手描きアニメーションが美しいメトロイドヴァニア「Sundered(サンダード)」は、クトゥルフをモチーフにしており、足を踏み入れるたびに世界が様変わりする。歩みを進めるために古代の力を得てもいいし、誘惑をはねのけて茨の道を進んでもいい。ただし、選択の結果によって訪れる結末が変わるので慎重さも必要だ。

物語は猛烈な砂嵐のなかを歩く主人公エシが突如、触手のようなものに飲み込まれて始まる。砂漠の地下へと至ったエシは「輝くトラペゾヘドロン」の声に導かれて、広大な洞窟を探索していく。

基本的なプレイは、「メトロイド」や「悪魔城ドラキュラ」といった探索型2Dアクションのそれにあたる。横スクロール型のマップを踏破しながら特殊能力をアンロックし、徐々に探索できる範囲を広げていくというものだ。3体いるボスはどの順で倒してもいいが、実際はある程度固定化されていると言ってい。

正直、自動生成と探索型2Dアクションという食い合わせはあまり期待していなかったが(理由は後述する)、トレーラーで確認できる細やかなアニメーションや巨大なボスとの戦闘は魅力的だったし、アクションにフォーカスが当たることで開発チームが以前手掛けた「Jotun」の問題点(「Jotun」も私がレビューしている)をクリアできそうな予感もあった。

力押しがまかりとおり、刺激に欠ける戦闘

プレイをはじめてまもなく、希望はあっさりと打ち砕かれた。

「Sundered」は時折アラームのような音が鳴り、画面を埋め尽くさんばかりの敵群が出現するのが大きな特徴だ。ローグライクにおけるモンスターハウスに似ており、足を止めようものなら瞬く間に猛攻にさらされる。ただし、エリアを遮断されるわけではないので逃げることも可能だ。

ゴリ押しで倒した感触が強く、アクションで敵をねじ伏せたというカタルシスに欠けてしまっている

敵群に立ち向かうと途端に防御手段の貧弱さが目につく。ライフの代わりにダメージを肩代わりしてくれるシールドに、動作中ほぼ無敵になる回避行動があるものの、すべての攻撃を回避するのはあまり現実的ではないのだ。

回避行動は連続使用できるが、上限があって使い切ったらリチャージを待たなければならないし、シールドの自動回復だってそんなに早くない。結果的にゴリ押しで倒した感触が強く、アクションで敵をねじ伏せるカタルシスに欠けてしまっている。

これはボス戦でも同様で、被害の小さな攻撃をシールドで受けつつ、回避行動を使って致命傷となる攻撃を避ける戦い方になりがちだ。アクションは美しいのに、その戦いはあまりに泥臭い。「Sundered」のゲームプレイはよく言えばスリリングだが、実際は困難な障害の前にストレスを感じてしまうことが多かった。

アクションゲームとしての味わいを薄める成長要素

成長要素は救済措置として働く一方で、戦闘を大味に感じさせる要因にもなっている

さて中盤に差し掛かったであろうかというとき、「このゲームはRPGなのだ」と気づいた。「Sundered」には成長要素があり、育成によって打開できる局面が多いのだ。これは適正に育成が行われていないと難易度が跳ね上がってしまうことを意味する。「メトロイド」だと思ってザコ敵の無視を重ねてしまうと足をすくわれてしまうわけだ。

敵を倒したり、財宝が入った箱を破壊したりすると経験値に相当する「シャード」が得られる。シャードはスキルツリーのアンロックに使え、能力値の強化や体力回復アイテムの所持数増加といったさまざまな恩恵を得られる。しかし、この成長要素が救済措置として働く一方で、戦闘を大味に感じさせる要因にもなっている。

Sundered
スキルツリーは「トラペゾヘドロンの樹」と呼ばれ、能力値の上昇を主としている

他方、強制的に倒すべき敵が極めて少ないことで、育成ペースは完全にプレイヤーの手に委ねられている。自由度が高いと言えば聞こえはいいが、バランスを丸投げにしたにも等しいその感触には大きな不満を覚えた。アクションゲームの体裁をしているのに、指先のテクニックで困難を打開するゲームからは程遠いデザインとなってしまっている。

スキルツリーのほかにPerk(常時効果を発揮する能力)もある。Perkはミニボス(中ボス)を倒したときや特定の場所で得られ、最大3つまでセットできる。ほとんどのPerkはメリットとデメリットが抱き合わせになっているうえ、どちらの効果も大きいので選択の悩ましさがあり、キャラクター育成を楽しいものにしている。

Sundered
Perkにはかなりピーキーな性能のものもある

ボス戦はともかく、多様性に欠けるロケーションやザコ敵は魅力に乏しい

「Sundered」には大きく分けて3つのエリアがあり、各エリアを結ぶように中央には拠点「ゼイクセイスズ」が存在する。死亡時はこの拠点から復活し、スキルツリーのアンロックも拠点で行う。ポーズメニューから拠点へと戻ることも可能だ。

