ゲームに求められるものとは何か? 斬新で驚きに満ちたアイデア、親しみを持てるキャラクターたち、思わず目を引くアート、聴くだけでそのシーンを思い出す印象的なBGMあたりだろうか。そして、ゲームでなければ表現できない作品であることも重要であろう。今回レビューする「UNDERTALE」はそのすべてを持っていると言っても過言ではない。

「UNDERTALE」はToby Fox氏が開発したインディーゲームである。Steamでは英語版が2015年9月15日に発売開始、2017年8月16日にはPS4とPS Vita向けに日本版が登場、さらにPC日本語版も8月22日に配信予定となっている。本作は既に海外で非常に高い評価を受けており、IGNでは満点を獲得、その他のメディアからも賞賛の嵐だ。

なぜここまで評価されるのかといえば、それはToby Fox氏の情熱が注ぎ込まれているからだろう。その情熱はただものではない。単純に素晴らしい作品を作るだけでなく、ひとりひとりのプレイヤーに語りかけるようにゲームを作り上げているのだ。

なお今回はPC版、そしてPS4版をプレイしたうえでのレビューとなる。

キャラクター、BGM、ゲームシステム、セリフ……。すべてをべた褒めしたくなる

Undertale

本作を簡潔に表現するのであれば、『MOTHER2 ギーグの逆襲』あたりから多大な影響を受けたRPGといったところだろうか。主人公はイビト山なる場所から落ちてきた“とある子供”。落ちた地底はモンスターたちが住む世界になっており、主人公は家へ帰るための旅を繰り広げることになる。

道中では奇妙な存在と出会う。おはなのフラウィ、思わずママと呼びたくなってしまうようなトリエル、つまらないジョークばかり言うスケルトンのサンズ、殺人ロボットでありながらショービズの世界に生きるメタトンなど、忘れたくても忘れられないヤツらばかりだ。それこそ一箇所でしか登場しないモンスターにもそれぞれ特徴があり、“モブ”と言えるモンスターはこの世界にいないだろう。

Undertale
メタトンとはじめてバトルするシーン。不思議なことにクイズ形式でバトルが進行する。

印象的といえばバトルも特殊である。本作はコマンド選択式のバトルなのだが、相手からの攻撃を避ける際には弾幕シューティングのようになる。自分のハートを操作して魔法を避けるというのが基本となり、動かないことで相手の攻撃を避けることができたり、あるいは自分のハートからショットを撃ったり、時にはクイズに挑戦することになったりと、飽きさせないような仕掛けが山ほど存在する。

また、「こうどう」や「みのがす」といったコマンドでは相手との戦いを避けることができる。モンスターは人間に対して敵意を持っていない者も多く、説得するなり不満を解消してあげれば見逃すことも可能。相手を倒すか見逃すかもプレイヤー次第であり、行動によって展開は細かく変化する。

Undertale

BGMもかなり高く評価されているポイントだ。トリエルの心境が表されたかのような「Heartache」、マヌケでありながらもその思いの強さを感じ取れる「Dummy!」などは、聴けばそのシーンがまぶたの裏に浮かぶことであろう。特殊な条件を満たさないと聴けない「Spear of Justice」や「MEGALOVANIA」も素晴らしい。

セリフ回しや細かなイベントを見ると、特に『MOTHER2 ギーグの逆襲』を思い出すかもしれない。ゴミ箱に入れられたハンバーガーやボーダーのシャツにやたらと言及する場面、ダジャレのような言葉遊び、細かいオブジェクトにもいちいち面白いコメントがついていたりと、本当に丁寧に作られていることが伺える。

Undertale
「テミー」という猫のようなモンスター。喋り方があまりに特殊なため、日本語訳には相当の苦労があったと思われる。

このようにテキストが非常に重要なゲームであるためローカライズに関しては少し不安があったのだが、その点はかなり良い出来栄えであると言えるだろう。違和感のある箇所はほとんどなかったし、グラフィックの変更が必要な部分や、とある場面で聞けるごく一部の音声もきちんと日本語化されていた。

非公式日本語化MODを使用してPC版をプレイした人からは違和感が指摘される可能性もありそうだが、致命的な問題にはなりえないと思われる。発売前に話題になったサンズの“オイラ”騒動もきちんと理由があってのこと。この日本版から始める人はまったく気にしなくていいだろう。

Undertale
サンズのセリフは特別なフォントで表示される。英語版では「Comic Sans」という評判の悪いフォントを使われていることを顧み、あえてダサいフォントを採用したのだと思われる。

ただしPS4版では、終盤で発生するとある演出が確認できなかった。これはかなり挑戦的なもので、プレイヤーによっては演出だと理解されない可能性すらあるものなのだ。そのためプレイステーションプラットフォームでは再現できなかったと思われるのだが、作品としては非常に重要な演出だったのでカットされてしまったのであれば残念である。こればかりは家庭用ゲーム機という足かせを恨む。

“プレイヤーをゲームの世界に取り入れる”という手法をさらに一步進めた作品

Undertale

さて、「UNDERTALE」の素晴らしさを語ったが、これだけではただ要素が優れているだけのRPGである。本作は絶賛されているのはそこから更に素晴らしい要素があるからで、それは一体何かと言えば、ゲームを遊ぶプレイヤーを強く意識しているという点だ。

本作はふつうのRPGに慣れきったゲーマーを驚かせるような仕掛けを盛り込んでいる。丁寧に描写されたモンスターたちや世界、そこにメタフィクションという演出が加わることによって、プレイヤーはモンスターが住む地下世界が本当に存在するかのように思わされてしまうことだろう。いや、これはありきたりの褒め言葉などではない。本当にそう思わされるかのような仕掛けがあるのだ。

Undertale

この部分に関してネタバレしつつ丁寧にレビューすることもできるだろうが、今回はあえて語らないことを選びたい。この素晴らしさは語っても陳腐になるだけだろうし、何より「UNDERTALE」をプレイすることで最も効果的に感じ取ることができるだろうから。

本当に「UNDERTALE」は単なるゲームではない。ここにはひとつの世界が息づいているのだ。RPGへの愛、そしてRPGを遊ぶゲーマーへの愛も内包した世界なのである。それをここまでのレベルで実現させたRPGは「UNDERTALE」以外に見たことがない。