを持たせようと努力していた。
タイトルは違えども何回か対戦し緊張が解れたおかげか、1日目のストVウィナーズリーグを順調に勝ち進み迎えた自プールのクォーターファイナル。相手はアレックス使い。まずは相手の動きを観察しようと思い、間合いを見ながら牽制をかけるもあまり大きな動きがなかったためここぞとばかりに押す。アレックスのコマ投げに注意しつつもコンボと対空必殺技を確実に決めた。1、2ラウンドともにこの怒涛の押しが効いたのか1試合目は取れたが、次の試合から相手の動きがガラリと変わった。こちらの通常技に被せるように技を置き、コンボに繋げてきたのを見て「相手は僕の動きを観察するためにあまり動かなかったのかもしれない」と考えた。「それならば!」と僕も瞬時に動きを1試合目とは変えつつ相手の動きを観る立ち回りを心掛けたが、慣れないことはするものじゃないとはこの事。ガードを固めすぎたせいで相手のコマ投げからペースを崩されそのまま圧倒されてしまった。
「このままではいけない、確実に気持ちで負けてしまう」と考え、3試合目では自分のスタイルを貫くと決めた。コンボに含めていた必殺技の強弱使い分けを以前の試合とは入れ替え、コマ投げをより多く織り交ぜることにした。さらにあえて対空必殺技で落とさず立ち小Pで落とし(ネカリは立ち小Pの判定が上方向に大きめ)着地をコマ投げで追撃していった。そんな僕の動きを見て彼も負けじと応えてくれたのか、彼自身のスタイルがようやく出てきたとひしひしと感じた。僕が牽制で出した技を確実に潰しにかかる。ガードを意識した瞬間相手のコマ投げが飛んでくる。ジャンプ攻撃を仕掛けようものならほぼ100%の精度で落とされコンボに繋げられてしまう。
そうしていく内にお互い体力が少なくなった最終ラウンド終盤。こちら側はドットの体力しかないながらも、起き攻めにきた相手の通常技を潰しつつ倒し切れると考え放ったEX版対空必殺技(EXゲージを1ブロック分消費することで技性能が強化される)が相手にヒットし「やった!」と思ったのもつかの間、相手の体力がドットで残ってしまう。この時点で僕の心はいまだかつてないほどに跳ね上がっていた。「このターン、この起き攻めですべてが決まる」という緊張と焦りもあった。しかしそれと同時に対戦していてこんなに楽しくも興奮したのは生まれて初めてだった。
この瞬間、僕の考えた道は2つ。1つは相手が起き上がりに暴れる、もしくはコマ投げを警戒したジャンプを想定して再度EX版対空必殺技を決める道。もう1つは相手が堅実にガードすることを読んでEX版コマ投げを決める道。今になって考えればどちらもリスキーすぎる行動なの間違いない。
相手が受け身を取り、ネカリが前方向にステップをする間に僕は前者のEX版対空必殺技の道を選んで勢いよく放つ。そして僕の読みは外れた。相手は暴れもジャンプもせずしっかりとガードをしていた。「ああ、終わった」上から無防備に落ちてきたネカリに追撃を決められ最後に立っていたのはアレックスだった。
戦いの最中、明らかに伝わってきた彼の強さに対してここまでギリギリの試合を繰り広げられたことに驚きと嬉しさを隠せなかったし、正直負けた悔しさよりも楽しさの方が勝っていた。今まで僕が戦ったことのあるアレックスの中で一番と言っていいほど強かったと思う。恐らくゲーム内リーグでもきっと上位に位置している人なのだろう。それでもここまで善戦できた事は自分にとっても誇らしいことだった。
試合が終わった後、彼は僕に向かって「gg, You’re strong.」と言い握手をしてくれた。僕も「Thank you. You’re really strong, too. gg!」と言い笑顔でしっかりと握手を返す。互いに強い相手だと思い合えていたことに嬉しくなった。初めての海外大会でここまで熱くなる戦いを繰り広げることができ、僕にとって一生忘れられない素晴らしい経験となった。
このあと、ルーザーズリーグに落ちた僕はこの日のルーザーズファイナルまで勝ち残り、最後に立ちはだかったのは強豪のダルシム使い。対ダルシム戦の知識が乏しかったのもあって少しの不安を胸に試合へ臨むもこの不安は見事的中してしまい、相手のテレポートを駆使したテクニックや極めて長いリーチを持つ通常技の前に倒されてしまった。相手の隙を上手く突いて1試合分取り返すことはできたけども、最後の試合はこちらの動きをすべて読まれてしまい手も足も出せぬまま一方的に負けてしまった。
本気でゲームをやってみようとストVが発売されてからずっとプレイしてきて、そのおかげでたくさんの出会いや経験があって、今までの自分にとっては画面の向こうの世界だった大会に参加できるチャンスにも恵まれて。そんなさまざまな思いを胸にプール2日目に残ることを目標にしていた分、この負け方は本当に悔しくて、後ろで応援してくれていた師匠の前でぼろぼろ泣いてしまった。
ゲームで負けてこんなに悔しくて涙が出るなんてことは生まれて初めてだったから自分自身驚いていたし、どうしていいかわからなかった。そんななか、師匠に「初めて本気でゲームに取り組んで、その結果こんな大きな大会に初参加でここまで戦って来られたんだよ!? もっと自分を誇っていいんだよ!」と励まされて僕は余計に泣いてしまった。でもその言葉が本当に嬉しかった。思えば師匠はいつも悔しさをバネにしっかりと進んでいる、強くなっている。ならばそれを僕も見習おうと決意した。