あの伝説の8ビット騎士がSwitchにやってきた! 「ショベルナイト」はIGN JAPAN ゲームオブザイヤー2016において、2Dアクション部門で最優秀作に選ばれた。横スクロールアクションの秀逸なゲームデザイン、絶妙な難易度、レトロな8ビットグラフィックとクールなチップチューンのBGMは全世界で評価され、本作は早くも古典になりつつある。

ショベルは魂そのもの。

「そんな言わずと知れた名作を今さらレビューされても」と思うかもしれない。だが、すべての追加コンテンツを収録したSwitch版はショベルナイトだけの冒険ではない。

「ショベルナイト」に含まれるコンテンツを簡単に説明しよう。「ショベルナイト ショベルオブホープ」は日本で2016年6月に3DSとWii U向けにリリースした本編にあたる作品で、ショベルナイトご本人が主人公だ。「プレイグオブシャドウズ」は2016年9月に配信された追加コンテンツで、本編ではボスキャラだったプレイグナイトを操作する。2017年4月から配信されている「スペクターオブトーメント」は前日譚にあたり、プレイヤーはスペクターナイト(こちらも本編ではボスキャラ)としてゲームを進める。

ショベルバカ一代

Shovel Knight

ショベル1本でどんな強敵にでも立ち向かうショベルナイトはなかなかストイックなやつだ。昨今のアクションゲームでは主人公が様々な武器を操り、超人的な能力を扱えるのが多くなっているかもしれないが、我が8ビット騎士は基本的にショベル一筋の男だ。サムライの刀がそうであるように、彼にとってショベルは魂そのものだと言ってよかろう。

まるで二重人格者のようなレベルデザイン

ショベルの使い方は大まかに通常攻撃と上からの突きが基本だ。いずれも敵との戦闘はもちろん、障害物の破壊にも役立つ。上から突いた場合は跳ね返るので、何かに飛び移るときにも便利だ。例えば、通常ジャンプでは届かない場所は、敵を踏み台にして突くとたどり着けるかもしれない。

Shovel Knight

このシンプルな操作系を際立たせているのがレベルデザインだ。本作はレベルデザインそのものがチュートリアルであり、プレイヤーが自然と操作に慣れ、攻略法を悟るようにできている。だが、親切な一面を持つと同時に、プレイヤーが悶絶しそうになるほどの試練を与えるのもまたレベルデザインだ。まるで二重人格者のようだと思う。

ショベル魂が備わっている人にはぜひ縛りプリに挑戦してもらいたい。

いくらショベルを愛する男でも、ゲームの中盤以降は多少のパワーアップがないとキツイ。本作の「村」ではショベルの特技、特殊効果を持つアーマー、レリックと呼ばれる魔法を消費するアイテムを購入できる。リンクのマスターソードのように体力が満タンだとショベルから衝撃波を放てる特技、魔力の最大値を上げるアーマー、空中を素早く移動できるプロペラダガーなど、便利なアップグレードが難しいステージでプレイヤーを手助けしてくれるだろう。もちろん、縛りプレイでこれらを一切使わずにゲームをクリアすることも可能だ。ショベル魂が備わっている人にはぜひ挑戦してもらいたい。

Shovel Knight

各ステージにはゴールドが落ちている。ショベルナイトはゴールドでパワーアップやアップグレードを購入することができる。ステージの途中で死ぬとショベルナイトは拾ったゴールドの一部を落としてしまう。チェックポイントからやりなおして死んだ場所に戻れば取り戻せるが、その前に死ぬとゴールドは永遠に消える。ソウルシリーズのソウルを失うシステムとかなり似ているが、そこまでシビアではない。ゴールドがなくてもそこまで困らないし、全部なくなるわけではない。

