今作のテーマ曲は、USAのハイウェイにおけるマイペースな日常が目に浮かぶ、F1とは真逆のSteppenwolfのBorn to Be Wildのアレンジが使われている。しかし見方を変えると、急遽引退を撤回したフェリペ・マッサに始まり、歴史的にも珍しいピンクのF1マシンが誕生し(しかも早い!)、近年独走状態だったメルセデスに待ったをかけるフェラーリのベッテル。マクラーレン・ホンダという伝説を残したワークスチームはホンダエンジンの不調で大惨事と言われる始末と、今シーズンの中々ファニーな状況を豪快に象徴しているような選曲で面白い。

そしてF1ワールドでは、加えてラリーでの事故による大怪我を乗り越え、混迷を深めるF1パドックへ7年ぶりの復帰を目指す天才ロバート・クビサなど、中々映画でも描けないような物語が日々展開されている。ゲームで再現しきるのは不可能だろうが、今作では往年の名車が加わることで、現実に負けず劣らず大きくエンターテインメント性が増した仕上がりになっていた。

ゲームを盛り上げている要素の一つが12台収録されているクラシックカー(1台は初回生産特典のDLC)。レーサー人生を追体験させる「キャリアモード」にも登場するとアナウンスされた際、「一体どんな形でゲームに落とし込むのだろうか?」と疑問に思っていた。しかし何の事はなく、グランプリの合間にアーケードライクなレースイベントが挿入されるだけだったが、これが中々面白い。

遅い車を追いかける「追走チャレンジ」、制限時間内にチェックポイントを通過しながら目標距離を走行する「チェックポイントチャレンジ」など、いずれも10分ほどで終わる簡単なものだが、過去の名車を使ったいつもと違うルールのイベントは、長いF1シーズンの中で気分リフレッシュさせてくれるありがたい存在だ。

クラシックカーは種類によって性能が大きく異なり、速度はもちろん、コーナリング性能やグリップ力、そしてエンジンサウンドも異なる。特にMcLaren MP4/6などに搭載されたV12エンジンから発せられる甲高いエンジンサウンドは、それだけで闘争本能をかき立てられる。スピード抑制のために導入された縦溝タイヤも、F1の強烈なトラクションに耐えきれず非常にピーキーで、繊細なアクセルワークを忘れれば一瞬で車があらぬ方向へ吹っ飛ぶ感じで、歴代F1マシンの細部の違いを感じとりやすい。

これらクラシックカーを使ったイベントは「チャンピオンシップ」モードに収められ、キャリアに登場するイベントも含め全部で40種類(200レース以上)とかなりのボリュームで、遊びきる頃には次のシーズンがやってきそうだ。クラシックカーの性能差があまりにも大きいため、新旧混在のレースではイコールコンディションとならず白熱したバトルを楽しむのがやや難しく、全部勝利を収めたいなら性能の高いマシンを選ぶかAIの調整が必要だ。

ちなみに性能の低い車でレースに挑んだ場合は「6位以内でゴールドメダル」などレース目標が緩和されるため、その車に合わせたレースを楽しむのが基本となる。

めざましい進化を遂げたキャリアモード

グラフィックやサウンドなどは前作と比べてそれほど大きな変化はなく、進化というより深い成熟期に入ったという表現の方が良いだろう。前作の次点で既にリアルだったが、車体はもちろん芝の質感やライティングまで非常に細かく作り込まれているため、シーンによっては本当に実写と見紛う美しさは健在だ。

ゲームでは静止画にすると荒が目立つものも多いが、「F1 2017」はより凄さが際立つ。

今作の進化は、内面的なゲームシステムに重点が置かれており、その中でも「キャリア」モードの完成度は前作の比ではなく、一番めざましい進化を実現している。

その中でもゲーム性を大きく変えたのががマシンマネジメントで、簡単に言うとF1マシンの各パーツの寿命管理だ。F1ではレギュレーションで「ギアボックスは最低6レース連続で同じものを使用する必要がある」「パワーユニットの各部の使用は、年間を通じて4基以内に収めること」と定められている。もっと細かい話やニュアンスの違いなどもあるのだが、概ねこんな感じで覚えてくれて構わない。

そしていかなる理由があっても規定を超えたパーツの交換を行うと、その箇所に応じた決勝グリッドの降格ペナルティが与えられるため、レースではドライバー視点でマシンを温存しながらレースを行い、ピットではエンジニア目線で消耗したパーツの交換時期を見定める必要があるため、この葛藤がなんとも言えず面白い。

パワーユニットは、各エリアごとに劣化による影響やいたわり方が異なる。

特にマクラーレン・ホンダはリアル同様耐久性に問題があり、かなり早い段階で性能劣化が現れるため、ドライバーの腕でカバーするかパーツ交換をするのか究極の選択を常に迫られる。そんな状況にあるため、不意にマシントラブルの発生してリタイアに陥っても理不尽さは感じない。むしろトラブルに説得力が出て奇妙なリアルさを覚える。