なお、私はレビューにあたってPC版をプレイしているが、エリア切り替え時のロードで1分30分程度の時間がかかった。エリアは3つだけなので頻繁にあるものではないが、その長さは少々気になるところだ。

Sundered
マップを開いているあいだも時間が停止しないため、敵群に襲われているときはおちおちマップも開けない

3つのエリアはそれぞれ印象が異なるものの、エリア内での大きな違いはあまり感じない。フィールドに合わせた独自ギミックが少ないことも影響しているだろう。自動生成の弊害かもしれないが、いずれにしてもうまく言っていないのはたしかだ。

冒頭で述べたように、探索型2Dアクションと自動生成という組み合わせに私は懐疑的だった。それはこのゲームジャンルが持つ「マップを踏破する楽しさ」が自動生成によって損なわれるのではないかと懸念したためだが、結論から言うとそれは杞憂に終わった。

メトロイドヴァニアらしいマップ踏破の楽しさは自動生成があろうとも消えていない

本作のマップは大きな部屋をつなげてできている。大部屋には小さな部屋がひしめきあっており、小部屋の位置関係は死ぬたびに変わるが、大部屋の位置関係は変わらない。ボスや特殊能力を得られる場所(たとえば2段ジャンプを獲得できる祭壇)といったものも位置が固定されている。結果的にメトロイドヴァニアらしいマップ踏破の楽しさは自動生成があろうとも消えていない。これは幸いだ。

上の動画はまったく同じエリアの比較動画だ。自動生成の恩恵はプレイヤーの安定した行動パタンをつぶせることだろう。「ここはこのタイミングでジャンプして」とか「この距離から回避行動すればちょうど攻撃を回避できる」といったものが減れば、新鮮なプレイを継続して提供しうる。とはいえ実際には似たようなパターンの部屋が多く、思ったほどの多様性を感じさせてくれなかっった。まだまだ発展の余地を残しているという感触はあるので、次回作やほかのタイトルでの同様の取り組みに期待したい。

ザコ敵の種類が少なすぎるという問題もある。色違いのものも存在しているが単に固くなっただけという印象で、水増しの域を出ていない。さらに攻撃パターンが単調で、プレイヤー側もそんなに攻撃のバリエーションがあるわけではないので味気なさを覚えてしまう。

また、たくさんの敵を同時に出す都合なのか、それぞれが勝手気ままに攻撃を連発してくるため、パターンを読んで攻略する楽しさが薄い。結果、局面を打開する楽しさをほとんど感じられず、戦闘を刺激のないものにしてしまっている。

ボスは巨大で迫力がある。かなり引きの画面となるため、スケール感も十分だし、アニメーションも豊かで見ていて楽しい

前作の「Jotun」同様、ボスは巨大で迫力がある。かなり引きの画面となるため、スケール感も十分だし、アニメーションも豊かで見ていて楽しい。ただし、攻撃するべきターゲットは高所にある場合が多く、空中戦になりがちなのは好みがわかれるところだろう。スケール感を考慮すれば空中戦が主軸になるのは当然だと思うが、先述のように雨あられのように攻撃が降り注ぐため、キャラクターの空中制御とあまり相性がよくなかった。

ストーリーにも絡み、選択の重みもあるエルダーシャード

本作はマルチエンディングを採用している。ボスクラスの敵を倒すとエルダーシャードの欠片を入手でき、欠片3つでエルダーシャードがひとつ完成する。これを祭壇に捧げることで、2段ジャンプや空中ダッシュなどの既存の特殊能力を強化できるのだ。その代償として主人公エシの身体は古の力に蝕まれていき、最終的にはそれがストーリー分岐の決め手となる。

Sundered
エルダーシャードは焼却することで破壊できるが、メリットが極めて少ない

形骸化しやすいシステムであるが、「Sundered」ではエルダーシャードによって得られる恩恵をかなり強めに設定しているのが巧みだ。2段ジャンプを強化すれば滑空できるようになり、横方向しかできなかった空中ダッシュは好きな方向へとダッシュできるようになる。

分岐によってエンディングやボスも変わり、クリアするまで初回で15時間程度かかったことも考えれば(しかも本作はオートセーブだ)、慎重な選択が求められる。

「抵抗せよ。あるいは受け入れよ。」というキャッチコピーに現れているこの選択がおもしろいだけに、本作がアクションゲームとしてのカタルシスに欠くのは非常に残念だ。驚くほどの数が襲いかかってくる敵群や自動生成といった数々の試みは意欲的だが、全体としてのまとまりがない。

Sundered
紫の結晶に囲まれたエリアでは、輝くトラペゾヘドロンが話しかけてきて舞台背景を知ることができる