いくつかの捻りがあるとはいえ、本編のゲームシステムは追加コンテンツにも当てはまる。

ショベルの道を捨てて悪い奴になろう

Shovel Knight

「ショベルナイト」はキックスターターキャンペーンとしてスタートしたが、ボスキャラがプレイアブルになるストレッチゴールがあった。その約束を果たすべく、開発元のYacht Club Gamesが最初に配信したのは「プレイグオブシャドウズ」というDLCだ。こちらではプレイグナイトとしてプレイできるだけでなく、ストーリーも新しくなっている。ステージは基本的に同じだが、レベルデザインはプレイグナイトの能力に合わせて細かくチューニングされている。完全新作ではないが、かなり濃厚な追加コンテンツであることは間違いない。

プレイグナイトはボムの使い手だ。弾数は特にないので、とても大きなポケットを持っているに違いない。長押しするとボムを投げた後にプレイグナイトは点滅する。ボタンを離すと「ボムバースト」という、爆発の勢いを利用して一気に飛び出す技が発動する。プレイグナイトは2段ジャンプもできるので、ボムバーストとうまく連携して使うと、ショベルナイトよりもはるかに遠くまで飛ぶことができる。しかも、空中で爆弾を投げると下にいる敵を攻撃できるだけでなく、プレイグナイトが減速するので着地のミスを避けられる。

Shovel Knight

操作するキャラクターが変わるだけで、ゲーム性が新しく感じる。だが、それでもなぜかすごくショベルナイトしている感じがする。同じドット絵とBGMによって構築されている世界観も大きいが、レベルデザインと絶妙な難易度もショベルナイトらしさを演出する上で欠かせない部分だ。

ショベルナイトのエッセンスはそのゲーム性と世界観にあり、物語はおまけにすぎない。

プレイグナイトはショベルナイトと微妙に違う道を辿りながら、ときどきすれ違う点も面白いストーリーテリングの手法だ。だが、僕はシールドナイトを救うために冒険するショベルナイトのストーリーにも、最強のポーションを作るために旅するプレイグナイトのストーリーにもほとんど興味がなかった。ショベルナイトのエッセンスはそのゲーム性と世界観にあり、物語はおまけにすぎないと思う。個人的には、ボス戦に入る前の会話やそのほかのストーリー演出も不要で、昔のファミコンゲームみたいに台詞がなくてもいいくらいだ。

だが、「スペクターオブトーメント」をプレイしてから、僕の考えが少し変わった。

カマこそ最強

Shovel Knight

プレイグナイトに続いて、スペクターナイトが主人公となったDLCも配信された。少しばかりショベル疲れしていた僕は、これにはすぐに手を出さなかった。きっと面白いだろうなとは思っていた。だが、いくら性能の異なるキャラクターを使えるとはいえ、もう一度同じ道を辿る気にはどうしてもなれなかった。

「スペクターオブトーメント」は「プレイグオブシャドウズ 」と全く性質の異なるDLC。

読者には僕と同じ勘違いをしないでもらいたい。「スペクターオブトーメント」は「プレイグオブシャドウズ 」と全く性質の異なるDLCだ。主人公が新しいのはもちろん、本DLCはステージも一新しているし、知らない敵もいた。ゲームの基本的な構造も変わっているが、それでもやはりショベルナイトだった。

これまでは「スーパーマリオブラザーズ3」を彷彿とさせるワールドマップがあり、プレイヤーは駒を動かすようにステージに移動しなければならなかった。だが、「スペクターオブトーメント」はもっとストレートだ。ハブとなる場所があり、その奥にある大きな鏡から各ステージにテレポートできる。ステージを攻略する順番は自由なので、「ロックマン」を想像してもらえばわかりやすい。探索の要素は少なくなったけれど、代わりに本作の最も美味しい部分であるゲームプレイにすぐに入れるようになっている。

Shovel Knight
スペクターナイトのゲームプレイは魚介系のだしがよくきいた濃厚醤油ラーメンと同じくらい美味だ。

そして、スペクターナイトのゲームプレイは魚介系のだしがよくきいた濃厚醤油ラーメン(もちろんコシのある縮れ麺も絶品!)と同じくらい美味だ。ショベル道の修練生として慎むべき表現なのかもしれないが、筆者はショベルナイトよりも遥かに爽快で楽しいと思っている。

