「深夜廻」が描いているのは「ひとりで夜道を歩く怖さ」だ。暗闇からはお化けが出てきそうだし、手をつなぐこともできないから心細い。「そんなのは子供っぽい」と思ったあなたは正しい。なぜなら本作で味わう恐怖は、子供が味わうそれだからだ。
主人公は2人の少女ユイとハル。花火大会の帰り道ではぐれてしまった彼女たちは、懐中電灯を片手にお互いを捜すために夜を彷徨う。2人の間にまるで糸があるかのように彼女たちは引き合わされるが、なかなかうまくいかない。
ゲームプレイは見下ろし視点型のオーソドックスなアドベンチャーで、キーアイテムを見つけて道を切り開くのが中心となる。道中にはお化けが登場するが、触れてしまうと即座にアウト。基本的にお化けを倒す手段はなく、走って逃げたり、気づかれないように動いたりしてやりすごすというのがメインだ。
「深夜廻」は2015年にPS Vita向けにリリースされた「夜廻」の続編にあたるが、必ずしも前作のプレイは必要ない。システムも基本的な部分は同じで、「深夜廻」のあとに「夜廻」をプレイしてこの世界の理解を深めてみてもいいだろう。
かわいらしいキャラクターと子供っぽさを覚えるダイアログが絵本のような夜の世界にマッチ
2頭身で描かれたキャラクターはかわいらしく、アニメーションも丁寧で存在感がある
本作の大きな魅力はその見た目だ。2頭身で描かれたキャラクターはかわいらしく、アニメーションも丁寧で存在感がある。彼女たちがトコトコ走る姿や驚いてドシンと尻もちをつく様、サッと物を拾う動きなどは記号化された愛らしさに満ち、見た目こそまったく違うものの、スーパーファミコン時代のRPGを彷彿とさせる。
一方で敵として登場する「お化け」の見た目については好みがわかれるところだろう。主人公たちのかわいらしさとのバランスや年齢制限(本作のCEROレーティングは15歳以上を対象とするCである)も考慮すると難しいものがありそうだが、物足りなさは否めない。お化けのなかには本作を象徴するハサミを持ったお化け「コトワリさん」や、巨大なカニのようなお化けなど存在感があるものもいるだけに残念な点だ。
イラストタッチの夜の世界は絵本のように美しい。怪談の定番スポットである学校、トンネル、工場といったものが前作で登場したのでバリエーションは不安要素であったが、洋館、図書館、地下水路、廃電車とさまざまなロケーションがあって、飽きることなく夜の世界を彷徨える。
「深夜廻」の世界を形作るうえで欠かせないのがダイアログだ
もうひとつ、「深夜廻」の世界を形作るうえで欠かせないのがダイアログだ。クレヨンで書かれたようなフォントで、ひらがなのみで綴られる言葉の数々はいかにも子供っぽい。平易なテキストに、「うん」と「やだ」で構成された選択肢などダイアログ表現へのこだわりが独特の味わいを生み出しており、少女たちにつきまとう心細さを巧みに描き出している。
また、音楽が流れない点も本作の特徴的な部分だ。音楽の代わりにプレイヤーの耳に入ってくる環境音はすこぶる出来がよく、そばを流れる川音や風のさざめきにはじまり、電灯から聞こえる低い唸りや虫の鳴き声など、リアル、かつ多彩なサウンドが夜の景色にいっそうの深みを与えている。
本作は起動時に「部屋の電気をすべて消して、画面だけを見つめること」を求められる。メニュー画面以外は画面端が暗くなっているため(掲載しているスクリーンショットがどれもやたらと暗いのはこのためだ)、電気を消すことで「深夜廻」の世界が浮かび上がるような効果が期待できるからだろう。両方試したが、電気を消してのプレイのほうが断然オススメだ。
ボス戦のリトライに難があるが、全体的なテンポはよい
前作ではひとつの場所を探索する場面がそこそこあったが、シンプルに先を目指して進むデザインに変わった。進むべき場所もかなりわかりやすくなっており、プレイのテンポは格段によくなっている。迷ってイライラする場面が減ったことで、飽きてしまう前にロケーションが変化するのもいい点だ。
道中で現れるお化けへの対処法は逃げるのが基本。しかし、お化けによっては懐中電灯の光や視線、足音など、彼らが反応を示すものを遮断しなければ対処できない。この仕組みは前作と同じだが、選択肢も少なく少し簡単になった印象だ。ただし「お化けに触れれば即死」という基本ルールがある以上、プレイヤーに試行錯誤を求めると死を繰り返すことになりやすいので、ある程度の簡略化は歓迎すべき変更点だろう。
ある程度の初見殺しを許容するにしても、ボス戦はあまりうまくいっていないと言わざるを得ない
一方でボス戦に相当する場面はかなりテンポが悪い。初見殺しもあるのに復帰後のスタート地点が遠すぎたり、ボス戦前のイベントをカットできなかったりすることが原因だ。さらに輪をかけて、そもそもボスへの対処法がわかりづらいところも散見される。特に最後の障害として立ちはだかる存在は、これらの要素が複合してかなりのストレスを感じた。ある程度の初見殺しを許容するにしても、ボス戦はあまりうまくいっていないと言わざるを得ない。
前作「夜廻」では1人の主人公をずっと描いていたが、「深夜廻」ではユイとハルのパートを交互にプレイしていく形となった。とはいえ、ユイのパートは短いものが挿入される程度に留まり、基本的にはハルがプレイのメインと思ってよい。また、これは2人が相互に協力するというものではなく、ユイが謎を残しつつもハルが彼女を追いかけるといった形になっている。結果的にハルはユイを誘導する役目を果たしており、これもテンポのよさにつながっている。
テンポ以外にもキャラクターをちょっぴり強化するお守り(アイテム)の選択やサブイベントの充実といった変更点があり、前作ファンへのサービスも盛り込まれている。それらは本作のプレイを前作よりも幾分豊かにしてはいるものの、新たな魅力を生み出すまでには至っていない。
心細さを軸にしたストーリーは、おぞましくも優れている
「深夜廻」は恐怖よりも心細さに重きを置いているように思う
「深夜廻」は恐怖よりも心細さに重きを置いているように思う。意表を突いて孤独を感じさせるチュートリアル、2人分のパートがあることを活かしたすれ違い、子供であることを強調するダイアログ、とさまざまな要素が折り重なって心細さを演出しているからだ。
少女たちが夜道を歩くのも、相手の、そして自分の心細さを取り除こうとするからにほかならない。結果的に「うしろめたさ」を中心に据えていた前作より主人公たちの動機づけが弱くなってしまった印象はあるが、夜を彷徨う行為は「うしろめたさ」よりも「心細さ」のほうがよりしっくりくるし、全体としてのまとまりやストーリーそのものの魅力も増している。クリア後に残される多くの謎も、考察好きなプレイヤーの探究心をくすぐるだろう。
心細さの先と夜明けに待つ結末が何なのかはプレイして確認してもらうにしても、前作のファンなら満足するであろう結末が待っていることは付け加えておこう。「深夜廻」の描く夜は一見かわいらしいかもしれないが、その闇の奥にはホラーゲームらしいおぞましさが潜んでいる。