しかしパーツの消耗が激しすぎて、どう頑張ってもノーペナルティでシーズンを終えるのは難しくゲームバランスとしては崩壊気味だ。だが、これは現実のモンツァでもハミルトンを除くすべてのドライバーに何らかのペナルティが発生する異常事態となるなど、元々のルール設定が厳しすぎるため割り切るしかない。

もうひとつ大きく強化されたのがマシン開発「R&D」だ。今回は開発項目がかなり細分化され、同じパワーユニット開発でも「燃費の改善」「馬力アップ」など様々だが、開発に必要なポイントの入手量が少ないうえに、開発に失敗するという要素が中途半端に加わり楽しさを半減させている。

開発は「パワートレイン」「耐久性」「シャーシ」「エアロダイナミクス」の4つに分かれている。

それほど頻発するわけではないが、失敗の要素を入れるならもう少しその確率を高くし、加えてコストを下げて開発の頻度をより上げる方向の方が、自由な開発を開き直って楽しむことができて良かったと思う。今は若干惜しいバランスとなっており、一カ所の開発を行うとポイント不足でほかの項目の開発が不可能な窮屈さがある(プレイの進行に合わせ多少改善されるが……)。

キャリアのマネジメントからレースシーンに舞台が移ると、熱いプラクティス(テスト走行)から始まる。前作同様コースを覚える「チェックポイント」、タイヤの消費テストをする「タイヤ・マネジメント」など色々あるが、今回新たに燃費テストがが加わった。

しかし低燃費走行について説明不足で初心者には分かりづらい。低燃費走行の基本は、エンジンの回転数を抑え適切な回転数で車を加減速させることなのだが、チュートリアルではそういった基本の説明がされず、アクセルワークの技術的な説明だけに終わっている。

説明不足は他の部分にも見られ、ギアボックスのいたわり方(早いシフトアップ/遅いシフトダウン)や、「エイペックスリミット(おそらくコーナーイン側の頂点部分の走行可能な限界点)」「パルクフェルメルール(予選開始後は、決められた箇所以外のセッティングを禁止)」などのオプション設定にいたっては細かい説明が一切ない。このため、多少F1の知識がある筆者も意味を理解するのに考え込む設定項目が多々あった。できれば細かい部分も補足説明がほしいところだ。

非常に膨大なオプションがあり理解するのは少し難しいが、F1ルールにいたるまで変更できるので自分好みのF1を作り出せる。

レーシングシーン

シングルプレイではF1をリアルに追体験し、マルチプレイでは簡単なシングルレースから本格的なチャンピオンシップまで多彩なゲームプレイを実現している。特にシングルプレイでは、110段階という非常にきめ細かいAI設定が可能なことで、幅広いプレイヤーが満足できるゲームレベルになり、楽しさを支える屋台骨となっている。

ちなみに筆者は、オートセッティングなら70のハード設定。セッティング込みなら80のエキスパート設定でAIとギリギリ限界バトルが楽しめるが、普段は60ほどに難易度を設定して肩の力を抜きながら楽しんでいる。G29の強いフィードバックで肩がガチガチに固まってしまっているが……。

そしてレースシーンではセーフティーカーの復活や、よりシビアになった燃料マネジメント、さらにマシンがくたびれれば無線で指示が飛び、車をいたわる走りが求められる。入力系統が豊富なハンコンですらすべての操作に対応しきれず、ピットへの指示の最中壁に突き刺さる……なんていうのも珍しくない。しかし、細かいF1の仕様を徹底して盛り込むからこそ、リタイアなどひとつひとつの状況に説得力が生まれてF1ファンを特に熱中させてくれる。

25%レースもドラマが色々発生して楽しいが、集中が続かずフラッシュバックを発動……。

しかし、様々な要素が多すぎて難易度が高くなりがちで、初心者は専門的な用語が乱れ飛ぶオプション設定を相手にするところから始めなければならないのは難易度の懐がかなり広いだけに惜しい部分だ。またどうしようもない部分として、車の速度がかなり速いため、それに慣れるのにどうしても苦労してしまう。

最新のF1マシンに目を向けると、実際のレギュレーションの変化に合わせて前作から大きく性能が上がっている。特にタイヤが大型化されたことでコーナリングスピードが大きく上がり、全開で走れるコーナーが非常に多くハイスピードの車に慣れていれば乗りやすい印象だ。加えてコントローラーでの操作感覚もさらに改善されて遊びやすくなったが、反応が敏感すぎる部分もあるため好みに合わせてオプションで微調整が必要だろう。

難しい鈴鹿のデグナーすら、アクセルを抜くだけで曲がることができる。

最後に、すべてがリアルなだけにVRで遊びたくなるところだが、1年という短期間でリリースする必要があるシリーズのため、そこまで調整の手を回すのは難しいだろう。しかしPC版では「Tobii Eye Tracker」などによるアイトラッキングに対応しているため、VRまでは行かないがモニターの向こう側に本当にゲームの世界が実在しているかのような体験が可能になっている。

残念ながら筆者は対応する周辺機器を持っておらず、ゲームもPS4版をプレイしているため感想をお伝えできないが、ゲームに導入した経緯などの詳細が公式ブログに掲載されているので、英語ではあるが興味が湧いたら各自でチェックをしてほしい。