スペクターナイトのメインウェポンはカマだ。通常攻撃の「斬る」はその素早さを別にすればあまり変わったところのない物理攻撃だ。他の能力としては壁を登ることができ、壁ジャンプも可能だ。プレイグナイトがボムバーストで横の移動距離を伸ばしたのに対して、スペクターナイトは登れる壁さえあれば縦に進行するステージで強い。

なんといっても「ダッシュ斬り」という技がスペクターナイトの醍醐味だ。敵や特定のオブジェクトに向かって通常攻撃を出すと、スペクターナイトは飛び出すように斬りかかる。遠くから攻撃ができるだけでなく、敵・オブジェクトを突き抜けて移動できる。スペクターナイトがターゲットより上か下にいるかによって、突き抜ける方向が異なり、これが実に絶妙なゲームプレイを生み出している。例えば、より高いプラットフォームに移動したいのに、自分より低いところにダッシュ斬りのターゲットがあるとする。そのままダッシュ斬りをしてもプラットフォームには登れないが、いったん飛び降りて死ぬ前にダッシュ斬りすれば、上方向にあるターゲットを攻撃して擬似的なジャンプとなってプラットフォームにたどり着ける。

Shovel Knight

スペクターナイトの魅力はまだまだある。例えば、彼は一部の床の上をグラインドできるのだ。グラインドが長く続くシークエンスはまるで「スーパードンキーコング」のトロッコステージのようなフィールがあり、ゲームプレイにさらなるバラエティを与えている。

Shovel Knight

ショベルナイトのレリックにあてはまる「秘宝」というパワーアップアイテムも実に面白い。遠距離攻撃が繰り出せるブーメランから、分身を使って戦うシャドウミラーまである。全部アンロックすればかなり多彩なアクションが可能となる。

「スペクターオブトーメント」は本編の前日譚なので、当然ストーリーも違う。だが、ステージまで新しく作られているのは驚きだ。もはや無料DLCの領域を超えている。新しいステージは本編をうっすらとベースにしており、ところどころ「ここ来たかも!」となるポイントがある。これらは前日譚という設定に説得力を持たせている。しかもボスの行動は新しくなっているし、各ステージのBGMもリミックスされている。

Shovel Knight

「スペクターオブトーメント」の魅力はこれだけでもう十分だが、Yacht Club Gamesはストーリーテリングにも新しい捻りを加えている。ネタバレを避けたいので詳細は書かないが、ゲームの途中で何度かプレイアブルの回想シーンが発生し、これを通してスペクターナイトに感情移入ができるようになる。台詞を増やさずストーリーを膨らませる手法はまさにゲーム的だ。

やりこみ要素

Shovel Knight
ショベルに自信のある人にとっても歯ごたえのあるチャレンジ

3つのキャンペーンをクリアするだけでも15時間はかかるだろう。それぞれのキャラクターのストーリーをクリアすると「チャレンジモード」がアンロックされる。特定のアクションを求めるこれらのチャレンジはメインストーリーよりもはるかに難しく、ショベルに自信のある人にとっても歯ごたえのある内容となっている。

「ショベルナイト ショベルオブホープ」はCo-opに対応している。以前まではamiiboがないとプレイできなかったが、Switch版のリリースと合わせてその規制がなくなった。

 

これだけのコンテンツが2160円(税込)という破格の値段で提供されている。素晴らしいショベル精神としか言いようがない。

Wii Uや3DS、または他のプラットフォームの海外版を持っているユーザーは無料でSwitch版に収録されたコンテンツをダウンロードできる。Switchでの操作性は快適で、Joy-Conだけでプレイしても基本的に問題はない。だが、テレビモードでプレイしているときはProコントローラーがあるとなおよい。本作は携帯モードでのプレイにも適しており、3DSより遥かに大きい画面で8ビットのアートを眺めるだけでも楽しい。